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マリア像の呪縛
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しおりを挟む「茉莉も可哀そうにな。
あんな根も葉もない、ひどい噂をたてられて」
「あなた、あの子の言うこと、信じていらっしゃるんですか。
だったら、そう言っておやりになればいいのに」
「賢い子だから、私達の気持ちくらい、理解しているだろう。
まぁ、人の噂も七十五日。
茉莉も浮わついていたのは事実なのだから、ちょっと釘を刺しておいただけだよ」
その釘が心の最も深いところにまで貫通し、消えない傷を残してしまったとは、父親は夢にも思わなかった。
それに、噂はたしかに2、3ヶ月で沈静化したものの、そのあいだ、茉莉はたったひとりで、死にたいほどの屈辱感と闘うはめに。
中学入学以来の敬語作戦のおかげで、よくも悪くも孤独だった茉莉に、直接、非難や中傷を浴びせる者はいなかったものの、自分を見る目つきや、ひそひそと何か話す声から、面白おかしく軽蔑されていることは、痛いほど伝わってきた。
何よりつらいのは、両親からも軽蔑されてしまったのでは、と感じるようになったこと。
茉莉は名誉を挽回すべく、勉強も部活も、さらには生活態度も、完璧にしようと頑張った。
そして、二度と疑われることのないよう、男子とは必要最低限でしか、話さないことに。
高校受験の際、地元に近い公立の男女共学校ではなく、遠く離れた都会にあるカトリック系の私立女子高を志望したのも、男子との接点をなくすためだ。
「浮わついたことを考えず、勉学にいそしみながら、神の教えも学び、マリア様にちなんだ茉莉という名前にふさわしい人間になりたい」
そんな決意を、父親は満足そうに聞き入れ、茉莉は少しだけ赦された気がした。
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