讃美歌 ② 葛藤の章 「崩れゆく楼閣」～「膨れ上がる恐怖」

教理VS病理

（５）

どうしよう。
私、精神科で診てもらわなきゃいけないほど、頭がおかしいのかな。

そんなはずない。
学校の成績だって悪くないし、毎日、考えながら生活できている。
ダイエットを始めてから、嘘つきになってしまったけど、それは痩せるために、どうしても避けられないこと。
必ず懺悔はしているし、その嘘で誰かに迷惑かけているわけでもないわ。

とつおいつ、心のなかで葛藤するうち、病院から駅に向かうバスのなかで、ふと、さっき言われた言葉がよみがえった。

「ここは病院の診察室で、あなたは患者として来ているのだから、医師である私の指示に従ってください」

だとしたら……

今いる場所は病院でも、診察室でもない。
私はもう患者ではないから、あの先生の指示に従う必要もないんだわ。

バスが前に進み、病院から離れるほど、茉莉の心は呪縛から解放されたようになり、電車に乗る頃には、決意が固まった。

さっきのことは、なかったことにしよう。
母に言わなければ、済むことなのだから。

医師との会話を、診察室という密室で起きた闇の取引のように、葬り去ることにしたおかげで、茉莉の心は完全に自由を取り戻す。

そして、病院対策のため、朝いつもより多く食べたのに、運動していないことを思い出し、ウォーキングをすることに。
途中駅で降り、２時間はかかるだろう自宅への道を歩き出した。