讃美歌 ② 葛藤の章 「崩れゆく楼閣」～「膨れ上がる恐怖」

教理VS病理

（８）

最近「大丈夫？」という言葉をかけられることが増えた茉莉は、自分がそう言われることに納得がいかないながらも、そう見られている存在なのだということは、うすうすわかりつつある。

でも、この子はあの日、痩せたことを褒めてくれて、ダイエットの背中をさらに押してくれたくらいだし、痩せすぎでおかしい、とまでは思っていないはず。
ちょっと心配になっただけなんだわ。

そこで、元気なことを証明するために、
「大丈夫？　ってどういう意味かしら。
今も２時間ほどウォーキングをして、ストレッチで体をほぐしていたところなんですよ」

しかし、後輩は今度は耳を疑うことに。

この炎天下で２時間もウォ－キングなんて、やっぱり変だよ。

「あの……先輩って、今もダイエット中なんですか」

「はい、なかなか徹底できなくて、理想の体型には程遠いんですが」

そう言って笑った茉莉の顔に、後輩は背筋がゾクッとした。

口のまわりの皺も、骨の動きまでわかる鼻も、それに何より、自分に向けられているにもかかわらず、どこか違う世界を見つめているような目に、恐怖を覚えて。

「先輩はもう、これ以上痩せなくていいですよ。
っていうか、もっと太ったほうがいいんじゃないかと……
あ、すみません。
あたし、別の場所で友達と待ち合わせしてるんで、これで失礼します」

友達と待ち合わせ、というのは、とっさに思いついた嘘で、後輩はそれ以上、茉莉の姿を見ながら会話することに堪えられなかっただけなのだが。

不自然なほど唐突に立ち去った後姿に、ぼーっと目をやりながら、茉莉は気づいた。

さっきのあの子の目、私を奇異の目で見る人たちと同じだ。
どうして？
前はあんなに褒めてくれて、もっと痩せたら雑誌に出られる、みたいなことまで言ってくれていたのに……