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教理VS病理
(10)
しおりを挟むしかし、翌朝、いざ食べようとすると、茉莉の決意は、夏の陽射しにやられた花のように萎れてしまった。
いつもの豆乳やミニトマトに加え、前日の朝、病院で元気に見せる目的で食べたかぼちゃのサラダを、また食べるつもりでいたのに、病院に行くわけでもない日に食べる必要などないように思えて。
それに、明日は美尋と会う約束があり、その分、勉強に集中するつもりだから、運動にあてる時間もあまりない。
また、美尋との約束には、買ったばかりの新しい夏服で行くことにしていて、太って、それが似合わなくなるのもイヤだった。
そうだ、美尋さんと会うのも久しぶりだから、今の体型をどう思うか、きいてみよう。
でも、会えるのは楽しみだけど、ちょっとだけ億劫。
そのために、自分で決めたルール、崩さなくてはいけないのだもの。
ダイエットを始めて以来、茉莉は痩せるためのルールを作り続け、極力、それを遵守しながら生きている。
その姿は法治国家の民というより、宗教国家の民のようなストイックさで、ルールは生活を支える法律より、人生を支配する教理に等しい。
摂食障害の専門家が見れば、その教理こそが病理だと言うだろうが、茉莉のなかで、その両者は相容れず、教理を信仰することと、病理が深刻化することはまったくの別物。
信仰を迫害する勢力とは、断固戦わなくてはならず、その最たる者こそ、母親にほかならない。
昨夜は顔を合わせずに済んだが、そろそろ起きてくる頃。
さしあたって、昨日、病院で起きたことをどう説明するか、というより、いかにして嘘でごまかすか。
すでに台本を書き上げている茉莉は、頭の中でリハーサルを始める。
本番で、ミスなく演じるために。
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