讃美歌 ② 葛藤の章 「崩れゆく楼閣」～「膨れ上がる恐怖」

殉教と安息と

（２）

翌朝、茉莉は４時前に起き、２時間ほどジョギングをしたり、散歩をしたり、体操をしたあと、シャワーを浴びて、体重計に乗った。

その数値は……

29.7キロ。

すごい。
私、とうとう、30キロ切っちゃった。
昨日からのカロリー摂取と消費の流れから考えて、もしかして、という予感はあったけど……
20キロ台になるのは怖い気もしていたものの、
さっきもそれなりに動けていたし、意外と大丈夫みたいだ。

鏡を見ると、鎖骨がくっきりと浮き出ているのが、海外のモデルみたいで、茉莉にはちょっと誇らしい。
今日、美尋に見てほしくて着ていく服のためにも、それは自信につながることだ。

待ち合わせは、10時に県立図書館。

茉莉が「お会いする前に、本を返しておきたいんです」と言ったら、美尋は「じゃあ、そこで落ち合わない？」ということに。
返す本はキリスト教に関するものが３冊で、勉強に関するものが２冊、そして、残りの５冊はダイエットや摂食障害に関するもの。
読書の方向性がその人間の心をあらわすものだとしたら、その内訳はまさに、今の茉莉を象徴している。

開館時刻の９時にちょうど間に合うように、家を出て、図書館で本を返し、美尋と会ったあとの帰りに借りる本の目星をつけると、待ち合わせの10分ほど前。
そのまま館内にいてもよかったが、冷房の効いた空気は、上着を羽織っていても堪えられないほど茉莉にとっては寒く、玄関を出たところで待つことにした。
そこだと、上着なしでちょうどいい感じだったから。

数分後、美尋が現れたのを見つけると、軽く会釈をして、笑顔で手を振る。
その姿を見た美尋が、愕然としていることには気づかずに。