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禁断の果実
(3)
しおりを挟む茉莉はその化け物、世間でご馳走と呼ばれているものを、人生最速の勢いで平らげた。
味わったのは、ひとくちめだけ。
ほんの一瞬、美味しさも感じたが、その直後、身の毛もよだつような恐怖が襲ってきた。
高級な牛ステーキだけあって、とろけそうな食感とほとばしる肉汁。
その分、あっという間に胃腸で消化され、すぐに体の隅々にまで行き渡って、脂肪になってしまいそうで。
あとはほとんど噛まずに飲み込むように食べきり、ドリンクコーナーで水をコップ3杯、一気に飲み干すと、トイレに直行。
便器に顔を近づけ、左手を口の奥に突っ込む。
しかし……
本で読んだようには、吐き気を催さず、何度か試みてもうまくいかない。
そこで、いったん自分のテーブルに戻り、スプーンを持って、トイレに再び駆け込むと、手のかわりにそれを突っ込んでみる。
すると……
ウ、ウエッ。
期待していた吐き気がこみ上げ、胃の中のものも上がってきた。
グ、グエッ、グエーッ。
口からあふれ出し、便器の水に落ちたもののなかに、さっき食べたばかりの肉の断片を見つけた茉莉はちょっとだけ安心。
でも、これだけじゃダメ。
せっかく吐けたのだから、全部出し切らなきゃ。
次は手でもうまくいき、計四回、吐いたところでようやく、ほどほどの安心にたどりついた。
胃のあたりを右手で押さえると、いつもの平べったさ。
肋骨に触った感触も悪くない。
大丈夫、ちゃんと吐けたんだわ。
個室を出て、口をゆすぎながら鏡を見ると、そこに映った自分の顔はひどく暗く感じられたが……
仕方ない。
私は大変な罪を犯してしまったのだから。
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