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禁断の果実
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しおりを挟む恐竜が尻尾に何か当たっても、脳に伝わるまで時間がかかるように、茉莉はなかなか事態を把握できず、次に口を開いたのも母親。
「あっ、いきなりごめんなさいね。
何度か声をかけたのだけど、返事がないから、ドアを開けてしまって」
そこでようやく、茉莉は何が起きているのかを悟り、頭を必死に回転させて、
「いえ、私こそ、気づかなくてごめんなさい。
しかも、変なところをお見せしてしまって……
今、服を着ますね。
……それで、何かご用ですか」
骨ばかりの腕と脚が、長袖の上着と長い丈のパンツで隠されたことで、母は少しホッとしたが、痛ましい姿の残像は容易に消えるものではない。
一方、茉莉も服を着たことでいくらか正気に戻ったものの、それと引き換えに、痴漢現場を取り押さえられた会社員のような、これでもう、人生が終わってしまうかのような恐怖が襲ってきた。
どうしよう。
ダイエットに干渉されるのがイヤで、必死にカムフラージュしてきたのに。
絶対、何か言われる。
まさか、もし、体重をきかれたりしたら、何て答えればいいの。
しかし、魔に憑かれたようにうつろだった娘の目に怯えが宿り、半開きになったままの唇が震えだすのを見て、母は胸が締めつけられるような感情にとらわれ、
「ううん、特に用事ってわけではないのだけど……
あなた、今すごくつらいんじゃないの?
大丈夫?」
自分でも意外な言葉を、意外なほど優しい口調で発していた。
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