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禁断の果実
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しおりを挟むところが……
堅く誓ったはずの決意は、痩せ願望あるいは肥満恐怖という荒波により、もろくも崩れ去った。
むしろ、バイキングで過食衝動に近いものを経験したことで、その再現が不安になり、前は食べられたものすら食べられない。
食べなきゃと思えば思うほど、食べちゃダメだという気持ちに引っ張られ、それはまるで、潮の流れに逆らって泳ごうとするものの、逆に押し流され、目標が遠のくばかりという不毛な構図。
それでいて、食欲がないわけではなく、茉莉は断続的に、恐ろしい、しかし、普通の人にとってはごくまっとうな思いに襲われた。
バイキングのときのように、いっぱい食べられたらなぁ。
それに、あの牛のステーキ。
美味しいと思えたのは最初の一瞬だけだけど、すごく幸せだったわ。
だが、茉莉にとってほとんどの食べ物は、もはや食べるためではなく、恐れ、憧れ、想像するための存在にすぎない。
体重は当たり前のように減っていき、5日後の朝には28.5キロに。
体力も落ち、立ちくらみや手足のしびれもひどくなって、勉強にも運動にも集中できない。
なんとかしなきゃ。
あたかも月のない夜の海であてもなくもがきながら、溺れそうな茉莉は一本の藁をつかんだ。
バイキング。
バイキングなら食べられるんじゃないかしら。
だって、あんなに食べたのに吐いたおかげで、体重増加は100グラム。
それでも増加はイヤだけど、もっとうまく吐けば、プラスマイナスゼロにできるかもしれない。
吐くことを前提に食べるなんて、最低な方法。
だけど、体重をキープする方向にもっていくには、もう、それしかないんだもの。
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