讃美歌 ② 葛藤の章               「崩れゆく楼閣」~「膨れ上がる恐怖」

エフ=宝泉薫

文字の大きさ
64 / 73
禁断の果実

(9)

しおりを挟む

ところが……

堅く誓ったはずの決意は、痩せ願望あるいは肥満恐怖という荒波により、もろくも崩れ去った。
むしろ、バイキングで過食衝動に近いものを経験したことで、その再現が不安になり、前は食べられたものすら食べられない。
食べなきゃと思えば思うほど、食べちゃダメだという気持ちに引っ張られ、それはまるで、潮の流れに逆らって泳ごうとするものの、逆に押し流され、目標が遠のくばかりという不毛な構図。
それでいて、食欲がないわけではなく、茉莉は断続的に、恐ろしい、しかし、普通の人にとってはごくまっとうな思いに襲われた。

バイキングのときのように、いっぱい食べられたらなぁ。
それに、あの牛のステーキ。
美味しいと思えたのは最初の一瞬だけだけど、すごく幸せだったわ。

だが、茉莉にとってほとんどの食べ物は、もはや食べるためではなく、恐れ、憧れ、想像するための存在にすぎない。
体重は当たり前のように減っていき、5日後の朝には28.5キロに。
体力も落ち、立ちくらみや手足のしびれもひどくなって、勉強にも運動にも集中できない。

なんとかしなきゃ。

あたかも月のない夜の海であてもなくもがきながら、溺れそうな茉莉は一本の藁をつかんだ。

バイキング。
バイキングなら食べられるんじゃないかしら。
だって、あんなに食べたのに吐いたおかげで、体重増加は100グラム。
それでも増加はイヤだけど、もっとうまく吐けば、プラスマイナスゼロにできるかもしれない。
吐くことを前提に食べるなんて、最低な方法。
だけど、体重をキープする方向にもっていくには、もう、それしかないんだもの。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

讃美歌 ③ 逢瀬の章               「埋まらない空洞」~「痩せる魔術」

エフ=宝泉薫
青春
少女と少女、心と体、美と病。 通い合う想いと届かない祈りが織りなす終わりの見えない物語。

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

讃美歌 ① 出逢いの章              「礼拝堂の同級生」~「もうひとつの兆し」

エフ=宝泉薫
青春
少女と少女、心と体、美と病。 通い合う想いと届かない祈りが織りなす終わりの見えない物語。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

FRIENDS

緒方宗谷
青春
身体障がい者の女子高生 成瀬菜緒が、命を燃やし、一生懸命に生きて、青春を手にするまでの物語。 書籍化を目指しています。(出版申請の制度を利用して) 初版の印税は全て、障がい者を支援するNPO法人に寄付します。 スコアも廃止にならない限り最終話公開日までの分を寄付します。 最終話まで書き終わっていますので、ぜひお気に入り登録をして読んでください。 90万文字を超える長編なので、気長にお付き合いください。 よろしくお願いします。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物、団体、イベント、地域などとは一切関係ありません。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

処理中です...