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崩れゆく楼閣
(6)
しおりを挟む母親は台所から持ってきた紙袋を、茉莉の口にあて、息を吐かせたり吸わせたりした。
もちろん、それだけでなく、背中をさすったり、
「大丈夫、すぐにおさまるから」
と、優しく声をかけながら。
職場の元同僚は、このやり方で回復していたから、きっと、なんとかなるはずだわ。
すると、3分ほどで呼吸が安定し始め、10分後には、落ち着いた状態に。
我に返った茉莉は、
「お母様、私……」
言い訳が見つからないまま、とにかく話し始めようとしたが、
「いいわ、何も言わなくて」
母はさえぎり、
「あなたが何をしたか、おおよその見当はついているから。
そのかわり、ひとつお願いを聞いてほしいの」
養護教諭の話を持ち出した途端、狼狽し、過呼吸の発作まで起こした姿に、母はやはり、茉莉が自分になりすましたのだろう、と確信。
それはもちろんショックなことだったが、それ以上に、久々に触れた娘の体の変化に、激しく動揺していた。
去年の夏、バドミントンの大会中に、体の疲れをほぐすため、マッサージしたことがあったけど、あのときとは別人。
その頃も筋肉質で、脂肪は少なかったとはいえ、女らしい柔らかさもそれなりに感じさせたのに、それがまったくない。
肩も背中もゴツゴツして、指に残っているのは骨の感触だけ。
養護教諭が言うように、この子、病気なのかもしれない。
「明日、病院に行きましょう」
その口調は冷ややかでも、ムチで打つようでもなかったが、淡々とした中にとてつもない重さがあり、茉莉の心を抑え込んだ。
どうしよう、病院なんて行きたくないよ。
でも……
将棋で王手をかけられ、詰まされたみたいに、逃げ道がないことを悟った茉莉は、
「わかりました。
ただ……
いつもの病院ではいけませんか。
養護の先生が紹介してくださった病院は家から遠いし、それに産婦人科なので、私、気が進まないんです」
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