讃美歌 ② 葛藤の章               「崩れゆく楼閣」~「膨れ上がる恐怖」

エフ=宝泉薫

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マリア像の呪縛

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いや、本当は、無意識のところで気づいていたのかもしれない。
だからこそ、その男子に茉莉への想いを綴った手紙を書かせ、自分が伝書鳩となって届ける、ということを決意したともいえる。

どうせ叶わない恋なら、自分の想いが大きくなる前に、親友とつきあってくれたほうが、あきらめもつくし、親友に彼がいれば、体調が心配で仕方ない、重苦しいほどの気持ちも、少し軽くできるのでは……

美尋は無意識に、その男子に片想いし続ける不安や、茉莉の死を想像する恐怖から逃げようとしていた。
もちろん、意識のうえでは、恋の仲介をすることが、ふたりのために良いことなのだと、信じて疑っていないのだけど。

夏休みが始まる4日前、放課後にその男子から手紙を受け取ると、その翌日の昼休み、美尋は小礼拝堂で茉莉に会うなり、
「じつはね、茉莉さんに渡したいものがあるの」

それがいかに茉莉にとって良いものであるかが伝わるよう、高価な指輪でプロポーズする男性のような真剣さで言った。

「渡したいもの、ですか?」
「うん、じつはね、茉莉さんに紹介したい男の子がいて……」

しかし、手紙を取り出した直後、茉莉は、
「待って! 待ってください!!」

美尋が今まで聞いたこともないような大声をあげ、
「お願い! それ、私の見えないところにしまって!!」

やはり、美尋が今まで見たことのないような威圧的な顔で叫んだ。

「あ、はい、わかりました」

いつもとは逆に、敬語で答え、茉莉の言うとおりにする美尋。
じつは、美尋の口から「男の子」という言葉が飛び出し、その手に手紙らしきものが持たれているのを見た瞬間、茉莉はいやな予感がし、心臓がバクバクし始めて……

まずい、このままじゃ、このあいだみたいなパニックになっちゃう。

その不安から、とっさにいつもとは違う態度をとってしまった。

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