【完結（続編）ほかに相手がいるのに】

～拓海～

悪夢

ピピピピピ…ピピピピピ…

　　　　　　　ピピピピピ…ピピピピピ…


「…あ　…　…　」

俺はのそりと起き上がり、ベッド脇の定位置に置いてある目覚まし時計に、ゆっくりと手を伸ばす。

ピピピピ…。

うるさい…
普段は気にならないのに、今朝はやけに頭に響いて、耳を塞ぎたくなるほどだ…。　　

「…　あ～～　…あったま…　いてーー…　」

ズキンと、頭の隅っこが疼いた…。

理由はもちろん、わかっている…。
完全なる二日酔いだ…。

「はあっ…　もう…　」…　…もう…　終わりだ…

終わり…。

その言葉を、リアルに自分自身でわざわざ口に出して音にしたくなくて…頭の中だけでそんなことを思う。

「…　…　　はあ…　なんか久々、行きたくないな…　…」

月曜日の朝。

いくら気持ちが落ち込んでいても…二日酔いで頭がガンガン痛んでいても…

一応、社会人だ…
飲み過ぎで、ちょっと…などとそんな理由で、仕事を休むわけには行かない…
そうだ…今日は大事な打ち合わせも入っている。

いやだ、やめて…　たくみ…

何度も夢に見たアイツの泣き顔が…　頭の中から離れてくれない…。

乱暴する夢…　　

葉月を…葉月を押し倒し…　滅茶苦茶に抱き潰す夢…

夢の中は…
現実に俺がアイツにした行為よりも、もっとひどい仕打ち…。

逃げる葉月を追いかけ…　ひたすら、どこかの部屋の隅まで追いかけ回し…逃げ惑う葉月の、その華奢な肩を後ろからつかみ、床に引き倒し…　俺の方を向かせ…　細い腕を押さえつけ、片手で服を破く…。

いや…いや…　　たくみ、やめて…　お願い、やめて…

泣きながらそう言って、細い腕で俺をなんとか止めようとするが、俺は有無をいわさず男の力で…葉月を裸にし、胸を強い力で揉みしだき…その白く細い身体を、無理矢理に押し開いた…。

そうだ…　夢で何度も、俺は葉月を辱めた…。

いや、違う…　違う…。

俺はくすりと、自嘲気味に笑う…。

夢じゃない…俺は現実にあいつを…葉月を、滅茶苦茶にした…

怒りにも似た感情のまま…一度では飽き足らず…
何度も何度も…前からも後ろからも、自身の怒り狂うそれで…葉月を押し開き…責め立て…アイツを、ボロボロにした…。しかも…あれすらつけずに…最低だ…最悪だ…なんで俺は、あんなことを…

「…ああ　…あたま、いてー…　」

違う…痛いのは、頭じゃない…　胸が…痛い…　苦しい…　なんで、…なんで、俺は…　
大事な人を…好きな女を…恥ずかしがり屋でいつまでも反応が可愛いらしいあの…葉月を…あんな目に遭わせた…？

泣くのをわかっていて…葉月が嫌がるのを、知ってて…　

「ああ…めし、くわなきゃ…　ああ…いてー…　」

俺は葉月の残像をなんとか振り払うかのように、のそのそと愚鈍に…部屋の中を動きまわる。

もう、彼女ではない…　　葉月は俺を許さない…。それだけはわかる…。
あの夜、葉月の家に行って…失敗した…あれも失敗だった…。
あの男…忌まわしい男が、あの場所にいたことでもう、本当に…　俺は…　

もう、ダメだ…何もかも、終わりだ…。

「…　はあ…　顔、洗うか…　」

もはや、溜息しか出ないが、仕事には行かねば…

俺はよろよろとよろめきながら、洗面所へ向かった。