【完結（続編）ほかに相手がいるのに】

～拓海～

合体

「おっじゃましま～す。あれ…意外に部屋、片付いてない？」

「…そ、かな…まあ週末いなかったし、あんま触ってないからかな…まあ…　」

瑠衣はドアの内側に入るなり、勝手知ったる我が家と言わんばかりに部屋に足を踏み入れて、開口一番、そんなことを言った。

「あ～！そっか！やっぱり週末こっちにいなかったんだね～！ピンポン鳴らしても反応ないし電気ついてないしどこ行ったんだろって思ってたよ～連絡しても完全既読スルーだし。そっか、葉月ちゃんとこだったんだ？んで、葉月ちゃん元気だった…？」

「…　…　ん　…　…まあ…　…」

葉月ちゃん…

会ったこともない葉月のことを、既に「ちゃん」付けで呼ぶ瑠衣を、ある意味ですごいなと、思う。

おまえは葉月の昔からの友達なのか…？と、ツッコミを入れたくなるほどだ。
どうやったらこんなにも垣根を作らずに、自分の知らない人の話を身近な雰囲気で話せるのかと不思議になる。

「何、その、歯切れの悪い返事…あ～さては、拓海君…　…」

「え…っ　？」

ドキリとした。

「さては拓海君…葉月ちゃんと喧嘩…したんじゃない…？」

「え…　…　」
意外にも近い感じの予測で言葉を失う…。

でも、喧嘩というよりは、…絶交…　

いや、もはや最低最悪の形での、別離といえる…。

だが、そのことを今この場所で…
この段階で、瑠衣に言いたくはない…。

ましてや、俺があの夜に葉月にしたことは、絶対に他人に言えることじゃない…。
特に、同性の瑠衣にそんな話をしたら、瑠衣はどう感じるだろう…。

さすがに、引く…

いや、引くとか…そういうレベルではない…

もはや、引くとかそういう、少しふざけたような類の言葉…感情では、済まないだろう…。

「…あ～その顔、その揺ら揺らした目で、わかっちゃった～やっぱ当たりだ、葉月ちゃんと喧嘩したんだ～あーあ、駄目だよ拓海君、女の子には…特に、遠恋中の彼女には、人一倍優しくしなきゃ～」

「…そう、…かな…　そう、だな…」

優しくする…どころの話じゃない…　

優しいどころか…
俺は葉月に乱暴をした…　最低、最悪な…　行為を…。

「…んー？なんか今日の拓海君、変だよ…あっ…そうだ、とりあえずご飯にしよっ…ほら、座ってて。私が準備するから。その袋もちょうだい。」

「あ…　ああ…ありがとう…。」

俺がコンビニで買った袋を瑠衣に差し出すと、いそいそと中に入った弁当を取り出し、中身を皿に盛り始めた。

「コンビニ弁当と瑠衣のお惣菜を合体させちゃうね～お弁当のままじゃ、なんか味気ないし。私もぺこぺこだから一緒に食べよ。」

「あ…　うん…　」
弁当と手作り惣菜の合体か…
自分はわざわざそんなことをしたことないなと、ふと思う。

皿をレンジにセットした後、瑠衣がこちらに明るい笑顔を向けて、おもむろに口を開く。

「今日は久々に、拓海君と葉月ちゃんのこと、根掘り葉掘り聞いちゃうぞ～覚悟してね～」

「…まあ。話せる範囲で話すけど…別に面白い話じゃない。」

俺が葉月にした具体的なことは伏せるが…別れてしまったことだけは話してもいいか…。
ずるいかもしれないが、今赤裸々に瑠衣に話して、男として自分が責められて…耐えうる余力は、今の俺にはない…。

そんな気になった俺は
「とにかく食べよ…食べながら話すよ…マジで面白い話でもなんでもないけど…」

「やった～～！じゃあ、いっただ～きま～す。」
「いただきます。」

相変わらず元気100倍みたいな明るいオーラを漂わせる瑠衣の笑顔に、ほんの少し、救われた気がした。