【完結(続編)ほかに相手がいるのに】

もえこ

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~拓海~

中坊

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「むぐ… もぐもぐ、もぐ…  ごくん。」

「… … …」

話があると、俺の横に無理矢理座った割には、男が無言のままでいる。

なんなんだと思って、横を見た瞬間、やっと、男が口を開いた。

「… 単刀直入に言おう。実は、… 」

「… はい… なんすか… 」

あまり、聞きたくないと思いつつ、所詮、同じ部署なのだ…そして、なんといっても上司。
ここで逃げても結局同じだと思った俺は、奴を見る。

「実は、俺は君のことが気になっている。」

「… … …」

気に、なっている…? 俺の、ことが… 俺の仕事が…?俺の私生活が…?俺の弁当が…?

俺は、ゆっくりと首を傾げる…。

男がきょろきょろと辺りを見渡すのにつられて、俺も思わずあたりを見渡す。

幸か不幸か、近くのベンチには誰も座っていない…。

男が、深々とふうと、深呼吸をしたのがわかった。

男が、前を向いたまま再び口を開く。

「君はなんとなく…鈍感そうだから、はっきり言おう。俺は君が好きだ…。」

「… … … …」鈍感だと…?失礼な男だな… いやいや、その前に…

今… なんつった… ?

        好、 き… ?

「好きなんだ。気付けば俺は、いつも君の姿を追ってしまっている。最初は何かの間違いだと思っていたんだが…」

いやいやいや、ないないない…

「… … … …」

「… なんだ、その反応…好きだと言っているんだが…」

「… … …」わかるも、何も… わかるわけが、ない。

「…ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしているが、大丈夫か…?理解できてるか、俺の言葉」

「… … …」

俺の耳が、おかしくなければ… 俺の、認識が間違っていなければ…

どうやらこの男は、俺のことを好きだと、言っているようだ。

「…理解できてない… みたいだな… はあ…」男がため息をつく。

やっと、頭の中を整理して、俺はまともな言葉を口にする。

「あの…何…言ってんすか、課長…、俺… 男ですけど…?」

「わかっている…。俺も、君も、確かに男だが…俺はどうやら、君のことが好きらしい…。」

「いやいや、ご冗談を… 無理ですよ、無理… 俺は無理っす、すみません。」

無理に決まっている。俺は女が好きだし、男なんて考えたこともない…。

「… 冗談なんかじゃないんだが…?即答、だな…。」

「そりゃそうですよ…てか俺…そもそも男なんて、マジで、対象外です。」

「…君は別れたらしいじゃないか、彼女と…。」

「…だから…ハラスメントでしょ?そういうの…てか、別れたって認めましたっけ?勝手に決めつけ…」 

「聞いたよ、原田さんに。だから決めつけじゃない。」即座に、言葉を重ねられる。

「…ちっ… 」

あの人、勝手に何を…
勝手に、何を言ってんだ…。

もしかして原田さんは、俺と課長のことを面白がって見ているのではないか…。

今頃になって、なんとなく、そう思った。

「とにかく、お気持ちは嬉しいですが、マジで無理です、絶っ対に(生理的に)無理ですので、諦めてください。」

さすがに、生理的に、という言葉は言えなかった。
だが、いきなりのBL展開…マジで、冗談じゃない…。

「気持ちは嬉しいんだな…?」男が、低い声で笑ったのにドキリとした。

どういう受け取り方をしたら、そんな前向きな反応になるんだ…。

「いやいや、それは言葉のあやっていうか、社交辞令で…とにかく課長は…男は無理です、マジで、無理…すみませんけど、…もう、戻ります。」

俺は早々に弁当を包んで立ち上がる。

まさかの、男の告白。
なんとなく嫌な予感はしていたが、本当にこんな展開になるとは予想していなかった。

「その、弁当は…?」

「… あ… 別に、どうでもいいでしょ?… マジでほっといてください。」

「… … … 」課長の瞳が、ほんの少しだけ悲しそうに揺らいだ気がした。

これは、ヤバい… 
生ぬるい汗が、背中を伝っている…

どうなんだ… 単なる、冷やかしか…?
とりあえず…同じ職場、そして、直属の上司…
いやいや、中坊じゃあるまいし…なんで真正面から、男である俺に、告白なんかしてくんだ… 

滅茶苦茶、やりづれーー。 

もういっそ、瑠衣に聞いてみようか… よし、一人で悶々と悩んでも仕方ねー。
もう、絶対、そうしよう…

下を向いたままの無言の課長をそのベンチに放りだし、俺はそそくさと部屋に向かった。



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