うちの座敷童さんがセマ逃げするんだけど、どうすればいい?

ネコノミ

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あたしと爪紅2

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 そんなこんな会話をしている間に。あたしの部屋の真ん中にごとん、と重い音を立てて一抱えもある大きめなメイクボックスが落ちる。

 漆黒に四隅は金で縁どりされていて。同じく金で繊細な蒔絵が施された四方面に。持ち手の部分には、椿と三日月と大河。ママの私紋が彫り込まれていた。ママが何かのお祝いで持ち主である雅琵さんにプレゼントしたものらしいと聞いている。

 見かけも美しいそれに魅せられたように座敷童さんがベッドを降りてふらふらとそれに近寄る。漆黒の面に座敷童さんの顔が映る。

「こ、これに爪紅が入っているのか。しかし、美しい箱だな。これだけでも十分に目を楽しませる」
「綺麗ですよね。カラーマニキュアからスカルプ、ライトストーン、デコシールやラインテープまで入ってるんですよ」
「すか? らいん?」
「爪紅をさらに飾る道具たちです」
「そんなものがあるのか!」

 そいつはすごいな! と座敷童さんがメイクボックスの横でわくわくと座り込み、待っているのであたしも苦笑気味にベッドから降りて、メイクボックスの前にしゃがみ込む。

 ぱちんとロックを外してふたを開けてみれば、自動でスライドして展開するメイクボックスに。

「ふぁぁぁ」

 感じ入ったように座敷童さんが声をあげた。心なしか目は潤み頬も紅潮している。座敷童さんの乙女な部分がきゅんきゅんしているらしい。さりげなく白い着物の胸元を押さえている手が、それを物語っていた。

 本当、きゅんポイントだけでも座敷童さんたら女子力高いわ。あたしなんて初めてこれを見たとき「わー綺麗」としか言わなかったのに。負けてますよ、女子力。わかりきってることだったけどな! もうぐうの音もでない、ぐう。じゃなくて。

「千本近くあるそうですよ、マ……爪紅だけで」
「え」
「好きなの、塗りましょうね」
「あぁ! ……君は?」
「あたしは校則が許さないんです」
「こうそく……許すまじ、だな」

 よくわかっていないだろうに、難しい顔を作って頷いたのも束の間。座敷童さんは広がったメイクボックスに再び視線をからめとられ、あたしに申し訳なさそうな顔をしながらも目を輝かせるという高等技術をこなして見せた。

 本当に可愛いものが好きだな。身を乗り出してマニキュアの入っているところを1本1本じっくり見ている。

 あれもいい、これもいいこれもと繰り返して悩みに悩みまくり、腕を組んで唸っている座敷童さんに。あたしは目の端で先ほどからちらついている印象的な赤いマニキュアを手に取る。

「君、これ可愛いぞ。あ、あれも! うあー…悩むなぁ」
「ですね。ところでこれなんてどうです? 真っ白な座敷童さんに印象的な赤。まるで新雪に椿が落ちたようで綺麗だと思うんですけど」
「きれ……君なぁ。……よし、せっかく俺の君が選んでくれたんだ。それで頼むぜ」

 はい、と差し出された両手は爪やすりで削られていて、ぴかぴかに輝いていた。
 正直マニキュアなんて必要ないんじゃないかと思うくらい綺麗な爪なのに、これ以上美しくなりたいとは何がそこまで座敷童さんを突き動かすのだろう。あたしなら校則云々の前に爪を磨いただけで、きっと満足してしまうのに。

 節の目立つ男の手に一瞬ぞわりと背筋を粟立てるものの、その繊細な爪先をとり赤く艶のある金粉混じりのマニキュアのふたを開ける。と、途端に独特のつんとしたにおいが鼻をつくがそれを気にせず、座敷童さんの爪にたっぷりと塗りのばしていく。

 桜色の爪はすぐに赤に染まり、それがどこかいけないことしている気持ちになったのは内緒だ。きらきらとLEDに金粉が反射して光る。それを見た座敷童さんが、おぉ! と歓声をあげた。

「すごいな、赤いのに光ってるぞ!」
「金粉入りみたいです。……はい、終わり。このまま乾かして完成です」
「あ、ありがとう。俺の君」

 ふぅと最後に爪に息を吹きかけて乾きを促進させる。いや、するかどうかはわからないけど、気持ち的にやりたくなるよねって話。とりあえずそうすると、座敷童さんがほんのりと頬を染める。

 なんなの? あたしが首を傾げると、気を取り直したように座敷童さんがにこりと笑う。なので笑い返しながら、あたしは口を開いた。

「とっても可愛いですよ」
「へへ、照れるな」
「……これ以上可愛くなって、あたしをどうするつもりですか? 可愛い人」

 悪戯に微笑んで見せれば、頬を染める程度だった赤がぼふっと首筋にまで広がる。う……あ……と意味不明な言葉を数回発したのち、ぷるぷると震え耐えきれなくなったように立ち上がると。

「ありがとうぅぅぅ!」

 お礼を叫びながら部屋を飛び出していった。
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