32 / 37
あたしと爪紅2
しおりを挟むそんなこんな会話をしている間に。あたしの部屋の真ん中にごとん、と重い音を立てて一抱えもある大きめなメイクボックスが落ちる。
漆黒に四隅は金で縁どりされていて。同じく金で繊細な蒔絵が施された四方面に。持ち手の部分には、椿と三日月と大河。ママの私紋が彫り込まれていた。ママが何かのお祝いで持ち主である雅琵さんにプレゼントしたものらしいと聞いている。
見かけも美しいそれに魅せられたように座敷童さんがベッドを降りてふらふらとそれに近寄る。漆黒の面に座敷童さんの顔が映る。
「こ、これに爪紅が入っているのか。しかし、美しい箱だな。これだけでも十分に目を楽しませる」
「綺麗ですよね。カラーマニキュアからスカルプ、ライトストーン、デコシールやラインテープまで入ってるんですよ」
「すか? らいん?」
「爪紅をさらに飾る道具たちです」
「そんなものがあるのか!」
そいつはすごいな! と座敷童さんがメイクボックスの横でわくわくと座り込み、待っているのであたしも苦笑気味にベッドから降りて、メイクボックスの前にしゃがみ込む。
ぱちんとロックを外してふたを開けてみれば、自動でスライドして展開するメイクボックスに。
「ふぁぁぁ」
感じ入ったように座敷童さんが声をあげた。心なしか目は潤み頬も紅潮している。座敷童さんの乙女な部分がきゅんきゅんしているらしい。さりげなく白い着物の胸元を押さえている手が、それを物語っていた。
本当、きゅんポイントだけでも座敷童さんたら女子力高いわ。あたしなんて初めてこれを見たとき「わー綺麗」としか言わなかったのに。負けてますよ、女子力。わかりきってることだったけどな! もうぐうの音もでない、ぐう。じゃなくて。
「千本近くあるそうですよ、マ……爪紅だけで」
「え」
「好きなの、塗りましょうね」
「あぁ! ……君は?」
「あたしは校則が許さないんです」
「こうそく……許すまじ、だな」
よくわかっていないだろうに、難しい顔を作って頷いたのも束の間。座敷童さんは広がったメイクボックスに再び視線をからめとられ、あたしに申し訳なさそうな顔をしながらも目を輝かせるという高等技術をこなして見せた。
本当に可愛いものが好きだな。身を乗り出してマニキュアの入っているところを1本1本じっくり見ている。
あれもいい、これもいいこれもと繰り返して悩みに悩みまくり、腕を組んで唸っている座敷童さんに。あたしは目の端で先ほどからちらついている印象的な赤いマニキュアを手に取る。
「君、これ可愛いぞ。あ、あれも! うあー…悩むなぁ」
「ですね。ところでこれなんてどうです? 真っ白な座敷童さんに印象的な赤。まるで新雪に椿が落ちたようで綺麗だと思うんですけど」
「きれ……君なぁ。……よし、せっかく俺の君が選んでくれたんだ。それで頼むぜ」
はい、と差し出された両手は爪やすりで削られていて、ぴかぴかに輝いていた。
正直マニキュアなんて必要ないんじゃないかと思うくらい綺麗な爪なのに、これ以上美しくなりたいとは何がそこまで座敷童さんを突き動かすのだろう。あたしなら校則云々の前に爪を磨いただけで、きっと満足してしまうのに。
節の目立つ男の手に一瞬ぞわりと背筋を粟立てるものの、その繊細な爪先をとり赤く艶のある金粉混じりのマニキュアのふたを開ける。と、途端に独特のつんとしたにおいが鼻をつくがそれを気にせず、座敷童さんの爪にたっぷりと塗りのばしていく。
桜色の爪はすぐに赤に染まり、それがどこかいけないことしている気持ちになったのは内緒だ。きらきらとLEDに金粉が反射して光る。それを見た座敷童さんが、おぉ! と歓声をあげた。
「すごいな、赤いのに光ってるぞ!」
「金粉入りみたいです。……はい、終わり。このまま乾かして完成です」
「あ、ありがとう。俺の君」
ふぅと最後に爪に息を吹きかけて乾きを促進させる。いや、するかどうかはわからないけど、気持ち的にやりたくなるよねって話。とりあえずそうすると、座敷童さんがほんのりと頬を染める。
なんなの? あたしが首を傾げると、気を取り直したように座敷童さんがにこりと笑う。なので笑い返しながら、あたしは口を開いた。
「とっても可愛いですよ」
「へへ、照れるな」
「……これ以上可愛くなって、あたしをどうするつもりですか? 可愛い人」
悪戯に微笑んで見せれば、頬を染める程度だった赤がぼふっと首筋にまで広がる。う……あ……と意味不明な言葉を数回発したのち、ぷるぷると震え耐えきれなくなったように立ち上がると。
「ありがとうぅぅぅ!」
お礼を叫びながら部屋を飛び出していった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる