名探偵の心臓は、そうして透明になったのだ。

ネコノミ

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罪とは

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 その後、食事のワゴンを取りに来たメイドに、依頼人である千種清十郎に面会を求め。午後からとなってしまったが、チャロアとオニキスは無事面会することが出来た。その折に警察の方にも協力を願うために依頼内容の共有を提案したところ、あっさりと受け入れられた。
 とりあえずは第一段階終了、と部屋に戻る途中。オーウェンとウェルナイアに会った。調べ物は終わったらしい。
 ウェルナイアから受け取った封筒をチャロアがオニキスに渡す。オニキスがA4の茶封筒から取り出した、わずか八枚の書類に、チャロアは眉をしかめる。

「これだけですか? 手抜き?」
「口を慎め。メリィオルテールの保持を弾かれた人物、引き下げた人物とその理由。あとは一つの家に関する簡易資料ならばこれくらいが妥当だ」
「えー「おや、警察の方も一緒かね?」あ、千種さん」
「この度はオルゴールを守り切ることが出来ず」
「いいんじゃ、前も言ったが元から無かったものが失くなっても困りゃしませんのう。……そっちの助手のお嬢ちゃん、ペンを忘れていったじゃろ、届けにきたぞい」
「あっ! わざわざすみません!」

 ポケットを探ると、確かにペンがなかった。先程面会した時に置いてきてしまったらしかった。好々爺然とした千種へ書類へと目を走らせるオニキスを追い抜き近づいて、ペンを受け取ってお礼を言った時。
 その言葉は、確かに聞こえた。

「……そういう、ことなのね」

 ぽつりと小さな唇からこぼれ落ちた言葉は、案外広い廊下によく響いた。
 何人かはわからない言葉に眉根を寄せ、オニキスを見て。チャロアだけはただ不思議そうに書類を抱きしめて、俯いているオニキスに近寄り、屈んで顔を覗き込んだ。ただ目をつぶって、唇を噛むオニキスの顔を。

「先生?」

 どかしたのか、そんな疑問を含んだチャロアの言葉を無視して。オニキスは自分を奮い立たせて、千種を見る。真っ直ぐな青い目が、千種清十郎を貫いた。
 自信などない、こうでなかったら良いという希望はある。でも、それ以上に集まった証拠達が指をさしている事実に向き合わなければならない。

「依頼は、いつでも」
「ほぉ……そこの客間が空いていたはずじゃ、聞かせてもらおうかの。そこの警察のお二人も聞くかね?」
「「ぜひ」」
「よろしい、頼めるかの。探偵のお嬢ちゃん」
「ええ……」

 本当は、説明なんかしたくない。自分が黙っておけば、ばれないものだ。少なくとも、手紙をくれた少女だけは守りたい。いろんな渦巻いた感情で出したオニキスの声が。チャロアには迷子になった子どものように感じた。

 壁にかかった時計が十時を指す。客間で、オニキス、チャロアがソファーに座り、警察の二人は立っていることになった。流石に女子どもを立たせるわけにはいかないという配慮らしい。千種は軽いお茶請けと紅茶をメイドに用意させ、下がらせると同時に人払いを命じていた。

「それじゃあ、聞こうかのぅ。怪盗とやらのいう『罪』とはなんだったのか」

 これが依頼内容です、とチャロアが屈んだウェルナイアに囁くと、それはオーウェンに伝わりなんとも奇妙そうな顔をされた。彼にとっては怪盗は犯罪者、それのいう『罪』などたかが知れてると思ったのだ。
 だが、オニキスが躊躇いながらもはいた言葉は。

「殺人と、窃盗よ」

 考えていた以上の罪だった。
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