29 / 39
罪とは
しおりを挟む
その後、食事のワゴンを取りに来たメイドに、依頼人である千種清十郎に面会を求め。午後からとなってしまったが、チャロアとオニキスは無事面会することが出来た。その折に警察の方にも協力を願うために依頼内容の共有を提案したところ、あっさりと受け入れられた。
とりあえずは第一段階終了、と部屋に戻る途中。オーウェンとウェルナイアに会った。調べ物は終わったらしい。
ウェルナイアから受け取った封筒をチャロアがオニキスに渡す。オニキスがA4の茶封筒から取り出した、わずか八枚の書類に、チャロアは眉をしかめる。
「これだけですか? 手抜き?」
「口を慎め。メリィオルテールの保持を弾かれた人物、引き下げた人物とその理由。あとは一つの家に関する簡易資料ならばこれくらいが妥当だ」
「えー「おや、警察の方も一緒かね?」あ、千種さん」
「この度はオルゴールを守り切ることが出来ず」
「いいんじゃ、前も言ったが元から無かったものが失くなっても困りゃしませんのう。……そっちの助手のお嬢ちゃん、ペンを忘れていったじゃろ、届けにきたぞい」
「あっ! わざわざすみません!」
ポケットを探ると、確かにペンがなかった。先程面会した時に置いてきてしまったらしかった。好々爺然とした千種へ書類へと目を走らせるオニキスを追い抜き近づいて、ペンを受け取ってお礼を言った時。
その言葉は、確かに聞こえた。
「……そういう、ことなのね」
ぽつりと小さな唇からこぼれ落ちた言葉は、案外広い廊下によく響いた。
何人かはわからない言葉に眉根を寄せ、オニキスを見て。チャロアだけはただ不思議そうに書類を抱きしめて、俯いているオニキスに近寄り、屈んで顔を覗き込んだ。ただ目をつぶって、唇を噛むオニキスの顔を。
「先生?」
どかしたのか、そんな疑問を含んだチャロアの言葉を無視して。オニキスは自分を奮い立たせて、千種を見る。真っ直ぐな青い目が、千種清十郎を貫いた。
自信などない、こうでなかったら良いという希望はある。でも、それ以上に集まった証拠達が指をさしている事実に向き合わなければならない。
「依頼は、いつでも」
「ほぉ……そこの客間が空いていたはずじゃ、聞かせてもらおうかの。そこの警察のお二人も聞くかね?」
「「ぜひ」」
「よろしい、頼めるかの。探偵のお嬢ちゃん」
「ええ……」
本当は、説明なんかしたくない。自分が黙っておけば、ばれないものだ。少なくとも、手紙をくれた少女だけは守りたい。いろんな渦巻いた感情で出したオニキスの声が。チャロアには迷子になった子どものように感じた。
壁にかかった時計が十時を指す。客間で、オニキス、チャロアがソファーに座り、警察の二人は立っていることになった。流石に女子どもを立たせるわけにはいかないという配慮らしい。千種は軽いお茶請けと紅茶をメイドに用意させ、下がらせると同時に人払いを命じていた。
「それじゃあ、聞こうかのぅ。怪盗とやらのいう『罪』とはなんだったのか」
これが依頼内容です、とチャロアが屈んだウェルナイアに囁くと、それはオーウェンに伝わりなんとも奇妙そうな顔をされた。彼にとっては怪盗は犯罪者、それのいう『罪』などたかが知れてると思ったのだ。
だが、オニキスが躊躇いながらもはいた言葉は。
「殺人と、窃盗よ」
考えていた以上の罪だった。
とりあえずは第一段階終了、と部屋に戻る途中。オーウェンとウェルナイアに会った。調べ物は終わったらしい。
ウェルナイアから受け取った封筒をチャロアがオニキスに渡す。オニキスがA4の茶封筒から取り出した、わずか八枚の書類に、チャロアは眉をしかめる。
「これだけですか? 手抜き?」
「口を慎め。メリィオルテールの保持を弾かれた人物、引き下げた人物とその理由。あとは一つの家に関する簡易資料ならばこれくらいが妥当だ」
「えー「おや、警察の方も一緒かね?」あ、千種さん」
「この度はオルゴールを守り切ることが出来ず」
「いいんじゃ、前も言ったが元から無かったものが失くなっても困りゃしませんのう。……そっちの助手のお嬢ちゃん、ペンを忘れていったじゃろ、届けにきたぞい」
「あっ! わざわざすみません!」
ポケットを探ると、確かにペンがなかった。先程面会した時に置いてきてしまったらしかった。好々爺然とした千種へ書類へと目を走らせるオニキスを追い抜き近づいて、ペンを受け取ってお礼を言った時。
その言葉は、確かに聞こえた。
「……そういう、ことなのね」
ぽつりと小さな唇からこぼれ落ちた言葉は、案外広い廊下によく響いた。
何人かはわからない言葉に眉根を寄せ、オニキスを見て。チャロアだけはただ不思議そうに書類を抱きしめて、俯いているオニキスに近寄り、屈んで顔を覗き込んだ。ただ目をつぶって、唇を噛むオニキスの顔を。
「先生?」
どかしたのか、そんな疑問を含んだチャロアの言葉を無視して。オニキスは自分を奮い立たせて、千種を見る。真っ直ぐな青い目が、千種清十郎を貫いた。
自信などない、こうでなかったら良いという希望はある。でも、それ以上に集まった証拠達が指をさしている事実に向き合わなければならない。
「依頼は、いつでも」
「ほぉ……そこの客間が空いていたはずじゃ、聞かせてもらおうかの。そこの警察のお二人も聞くかね?」
「「ぜひ」」
「よろしい、頼めるかの。探偵のお嬢ちゃん」
「ええ……」
本当は、説明なんかしたくない。自分が黙っておけば、ばれないものだ。少なくとも、手紙をくれた少女だけは守りたい。いろんな渦巻いた感情で出したオニキスの声が。チャロアには迷子になった子どものように感じた。
壁にかかった時計が十時を指す。客間で、オニキス、チャロアがソファーに座り、警察の二人は立っていることになった。流石に女子どもを立たせるわけにはいかないという配慮らしい。千種は軽いお茶請けと紅茶をメイドに用意させ、下がらせると同時に人払いを命じていた。
「それじゃあ、聞こうかのぅ。怪盗とやらのいう『罪』とはなんだったのか」
これが依頼内容です、とチャロアが屈んだウェルナイアに囁くと、それはオーウェンに伝わりなんとも奇妙そうな顔をされた。彼にとっては怪盗は犯罪者、それのいう『罪』などたかが知れてると思ったのだ。
だが、オニキスが躊躇いながらもはいた言葉は。
「殺人と、窃盗よ」
考えていた以上の罪だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる