泣いた邪神が問いかけた

ネコノミ

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誰にとっての

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 秋も深まってきた夜に、ふとアイルは文机に明かりを灯し、本を読みながら考えていた。
「都市伝説とは本当に害悪なのだろうか」と。毛布にくるまり、本来の布団の主であるアイルよりも大きく布団を取っているスクナを見る。
 こいつは怪異なのか? 少なくとも都市伝説はあり得ない。あの『何処にもない部屋』の本に載っていない都市伝説はこの街に存在しないのだから。
 ぷーぷーぺんぎんの頃と変わらない安心しきった顔で寝ているのが腹立たしいが、それはさておき。

「都市伝説は害悪だと教わった……しかし」

 今までに見た、二つの都市伝説は。ただ「大切な誰か」に会いたいだけだったように見えた。それはひどく親近感を覚える感情で、父であるスイラに会いたいと渇望するアイルによく似ていた。
 ならばなぜ、害悪と教わったのだろうか……。

 ――――――――待て。

 教えられた? 教わった? 一体誰に? 武者小路遊は術師であるが御縁ではない。都市伝説や使命に関しては口を挟まないだろう。
 教わったはずだ、だって知識としてそうあるのだから。でも記憶はない。
 肌の上を虫が這うような気味悪さがアイルを襲う。だって、これではまるで。御縁の血に暗示がかかっているようではないか。「都市伝説は害悪である」と思えと。
 一瞬込み上げた吐き気に口元を押さえると、アイルは今日はもう寝ようと明かりを消した。
 本は考え事に沈んだときから閉じてある。布団に潜り込んで、目を閉じる。

 誰にとって、都市伝説は害悪なのだろうか。

 そこまで考えた時、アイルの意識は唐突に途切れた。
 まるで先程アイルが考えた、暗示にかけられているように。
 翌日には都市伝説を害悪だと言った誰かのことを思い出そうとしていたことなど、何も覚えてはいなかった。



 運動会は秋、という高校が大多数だろう。
 しかし、スクナとアイルの通っている高校は「交流を深めるため」として五月の初旬に運動会がある。「五月なんて気持ちが落ち着いてないときよりも、秋のほうがいいとぼくは思うけど」とどこかの元ぺんぎんは腕を組みながら担任に言っていた。

 じゃあ秋には何があるか。ウォーキング大会である。
 スタンプラリー形式で、特別な順位には先生たちが自腹を切って用意したプレゼントを受け取るのだが。
 アイルは一年生にして仮病を使い休もうとしていた。
 本人としては至極真面目に自分の体力と話し合った結果だったのだが、スクナが「あいるんが歩けなくなったらぼくがおぶってあげるね!」という本人に自覚のない煽りを受けたため、参加した結果。
 見事なまでにぶっ倒れ、スクナに背負われゴール。その後一週間は筋肉痛に悩まされた。

 それから時が流れるのは早く、あっという間に十二月に近づいていった。
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