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橘の独り言
理科の教科書
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そこから泉と仲良くなるのはあっという間だった。
泉はノリが直太に似ているせいか、めちゃくちゃ話しやすかった。
2学期が過ぎた今では、10年来の友達的な安心感すら覚えている。
でもそれは、俺に限ったことじゃない。
泉には男友達がたくさんいて、みんなそんな感じだ。
だからというか、男同士の会話で恋愛話になると、必ずと言っていいほど泉が引き合いに出される。
「あいつは女子にカウントされない」と、直太の女子版みたいな残念な評価を得ていた。
けど、直太と違うのは、泉が恋愛に貪欲じゃないところだ。
どちらかといえば、女子カウントされないポジションをあえて自分で選んでいる気がした。
そんなところも含めて、他の女子とは違って泉は話しやすいし、話していて楽しい女子だった。
「やっべ、理科の教科書忘れた。泉貸してー」
「いいよーって、おい。うちら同クラでしょーが。橘に教科書貸したら私のが無くなるわ!」
「引っかかんなかったか」
「引っかかるかい」
と、こんな感じで。
「お前らまーた漫才してんの? オレも混ぜて~。直太君仲間外れにされると死んじゃう生き物って知ってんだろー」
いつもように、直太も乱入。
「いや、あんたの橘が私の教科書をカツアゲしようとしてるんすよ。親友なら友達の非行を止めてくれ」
「いずの~ん。早く理科室行かないとチャイム鳴るよ~」
「あ、今行くー」
べぇ、ときっちり変顔をしてから教室の廊下へ走り去っていった泉。
「さて、オレらも行きますか」と直太に促され、机から実験ノートを引っ張り出していたら、ドタタタタタとイノシシの突進みたいな音がして、くせ毛を1.5倍に膨らませた泉が息を切らして戻って来た。
そのまま俺の前まで来て、理科の教科書をでんと机に置く。
「はあ、はあ、はあ。5組のりんちゃんから、はあ、はあ。理科の教科書、借りてきた。終わったら、はあはあ。自分で返しに行けよ。自分でな」
「お、おう。サンキュー」
「早坂りん。目がくりくりしてて、髪がさらっさらの超可愛い子だから。早坂りん、です」
泉の大きな目が、瞬きせずにこっちをガン見して、早坂りん。と念じる。
いや、目がくりくりしてるのはお前だし。
「じゃ。急いでるんで」
用件が済むと、どぴゅーんと風のように走り去っていく。やっぱ速ぇな、あいつ。
ミニバスでも速攻が得意だったもんなぁ。
「だーめだって、秋人。汐見はオレと同じで、ちょっとおバカなお人よしなんだぞー。ウソをまっすぐ信じちゃう哀れな奴なんだぞ~」
直太がため息を吐いた。
「お前、ホントは理科の教科書持ってんだろ?」
「……」
持っていた。悪いことをした。
「んでたぶん、早坂りんちゃんって子は、お前のことが好きだぜ。最近、汐見は女子たちの間で第二の直太君的状況に巻き込まれつつあるんだよ。可哀そうに」
「?」
疑問に眉を寄せたら、もう一度憐れみのため息を吐かれた。
「先週の昼休みにさー、階段の踊り場で、汐見が目くりくりで髪さらっさらな超可愛い女子に悩み相談されてるとこ目撃したぞ。『橘君と仲良くなりたいから協力してほしい』的なこと言われてたぞ」
「……」
マジで悪いことをした。
でもなー。
「そんなん断ればいいのに」
はあ。と、また盛大なため息が返ってくる。
「わかってねーなぁ。思春期の女子ってのは、ま~じ~で、いろいろめんどくせーんだぞーって、モテねー兄ちゃんが言ってた。それにさー」
直太が情けなーい顔で、またため息を吐く。
「断れねーのが、オレと汐見なんだよ」
泉はノリが直太に似ているせいか、めちゃくちゃ話しやすかった。
2学期が過ぎた今では、10年来の友達的な安心感すら覚えている。
でもそれは、俺に限ったことじゃない。
泉には男友達がたくさんいて、みんなそんな感じだ。
だからというか、男同士の会話で恋愛話になると、必ずと言っていいほど泉が引き合いに出される。
「あいつは女子にカウントされない」と、直太の女子版みたいな残念な評価を得ていた。
けど、直太と違うのは、泉が恋愛に貪欲じゃないところだ。
どちらかといえば、女子カウントされないポジションをあえて自分で選んでいる気がした。
そんなところも含めて、他の女子とは違って泉は話しやすいし、話していて楽しい女子だった。
「やっべ、理科の教科書忘れた。泉貸してー」
「いいよーって、おい。うちら同クラでしょーが。橘に教科書貸したら私のが無くなるわ!」
「引っかかんなかったか」
「引っかかるかい」
と、こんな感じで。
「お前らまーた漫才してんの? オレも混ぜて~。直太君仲間外れにされると死んじゃう生き物って知ってんだろー」
いつもように、直太も乱入。
「いや、あんたの橘が私の教科書をカツアゲしようとしてるんすよ。親友なら友達の非行を止めてくれ」
「いずの~ん。早く理科室行かないとチャイム鳴るよ~」
「あ、今行くー」
べぇ、ときっちり変顔をしてから教室の廊下へ走り去っていった泉。
「さて、オレらも行きますか」と直太に促され、机から実験ノートを引っ張り出していたら、ドタタタタタとイノシシの突進みたいな音がして、くせ毛を1.5倍に膨らませた泉が息を切らして戻って来た。
そのまま俺の前まで来て、理科の教科書をでんと机に置く。
「はあ、はあ、はあ。5組のりんちゃんから、はあ、はあ。理科の教科書、借りてきた。終わったら、はあはあ。自分で返しに行けよ。自分でな」
「お、おう。サンキュー」
「早坂りん。目がくりくりしてて、髪がさらっさらの超可愛い子だから。早坂りん、です」
泉の大きな目が、瞬きせずにこっちをガン見して、早坂りん。と念じる。
いや、目がくりくりしてるのはお前だし。
「じゃ。急いでるんで」
用件が済むと、どぴゅーんと風のように走り去っていく。やっぱ速ぇな、あいつ。
ミニバスでも速攻が得意だったもんなぁ。
「だーめだって、秋人。汐見はオレと同じで、ちょっとおバカなお人よしなんだぞー。ウソをまっすぐ信じちゃう哀れな奴なんだぞ~」
直太がため息を吐いた。
「お前、ホントは理科の教科書持ってんだろ?」
「……」
持っていた。悪いことをした。
「んでたぶん、早坂りんちゃんって子は、お前のことが好きだぜ。最近、汐見は女子たちの間で第二の直太君的状況に巻き込まれつつあるんだよ。可哀そうに」
「?」
疑問に眉を寄せたら、もう一度憐れみのため息を吐かれた。
「先週の昼休みにさー、階段の踊り場で、汐見が目くりくりで髪さらっさらな超可愛い女子に悩み相談されてるとこ目撃したぞ。『橘君と仲良くなりたいから協力してほしい』的なこと言われてたぞ」
「……」
マジで悪いことをした。
でもなー。
「そんなん断ればいいのに」
はあ。と、また盛大なため息が返ってくる。
「わかってねーなぁ。思春期の女子ってのは、ま~じ~で、いろいろめんどくせーんだぞーって、モテねー兄ちゃんが言ってた。それにさー」
直太が情けなーい顔で、またため息を吐く。
「断れねーのが、オレと汐見なんだよ」
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