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日常
第818話 かつ丼
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今日も今日とて朝から雲一つない青空だ。日差しがまぶしく、気温は上がっていく一方である。
「ふぁ……」
朝課外も終わり、ついぼんやりとしてしまう。今日は小テストもないし提出物もない。予習は終わっているし、無茶な移動教室もない。いつもより気を抜いていられるせいか、油断すると睡魔が襲って来る。
まあ、今は寝てもいい時間ではある。ホームルームが始まるまで寝ようかな……
いやでも、中途半端に寝るとその後がきついんだよなあ。あ、そういえば今日から古文は新しいところ入るから、便覧持って来いって言われてたっけ。
確かロッカーにあるはずだ。今のうちに持って来ておこう。
「うわ、あっつ」
廊下、暑いなあ。人の熱気も相まって蒸し暑い。
「あ、一条。ちょうどいいところに」
「ん? うわ、何だその大荷物」
振り返ればそこには、うず高く積まれた参考書の山があった。正確にいえば、山のように積まれた参考書を宮野が抱えていたのだ。
「夏季休業中の課題。確認が終わった分が返却されてんだけど、どうも全部返却されてるみたいで」
「あ、あー……そういう」
「今日、僕日直でさ。もう一人は休みらしいし」
これだけで一科目だよ? 一科目。と宮野はぼやく。
「悪いけど、運ぶの手伝ってくれない?」
「ああ、いいぞ」
とりあえず今宮野が抱えている参考書を半分受け取り、教室に置いて、職員室に向かう。
職員室前は広めの自習スペースになっているので机やいすが数多く設置されている。そのどれもに参考書が積まれていた。うへぇ、これ全部運ぶのかあ。
「うーわ、数学見るからに重そう」
「古文は薄いからまだ何とかいけるんだけどなあ」
うっ、このずしっとくる重さ。密度の高い重さ、厄介だ。これは半分ずつ……いや、三等分するしかないか。
「おっ、何やってんだ」
職員室から出てきたのは咲良だった。咲良はこちらにやってくると参考書の山を見て笑った。
「あー、それね。うちの日直が苦労して運んでたよ。てか、文系うちより多くね?」
「いいところに来たな。手伝え」
「え」
咲良は文句を垂れつつも、「えー? じゃあ俺、これ持ってけばいい~?」と残りの参考書の山を抱えた。
「おう、助かる」
「自分のクラスの手伝いもしてないのに……」
「その分こっちで手伝ってくれ」
「横暴だ」
何とかすべて運び終える頃には汗だくで、目が覚めるどころか疲れて逆に眠いくらいになってしまった。
「あ、そういや春都。今日、食堂だから」
「ああ、俺も今日は弁当持って来てなかったから、言おうと思ってた」
こいつ、確か新学期最初の昼飯には、からあげカレー食うって言ってたような。こないだめっちゃ菓子パン食ってたよなあ……今日こそ食べるつもりなのだろうか。
「……二人とも、昼ご飯は一緒に食べる前提なんだ」
「え?」
教卓近くの席である勇樹の机から下敷きを取り、パタパタとあおいでいた宮野が聞いてくる。勇樹はハンディファンで宮野に風を送っていた。
「いや、当然のように話してるから、やっぱ仲いいなーって」
「そうだよ、こいつら仲いいんだ」
と、勇樹も参加してきた。
咲良と目を見合わせる。
「特別、考えたこともなかったな」
「な。でも、一人で食う時もあるし、いつも一緒ってわけでもないよな」
「そうだな」
宮野は不思議そうな目で見てくるし、勇樹はにこにこと笑うばかりである。うーん、いったい俺たちの何が気になるというのだろう。
ま、別にいいけど。それより、昼飯何食うか考えとかないとな。
「俺かつ丼にする!」
迷いなく食券販売機の、かつ丼のボタンを押す咲良。
「やっぱりそうなると思った」
「え? 何それ?」
「俺も今日はかつ丼にしよう。あ、チキンカツもあるのか」
じゃあ、チキンかつ丼にしよう。
行列ができる前のカウンターにささっと並び、食券を渡す。相変わらず提供スピードは迅速である。
窓際……は暑いので、少し離れた場所に座る。
「いただきます」
大盛りのかつ丼に、玉ねぎのみそ汁。ああ、学食って感じだ。
まずはかつ丼から。ふわふわの卵に包まれた、揚げたてのチキンカツ。俺としては、とんかつよりチキンカツの方がなじみがあるように思う。ああ、そういえばここの弁当もチキンカツ弁当だな。
甘いつゆが染みたチキンカツ。ザクッと香ばしく歯ごたえのいい部分を残しつつ、染み染みのところはジュワッとしていて堪らない。淡白な肉だがうま味がギュッとつまっていて、噛めば噛むほど味わいが深くなる。
卵もふわふわのほろほろで、ほんの少し紛れた玉ねぎの甘さが何ともいい味わいを出している。
ご飯にもつゆが染みていて、ほんのりトロッとした感じだ。カツと合わせて食べると最高にうまい。しんなりした衣がご飯になじみつつ、サクサクと肉の歯ごたえ、それに卵の優しいうま味が相まって……うん、チキンかつ丼、いいな。
あ、一味を振ってみよう。
ほんの少し辛さが加わって、味が引き締まる。やはり辛さは味を引き締めるのだな。
「で、やっぱりってなんだよ」
みそ汁の出汁にほっとしていたら、咲良が聞いてきた。
「いや、新学期最初の昼飯は、からあげカレーだって言ってたなーと」
「そんなこと言ったっけ?」
「そんで、新学期になったら心変わりしてそうとも言っていた」
「言ったかなー、そんなこと。でもまあ、その通りにはなってるな!」
そう言って咲良は笑った。そういうとこあるよな、お前。まあ、いいんだけどさ。咲良は少し決め顔をして言う。
「有言実行ってやつ?」
「忘れてるくせに」
「そこはまあ、ね」
食堂の扉が開閉するたびに、セミの鳴き声が大きくなったり小さくなったりする。まだまだ夏真っ盛りって感じだし、冷たいものが恋しくなってくる。
「これ食ったらアイス食べようぜ」
咲良の提案に、「そうだな」と頷く。
さて、何味のアイスにしようかなあ。
「ごちそうさまでした」
「ふぁ……」
朝課外も終わり、ついぼんやりとしてしまう。今日は小テストもないし提出物もない。予習は終わっているし、無茶な移動教室もない。いつもより気を抜いていられるせいか、油断すると睡魔が襲って来る。
まあ、今は寝てもいい時間ではある。ホームルームが始まるまで寝ようかな……
いやでも、中途半端に寝るとその後がきついんだよなあ。あ、そういえば今日から古文は新しいところ入るから、便覧持って来いって言われてたっけ。
確かロッカーにあるはずだ。今のうちに持って来ておこう。
「うわ、あっつ」
廊下、暑いなあ。人の熱気も相まって蒸し暑い。
「あ、一条。ちょうどいいところに」
「ん? うわ、何だその大荷物」
振り返ればそこには、うず高く積まれた参考書の山があった。正確にいえば、山のように積まれた参考書を宮野が抱えていたのだ。
「夏季休業中の課題。確認が終わった分が返却されてんだけど、どうも全部返却されてるみたいで」
「あ、あー……そういう」
「今日、僕日直でさ。もう一人は休みらしいし」
これだけで一科目だよ? 一科目。と宮野はぼやく。
「悪いけど、運ぶの手伝ってくれない?」
「ああ、いいぞ」
とりあえず今宮野が抱えている参考書を半分受け取り、教室に置いて、職員室に向かう。
職員室前は広めの自習スペースになっているので机やいすが数多く設置されている。そのどれもに参考書が積まれていた。うへぇ、これ全部運ぶのかあ。
「うーわ、数学見るからに重そう」
「古文は薄いからまだ何とかいけるんだけどなあ」
うっ、このずしっとくる重さ。密度の高い重さ、厄介だ。これは半分ずつ……いや、三等分するしかないか。
「おっ、何やってんだ」
職員室から出てきたのは咲良だった。咲良はこちらにやってくると参考書の山を見て笑った。
「あー、それね。うちの日直が苦労して運んでたよ。てか、文系うちより多くね?」
「いいところに来たな。手伝え」
「え」
咲良は文句を垂れつつも、「えー? じゃあ俺、これ持ってけばいい~?」と残りの参考書の山を抱えた。
「おう、助かる」
「自分のクラスの手伝いもしてないのに……」
「その分こっちで手伝ってくれ」
「横暴だ」
何とかすべて運び終える頃には汗だくで、目が覚めるどころか疲れて逆に眠いくらいになってしまった。
「あ、そういや春都。今日、食堂だから」
「ああ、俺も今日は弁当持って来てなかったから、言おうと思ってた」
こいつ、確か新学期最初の昼飯には、からあげカレー食うって言ってたような。こないだめっちゃ菓子パン食ってたよなあ……今日こそ食べるつもりなのだろうか。
「……二人とも、昼ご飯は一緒に食べる前提なんだ」
「え?」
教卓近くの席である勇樹の机から下敷きを取り、パタパタとあおいでいた宮野が聞いてくる。勇樹はハンディファンで宮野に風を送っていた。
「いや、当然のように話してるから、やっぱ仲いいなーって」
「そうだよ、こいつら仲いいんだ」
と、勇樹も参加してきた。
咲良と目を見合わせる。
「特別、考えたこともなかったな」
「な。でも、一人で食う時もあるし、いつも一緒ってわけでもないよな」
「そうだな」
宮野は不思議そうな目で見てくるし、勇樹はにこにこと笑うばかりである。うーん、いったい俺たちの何が気になるというのだろう。
ま、別にいいけど。それより、昼飯何食うか考えとかないとな。
「俺かつ丼にする!」
迷いなく食券販売機の、かつ丼のボタンを押す咲良。
「やっぱりそうなると思った」
「え? 何それ?」
「俺も今日はかつ丼にしよう。あ、チキンカツもあるのか」
じゃあ、チキンかつ丼にしよう。
行列ができる前のカウンターにささっと並び、食券を渡す。相変わらず提供スピードは迅速である。
窓際……は暑いので、少し離れた場所に座る。
「いただきます」
大盛りのかつ丼に、玉ねぎのみそ汁。ああ、学食って感じだ。
まずはかつ丼から。ふわふわの卵に包まれた、揚げたてのチキンカツ。俺としては、とんかつよりチキンカツの方がなじみがあるように思う。ああ、そういえばここの弁当もチキンカツ弁当だな。
甘いつゆが染みたチキンカツ。ザクッと香ばしく歯ごたえのいい部分を残しつつ、染み染みのところはジュワッとしていて堪らない。淡白な肉だがうま味がギュッとつまっていて、噛めば噛むほど味わいが深くなる。
卵もふわふわのほろほろで、ほんの少し紛れた玉ねぎの甘さが何ともいい味わいを出している。
ご飯にもつゆが染みていて、ほんのりトロッとした感じだ。カツと合わせて食べると最高にうまい。しんなりした衣がご飯になじみつつ、サクサクと肉の歯ごたえ、それに卵の優しいうま味が相まって……うん、チキンかつ丼、いいな。
あ、一味を振ってみよう。
ほんの少し辛さが加わって、味が引き締まる。やはり辛さは味を引き締めるのだな。
「で、やっぱりってなんだよ」
みそ汁の出汁にほっとしていたら、咲良が聞いてきた。
「いや、新学期最初の昼飯は、からあげカレーだって言ってたなーと」
「そんなこと言ったっけ?」
「そんで、新学期になったら心変わりしてそうとも言っていた」
「言ったかなー、そんなこと。でもまあ、その通りにはなってるな!」
そう言って咲良は笑った。そういうとこあるよな、お前。まあ、いいんだけどさ。咲良は少し決め顔をして言う。
「有言実行ってやつ?」
「忘れてるくせに」
「そこはまあ、ね」
食堂の扉が開閉するたびに、セミの鳴き声が大きくなったり小さくなったりする。まだまだ夏真っ盛りって感じだし、冷たいものが恋しくなってくる。
「これ食ったらアイス食べようぜ」
咲良の提案に、「そうだな」と頷く。
さて、何味のアイスにしようかなあ。
「ごちそうさまでした」
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