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日常
第825話 卵料理
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「あっ、しまった」
冷蔵庫を開けた瞬間、理解する。そういやこの間、卵一パック買ってたな。それなのに、また買ってきてしまった。だって安かったし……
「……まあ、仕方ない」
とりあえず冷蔵庫に入れておいて、他のものも片づけよう。ハムとベーコン、チーズ、それから野菜を色々。トマトにキュウリ、キャベツ、ねぎ。冷凍食品もいろいろ買ってきたから、全体的に冷たい。
よし、こんなもんか。買い物は片付けまでが大変だ。これだけでひと仕事である。
「ふう」
ソファに座り、スマホを手に取る。うめずがとことことやって来て、傍らに飛び乗って座った。ふわふわと触れる毛がくすぐったい。
「えーっと、卵、レシピっと……」
いっぺんに大量消費ってのもいいし、いろんなのを作るのもいい。卵焼き、オムレツやオムライス、おでん……卵って、いろいろ作れるもんだな。
「片っ端から作ってみるか」
なんて、食べきれなきゃ意味がないからな。まあ、目玉焼きやら卵焼きやら作るから、そう悩まずとも消費していくか。
誰もいない視聴覚室の機材室。今日は久々に部活である。大会前でいろいろ忙しいらしく、雑用に駆り出されている。
ついこの間片付けたはずなのに、机の上はすっかり散らかってしまっている。いらないプリントが山積みだ。こっちの本はどこから引っ張り出してきたんだろう。
「う~ん……」
しかし、そんなことより悩ましいのは、卵の消費ペースである。思ったよりも減らない。卵焼きにしたって毎日は作らないし、毎朝目玉焼きを食べるわけでもない。そもそも、いつも一パックをやっとのことで使っているのだ。二パックもあればそりゃ余る。
「お、一条。早いな」
「おう、早瀬」
部室で荷物を置く場所といえば、いくつも並んだ椅子の上だ。その上にも資料やら機材やらが散らかっているのだが、早瀬は慣れた様子でプリントを机の上に移動させると、そこに荷物を置いた。おお、プリントを片づけたところに再びプリントが。
このプリントは……五年前の日付だ。大会要項、なるほど、今までの大会の資料というわけだ。こういうのはあとでまとめると先生が言っていたし、本棚の方に移動させておこう。
「どうしようかな~……」
「ん? 何がだ?」
早瀬は振り返り、俺の手元に視線を移す。
「ああ、そのCDはプロのアナウンサーが朗読してるやつだな。今、練習中に使ってるから、CDプレイヤーの近くに置いておいてくれ」
あ、これの片付けで迷ってるって思われたのか。本棚に散乱していたCD、散乱してたんじゃなくて置いていたのか。
「ああ、分かった」
「じゃ、よろしくなー」
早瀬は荷物を持って、機材室から視聴覚室へ行ってしまった。
それから部員が次々とやって来ては練習に向かった。咲良と朝比奈が来たのはその後である。
三人も揃えばあっという間に掃除が終わる。片付けさえ終われば帰っていいと聞いていたので、とっとと帰る。晩飯、何か卵使った料理にしよう。
そうだ、最近かに玉食ってないな。かに玉の素買って帰ろう。
卵を三個溶いて、かに玉の素を入れ、さらに混ぜる。それを油を敷いて温めて置いたフライパンに注ぎ入れる。パッケージのように焼いてみたいものだが、火の通り具合が気になって、ついそぼろになってしまう。ま、これで十分うまいからいいんだが。
卵は皿に移し、フライパンに水を適量入れて、餡の素を溶かす。火にかけてとろみがついたら卵にかける。グリンピースの緑がきれいだ。
「いただきます」
白米にかに玉。何で思いつかなかったかなあ、これ。ふわふわっとした卵にとろりと甘い餡がよく合う。うま味がジュワッと口いっぱいに広がって、時折感じるきくらげやたけのこの食感が面白い。
まるで飲み物のような勢いで食べてしまう。素はもう一つ買ってきてるし、明日も作ろう。
「ごちそうさまでした」
さて、片付けをしたらもうひと仕事。買い物に行って、売り場で見かけて、無性に食べたくなったものがある。今日はもう食べないが、明日の準備だ。
五個くらい茹でとけばいいかな、卵。
茹で卵の殻むきって、楽な時もあれば至難の業ってときもある。今日は案外楽だった。つるつるっとむけると気持ちがいい。
これを全部潰して、マヨネーズで和える。少し粒こしょうを入れようかな。
買ってきたロールパンに切れ込みを入れて、まずはハム。そしてマヨネーズで和えた卵を挟んで、あとは薄切りにしたきゅうり。
卵サンドの完成だ。これは昼ご飯に……と思ったが、今も食べたいな。一個だけ食べちゃうか。
昨日、総菜コーナーで見てからずっと食べたかったんだよなあ。
「いただきます」
つやっとしたロールパンの表面を見るたび、きれいだなあ、とぼんやり思う。ふわふわのパンにもこもこ、ごろっとした卵。たっぷりのマヨネーズと和えているので口当たりはなめらかだ。黒コショウのピリッとした風味が味を引き締める。
そこにハムの塩気と、きゅうりのみずみずしさと青さがよく合う。ハムから滲み出すうま味がいいなあ。
キュウリのポリッとした食感、やわらかいものばかりだから、いいアクセントになる。なんとなくタルタルソースを思わせるというか……ああ、タルタルソースも卵使うよな。エビフライとか、白身のフライを買ってきてもいいなあ。
それにしても、卵サンドってこんなにうまかったか。また作ろうと思うくらいにはうまい。卵を消費しなければ、と思っていたが、むしろ足りなくなるのでは?
また買っとかないとなあ、卵。
……でもまあ、何でもほどほどが一番だよな。
いやあ、よく食ったなあ、卵。おいしく、全部何とか食べきってしまいそうだ。
「ごちそうさまでした」
冷蔵庫を開けた瞬間、理解する。そういやこの間、卵一パック買ってたな。それなのに、また買ってきてしまった。だって安かったし……
「……まあ、仕方ない」
とりあえず冷蔵庫に入れておいて、他のものも片づけよう。ハムとベーコン、チーズ、それから野菜を色々。トマトにキュウリ、キャベツ、ねぎ。冷凍食品もいろいろ買ってきたから、全体的に冷たい。
よし、こんなもんか。買い物は片付けまでが大変だ。これだけでひと仕事である。
「ふう」
ソファに座り、スマホを手に取る。うめずがとことことやって来て、傍らに飛び乗って座った。ふわふわと触れる毛がくすぐったい。
「えーっと、卵、レシピっと……」
いっぺんに大量消費ってのもいいし、いろんなのを作るのもいい。卵焼き、オムレツやオムライス、おでん……卵って、いろいろ作れるもんだな。
「片っ端から作ってみるか」
なんて、食べきれなきゃ意味がないからな。まあ、目玉焼きやら卵焼きやら作るから、そう悩まずとも消費していくか。
誰もいない視聴覚室の機材室。今日は久々に部活である。大会前でいろいろ忙しいらしく、雑用に駆り出されている。
ついこの間片付けたはずなのに、机の上はすっかり散らかってしまっている。いらないプリントが山積みだ。こっちの本はどこから引っ張り出してきたんだろう。
「う~ん……」
しかし、そんなことより悩ましいのは、卵の消費ペースである。思ったよりも減らない。卵焼きにしたって毎日は作らないし、毎朝目玉焼きを食べるわけでもない。そもそも、いつも一パックをやっとのことで使っているのだ。二パックもあればそりゃ余る。
「お、一条。早いな」
「おう、早瀬」
部室で荷物を置く場所といえば、いくつも並んだ椅子の上だ。その上にも資料やら機材やらが散らかっているのだが、早瀬は慣れた様子でプリントを机の上に移動させると、そこに荷物を置いた。おお、プリントを片づけたところに再びプリントが。
このプリントは……五年前の日付だ。大会要項、なるほど、今までの大会の資料というわけだ。こういうのはあとでまとめると先生が言っていたし、本棚の方に移動させておこう。
「どうしようかな~……」
「ん? 何がだ?」
早瀬は振り返り、俺の手元に視線を移す。
「ああ、そのCDはプロのアナウンサーが朗読してるやつだな。今、練習中に使ってるから、CDプレイヤーの近くに置いておいてくれ」
あ、これの片付けで迷ってるって思われたのか。本棚に散乱していたCD、散乱してたんじゃなくて置いていたのか。
「ああ、分かった」
「じゃ、よろしくなー」
早瀬は荷物を持って、機材室から視聴覚室へ行ってしまった。
それから部員が次々とやって来ては練習に向かった。咲良と朝比奈が来たのはその後である。
三人も揃えばあっという間に掃除が終わる。片付けさえ終われば帰っていいと聞いていたので、とっとと帰る。晩飯、何か卵使った料理にしよう。
そうだ、最近かに玉食ってないな。かに玉の素買って帰ろう。
卵を三個溶いて、かに玉の素を入れ、さらに混ぜる。それを油を敷いて温めて置いたフライパンに注ぎ入れる。パッケージのように焼いてみたいものだが、火の通り具合が気になって、ついそぼろになってしまう。ま、これで十分うまいからいいんだが。
卵は皿に移し、フライパンに水を適量入れて、餡の素を溶かす。火にかけてとろみがついたら卵にかける。グリンピースの緑がきれいだ。
「いただきます」
白米にかに玉。何で思いつかなかったかなあ、これ。ふわふわっとした卵にとろりと甘い餡がよく合う。うま味がジュワッと口いっぱいに広がって、時折感じるきくらげやたけのこの食感が面白い。
まるで飲み物のような勢いで食べてしまう。素はもう一つ買ってきてるし、明日も作ろう。
「ごちそうさまでした」
さて、片付けをしたらもうひと仕事。買い物に行って、売り場で見かけて、無性に食べたくなったものがある。今日はもう食べないが、明日の準備だ。
五個くらい茹でとけばいいかな、卵。
茹で卵の殻むきって、楽な時もあれば至難の業ってときもある。今日は案外楽だった。つるつるっとむけると気持ちがいい。
これを全部潰して、マヨネーズで和える。少し粒こしょうを入れようかな。
買ってきたロールパンに切れ込みを入れて、まずはハム。そしてマヨネーズで和えた卵を挟んで、あとは薄切りにしたきゅうり。
卵サンドの完成だ。これは昼ご飯に……と思ったが、今も食べたいな。一個だけ食べちゃうか。
昨日、総菜コーナーで見てからずっと食べたかったんだよなあ。
「いただきます」
つやっとしたロールパンの表面を見るたび、きれいだなあ、とぼんやり思う。ふわふわのパンにもこもこ、ごろっとした卵。たっぷりのマヨネーズと和えているので口当たりはなめらかだ。黒コショウのピリッとした風味が味を引き締める。
そこにハムの塩気と、きゅうりのみずみずしさと青さがよく合う。ハムから滲み出すうま味がいいなあ。
キュウリのポリッとした食感、やわらかいものばかりだから、いいアクセントになる。なんとなくタルタルソースを思わせるというか……ああ、タルタルソースも卵使うよな。エビフライとか、白身のフライを買ってきてもいいなあ。
それにしても、卵サンドってこんなにうまかったか。また作ろうと思うくらいにはうまい。卵を消費しなければ、と思っていたが、むしろ足りなくなるのでは?
また買っとかないとなあ、卵。
……でもまあ、何でもほどほどが一番だよな。
いやあ、よく食ったなあ、卵。おいしく、全部何とか食べきってしまいそうだ。
「ごちそうさまでした」
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