42 / 893
日常
第四十二話 かつ丼
しおりを挟む
「映画?」
課外が休みになるまで一週間を切ったころ。咲良は俺と朝比奈と百瀬をファストフード店まで連行した。早く帰りてえのに。……まあ、別に大した用事もないのでいいのだが。
昼時ということもあってか店内は結構混んでいた。俺たちは壁際の四人席に座る。
「そ、映画。見に行かね?」
俺の隣でジュース片手に、咲良はそう提案した。俺は黙々とポテトを食う。こういうとこのポテトってラードで揚げてあるから、家では味わえないカリカリ感があるんだよな。あと、ハンバーガーによく合う。
「いいねー、最近映画見に行ってないし、楽しそう」
咲良の正面に座る百瀬が無邪気に笑ってシェイクをすする。
「それ期間限定だっけ」
「うん、桃。結構いけるよー」
百瀬の隣に座った朝比奈はこういう店に行き慣れていないらしい。興味深そうに、なおかつ慎重にハンバーガーの包みを開いていた。
「で、いつ行くの? できるなら予約しておきたいよね」
「おう。だからさ、お前らの予定を聞きたくて」
「俺はたいてい暇だよ~」
「春都と朝比奈は?」
父さんと母さんが帰ってくるの、確か盆ぐらいだったよな。
「盆以外なら大丈夫だ」
「そっか、朝比奈は?」
「俺も一条と同じ感じだ」
じゃあ、盆以外ならいいってことだな! と咲良が意気込む。
「課外休みっていつからいつまでだっけ?」
「確か……十二日から、二十二日?」
俺はスマホのカレンダーで確認をする。
「うん、そうだ」
「じゃ、盆明けに行こうぜ。二十日とか、そんくらい」
「いいねえ。てか、何見るん?」
シェイクを飲み終わったらしい百瀬がスマホを取り出した。
「えーっと、上映スケジュール……っと。あ、どこの映画館?」
「リニューアルしたショッピングモール」
咲良の返事に「オッケー」と言うと、百瀬は映画の上映スケジュールを表示したスマホをテーブルに置いた。
「盆明けのスケジュールはこんな感じ。何見る?」
俺たちはそろってその画面をのぞき込んだ。
「やっぱアニメ多いな」
「夏休みだもんね」
「うーん、洋画は前作見とかないと分かんなさそうなのばっかりだ」
「なんだよー。なんか恋愛もの多くねえ?」
公開されている作品はかなりの数あるが、ピンとくるものはこれといってない。
これならDVD借りて見た方がいいんじゃないかと思うが……。
「あ、これ。これどう?」
咲良が示したのは、最近テレビCMとかバラエティー番組での番宣でよく見る映画のタイトルだった。
「あー、いいんじゃね? これ、面白そうだったし」
「うん。いいと思う」
「コメディだし、楽しそうでいいじゃん!」
「じゃ、これでけってーい」
確か漫画が原作で、読んだことはないけど予告を見る限り結構ぶっ飛んだ内容だった気がする。
「映画は何時の?」
「昼ぐらい? 飯の前がいいな」
「じゃ、朝一かその次ぐらいだねー」
そういえば、そのショッピングモールにはあまり行ったことがないな。俺は咲良に聞いてみる。
「なんか飯屋あったか?」
「色々あるぞ。和、洋、中なんでもござれって感じ。フードコートにはタピオカやらクレープの店もあるぜ」
咲良は結構一人で遊びに行っているらしいから、さすがに詳しい。
「でかい本屋もある」
「それは知ってる。漫画やら参考書やら買いに行ったことがある」
「参考書。まあ、確かにこの辺よりは品ぞろえいいか」
朝比奈と百瀬の方から「席は通路側がいいよねー」「ああ」などと話を進めているのが聞こえてきて、俺と咲良もそれに加わる。
「後ろの方も結構いいぜ。一番後ろか、その前か」
「確かに。周りに人がいないからよさそうだな」
映画も楽しみだが、昼飯は何が食いたいだろうか。
なんでもありって言ってたし、後でどんな店があるか調べてみよう。
「そろそろ晩飯作るかー」
夕暮れ時。大して面白い番組もなかったが惰性でつけていたテレビを消し立ち上がる。もう六時半を過ぎているが、外は明るい。
映画の日の飯も気になるが、まずは今日の晩飯だ。
昼、帰る途中で肉屋に寄ってみたら、メンチカツは残っていなかったがとんかつが売っていた。いい色に揚がったそれを見て、俺は思わず買ってしまった。
そのままソースで食うのもいいが、今日はひと工夫する。
まずは玉ねぎを切る。そしてフライパンに入れ、水、酒、みりん、醤油、砂糖、顆粒だしを入れて、玉ねぎが少ししんなりするまで煮る。
そこにあらかじめ切っておいたとんかつを入れ、さらに溶き卵。ふたをして少ししたら完成だ。それをどんぶりに持ったご飯の上に慎重によそう。
かつ丼の完成だ。味噌玉があるので、それでみそ汁を作る。完璧だ。
「いただきます」
やっぱりカツを最初に食べたい。ふやけていながらもサクッとした触感の残った衣、ロース肉はとてもジューシーだ。甘い味が染み染みでおいしい。卵もいい感じにトロっとしている。
ご飯もつゆだくでたまらない。カツと一緒に食べればもう口の中が幸せだ。
箸休めにみそ汁を一口。わかめの味噌汁はかすかな磯の風味が心地よい。
そして再びとんかつ。ちょうど脂身の部分だったらしい。つゆとは違う肉の甘味がおいしいな。
結構とんかつ分厚いし、すごく食べ応えがある。ソースかつ丼とかもあるみたいだし、今度はそれで作ってみようかな。千切りキャベツを一緒にしてもおいしいだろう。
でも、甘辛い卵とじのかつ丼、好きなんだよな。カリカリとジュワッとが一緒に味わえるの、たまんないんだよ。
「ごちそうさまでした」
課外が休みになるまで一週間を切ったころ。咲良は俺と朝比奈と百瀬をファストフード店まで連行した。早く帰りてえのに。……まあ、別に大した用事もないのでいいのだが。
昼時ということもあってか店内は結構混んでいた。俺たちは壁際の四人席に座る。
「そ、映画。見に行かね?」
俺の隣でジュース片手に、咲良はそう提案した。俺は黙々とポテトを食う。こういうとこのポテトってラードで揚げてあるから、家では味わえないカリカリ感があるんだよな。あと、ハンバーガーによく合う。
「いいねー、最近映画見に行ってないし、楽しそう」
咲良の正面に座る百瀬が無邪気に笑ってシェイクをすする。
「それ期間限定だっけ」
「うん、桃。結構いけるよー」
百瀬の隣に座った朝比奈はこういう店に行き慣れていないらしい。興味深そうに、なおかつ慎重にハンバーガーの包みを開いていた。
「で、いつ行くの? できるなら予約しておきたいよね」
「おう。だからさ、お前らの予定を聞きたくて」
「俺はたいてい暇だよ~」
「春都と朝比奈は?」
父さんと母さんが帰ってくるの、確か盆ぐらいだったよな。
「盆以外なら大丈夫だ」
「そっか、朝比奈は?」
「俺も一条と同じ感じだ」
じゃあ、盆以外ならいいってことだな! と咲良が意気込む。
「課外休みっていつからいつまでだっけ?」
「確か……十二日から、二十二日?」
俺はスマホのカレンダーで確認をする。
「うん、そうだ」
「じゃ、盆明けに行こうぜ。二十日とか、そんくらい」
「いいねえ。てか、何見るん?」
シェイクを飲み終わったらしい百瀬がスマホを取り出した。
「えーっと、上映スケジュール……っと。あ、どこの映画館?」
「リニューアルしたショッピングモール」
咲良の返事に「オッケー」と言うと、百瀬は映画の上映スケジュールを表示したスマホをテーブルに置いた。
「盆明けのスケジュールはこんな感じ。何見る?」
俺たちはそろってその画面をのぞき込んだ。
「やっぱアニメ多いな」
「夏休みだもんね」
「うーん、洋画は前作見とかないと分かんなさそうなのばっかりだ」
「なんだよー。なんか恋愛もの多くねえ?」
公開されている作品はかなりの数あるが、ピンとくるものはこれといってない。
これならDVD借りて見た方がいいんじゃないかと思うが……。
「あ、これ。これどう?」
咲良が示したのは、最近テレビCMとかバラエティー番組での番宣でよく見る映画のタイトルだった。
「あー、いいんじゃね? これ、面白そうだったし」
「うん。いいと思う」
「コメディだし、楽しそうでいいじゃん!」
「じゃ、これでけってーい」
確か漫画が原作で、読んだことはないけど予告を見る限り結構ぶっ飛んだ内容だった気がする。
「映画は何時の?」
「昼ぐらい? 飯の前がいいな」
「じゃ、朝一かその次ぐらいだねー」
そういえば、そのショッピングモールにはあまり行ったことがないな。俺は咲良に聞いてみる。
「なんか飯屋あったか?」
「色々あるぞ。和、洋、中なんでもござれって感じ。フードコートにはタピオカやらクレープの店もあるぜ」
咲良は結構一人で遊びに行っているらしいから、さすがに詳しい。
「でかい本屋もある」
「それは知ってる。漫画やら参考書やら買いに行ったことがある」
「参考書。まあ、確かにこの辺よりは品ぞろえいいか」
朝比奈と百瀬の方から「席は通路側がいいよねー」「ああ」などと話を進めているのが聞こえてきて、俺と咲良もそれに加わる。
「後ろの方も結構いいぜ。一番後ろか、その前か」
「確かに。周りに人がいないからよさそうだな」
映画も楽しみだが、昼飯は何が食いたいだろうか。
なんでもありって言ってたし、後でどんな店があるか調べてみよう。
「そろそろ晩飯作るかー」
夕暮れ時。大して面白い番組もなかったが惰性でつけていたテレビを消し立ち上がる。もう六時半を過ぎているが、外は明るい。
映画の日の飯も気になるが、まずは今日の晩飯だ。
昼、帰る途中で肉屋に寄ってみたら、メンチカツは残っていなかったがとんかつが売っていた。いい色に揚がったそれを見て、俺は思わず買ってしまった。
そのままソースで食うのもいいが、今日はひと工夫する。
まずは玉ねぎを切る。そしてフライパンに入れ、水、酒、みりん、醤油、砂糖、顆粒だしを入れて、玉ねぎが少ししんなりするまで煮る。
そこにあらかじめ切っておいたとんかつを入れ、さらに溶き卵。ふたをして少ししたら完成だ。それをどんぶりに持ったご飯の上に慎重によそう。
かつ丼の完成だ。味噌玉があるので、それでみそ汁を作る。完璧だ。
「いただきます」
やっぱりカツを最初に食べたい。ふやけていながらもサクッとした触感の残った衣、ロース肉はとてもジューシーだ。甘い味が染み染みでおいしい。卵もいい感じにトロっとしている。
ご飯もつゆだくでたまらない。カツと一緒に食べればもう口の中が幸せだ。
箸休めにみそ汁を一口。わかめの味噌汁はかすかな磯の風味が心地よい。
そして再びとんかつ。ちょうど脂身の部分だったらしい。つゆとは違う肉の甘味がおいしいな。
結構とんかつ分厚いし、すごく食べ応えがある。ソースかつ丼とかもあるみたいだし、今度はそれで作ってみようかな。千切りキャベツを一緒にしてもおいしいだろう。
でも、甘辛い卵とじのかつ丼、好きなんだよな。カリカリとジュワッとが一緒に味わえるの、たまんないんだよ。
「ごちそうさまでした」
26
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる