117 / 893
日常
第百十七話 親子丼
しおりを挟む
今日は朝から天気がいい。
薄い色の空には淡い雲が浮かび、太陽の光は穏やかだ。吹く風は冷たいが、とても気持ちがいい。すがすがしい気分とはまさにこのことだろう。
まあ一番はクラスマッチが終わったから、こんな気分になったんだろうけど。
「よっしゃ」
今日はやることが山ほどある。
この間冬服を出した時に思ったのだが、物置が散らかっている。
とりあえず突っ込んだというような本の山にへしゃげた段ボール。引っ越した時に片付くかとも思ったが、なんかただ移動させただけになってしまった。
まあそうだよな。持ち主が片付けないと散らかったままだよな。
「えーっと……」
一気に片付けるとたぶん俺はキャパオーバーになってしまい、午後からの用事がこなせない。
とりあえずボロボロの段ボールから片づけていくか。
「中は何だ?」
段ボールの裂け目から見えるのは、ノートや紙の束。
うっ、重い。なんか関節がパキッていった。どこの関節だ。
「いてて……えーっと?」
どうやら小さいころの落書き帳らしい。なんかとりあえず線を引きましたーって感じのやつが多いな。捨てられるものは捨てるとしよう。
お、この自由帳、なんか覚えてるぞ。小学生のころいろいろ書きなぐったやつだ。中身を見ると、その時々で何にはまっていたかよく分かる。あんときはめちゃくちゃうまく描けてると思ってたけど、線ぐっちゃぐちゃ。
でもなんか全部まとめて捨てるのも胸が痛い。
「あ、そうだ」
きれいな箱を一つ用意する。
これに入る分だけ取っておくことにしよう。
「これはまた文字が大量に……」
何が書きたかったんだろう、俺。読解不可能だ。
こっちはやたらめったら迷路が描いてある。そしてこれは……円と、その中に幾何学模様。魔法陣のつもりで描いたんだったか。
ん? なんか既製品じゃない、自分で作ったような、不格好な冊子が出てきた。
「おしながき」
ああー、そういやしょっちゅう書いてたなあ、お品書き。
ランチAとか定食Bとか、内容のよく分からないものの羅列が主だが、中には結構具体的にメニューを考えているやつもあった。
「親子丼、卵焼き、目玉焼き……見事に卵料理だな」
うわ、目玉焼き高いな。値段設定どうなってんだ。
で、こっちはお子様ランチ。ご丁寧に絵まで描いている。オムライス、ハンバーグ、からあげにナポリタン。デザートはプリンか。
見事に食いたいもん全のっけって感じだな。でも、うまそう。
「今度作ってみるか」
これは机に置いとくとして……
さて、ちゃっちゃと終わらせてしまおう。
何とか区切りのいいところまで片づけた。さて、午後からは行くところがある。
うめずとともに向かったのは店だ。
「来たよー」
「いらっしゃーい」
店で仕事をしていたのはばあちゃんだった。
「じいちゃんは?」
「配達」
「なるほど」
今日もどうやら忙しいらしい。
まあ、だからこそ俺が来たわけだが。
「じゃあ台所借りるね」
「どうぞどうぞ。ありがとうね」
そうだ。今日は昼飯を作りに来たのだ。
材料はあるものを使う。何でも使っていいと言われているが、何を作ろうか。
「うーん、鶏肉が結構あるな。……よし」
親子丼にしよう。それとみそ汁。みそ汁の具はなめこにするか。
まずは親子丼から作っていくことにしよう。
玉ねぎを半分に切って程よい薄さに切っていく。テレビなんかでは一人前ずつちっちゃい鍋みたいなので作っていくが、俺はフライパンを使う。
フライパンに水、醤油、砂糖、みりん、酒を入れて煮立たせ、玉ねぎと鶏を入れる。
鶏肉に火が通ったら、あとは卵を溶いたのを入れれば完成だ。それはじいちゃんが帰ってきて、ばあちゃんの仕事が一段落してからでいいか。
みそ汁は顆粒出汁を使う。味噌を溶いて、さっと洗ったなめこを入れ、ねぎを散らせばよし。
「あら、いい匂い」
片づけをしていたらばあちゃんが上がってきた。すかさずうめずが駆け寄る。
「何作ってくれるの?」
「親子丼」
「お~、いいねえ」
と、その時、チャイムが鳴った。お客さんが来た時に鳴るやつで、コンビニのチャイムみたいなものだ。
「あ、ちょうど帰ってきたみたいね」
じいちゃんが帰ってきたらしい。
「おかえりー」
「おお、春都。もう来てたか」
「ご飯作ってくれてるの」
さて、それじゃあ仕上げようかね。
「はい、お待たせ」
ふんわり卵のつゆだく親子丼、完成だ。
「いただきます」
とりあえずみそ汁を一口すする。とろりとした舌触りと、プチっとした歯ごたえのなめこ。なめこって意外と主張がないんだ。
さて、親子丼はうまくできたかな。
じゅわっと汁に浸された卵、程よく食感の残る玉ねぎ、ほろっと崩れるごはん。おいしい。鶏肉はもちもちで、味がちゃんと染みてる。
「うん、うまいな」
じいちゃんが豪快にごはんをかきこむ。結構ご飯は盛ってたけど、もう半分近く食っている。
「おいしい。上手になったねえ」
ばあちゃんも嬉しそうに笑ってほおばる。
「誰かがご飯を作ってくれるのは、うれしいものね。上がってきたらいい匂いがする、すごくいい」
「そっか」
「また作りに来てくれていいよ」
誰かが作ってくれるご飯のありがたみはよく分かる。でも、誰かのために作るご飯というのもいいものだ。
こんなに喜んでくれるなら、また、作りにこよう。
今度はちょっと手の込んだものも作れるようにしておこうかな。
「ごちそうさまでした」
薄い色の空には淡い雲が浮かび、太陽の光は穏やかだ。吹く風は冷たいが、とても気持ちがいい。すがすがしい気分とはまさにこのことだろう。
まあ一番はクラスマッチが終わったから、こんな気分になったんだろうけど。
「よっしゃ」
今日はやることが山ほどある。
この間冬服を出した時に思ったのだが、物置が散らかっている。
とりあえず突っ込んだというような本の山にへしゃげた段ボール。引っ越した時に片付くかとも思ったが、なんかただ移動させただけになってしまった。
まあそうだよな。持ち主が片付けないと散らかったままだよな。
「えーっと……」
一気に片付けるとたぶん俺はキャパオーバーになってしまい、午後からの用事がこなせない。
とりあえずボロボロの段ボールから片づけていくか。
「中は何だ?」
段ボールの裂け目から見えるのは、ノートや紙の束。
うっ、重い。なんか関節がパキッていった。どこの関節だ。
「いてて……えーっと?」
どうやら小さいころの落書き帳らしい。なんかとりあえず線を引きましたーって感じのやつが多いな。捨てられるものは捨てるとしよう。
お、この自由帳、なんか覚えてるぞ。小学生のころいろいろ書きなぐったやつだ。中身を見ると、その時々で何にはまっていたかよく分かる。あんときはめちゃくちゃうまく描けてると思ってたけど、線ぐっちゃぐちゃ。
でもなんか全部まとめて捨てるのも胸が痛い。
「あ、そうだ」
きれいな箱を一つ用意する。
これに入る分だけ取っておくことにしよう。
「これはまた文字が大量に……」
何が書きたかったんだろう、俺。読解不可能だ。
こっちはやたらめったら迷路が描いてある。そしてこれは……円と、その中に幾何学模様。魔法陣のつもりで描いたんだったか。
ん? なんか既製品じゃない、自分で作ったような、不格好な冊子が出てきた。
「おしながき」
ああー、そういやしょっちゅう書いてたなあ、お品書き。
ランチAとか定食Bとか、内容のよく分からないものの羅列が主だが、中には結構具体的にメニューを考えているやつもあった。
「親子丼、卵焼き、目玉焼き……見事に卵料理だな」
うわ、目玉焼き高いな。値段設定どうなってんだ。
で、こっちはお子様ランチ。ご丁寧に絵まで描いている。オムライス、ハンバーグ、からあげにナポリタン。デザートはプリンか。
見事に食いたいもん全のっけって感じだな。でも、うまそう。
「今度作ってみるか」
これは机に置いとくとして……
さて、ちゃっちゃと終わらせてしまおう。
何とか区切りのいいところまで片づけた。さて、午後からは行くところがある。
うめずとともに向かったのは店だ。
「来たよー」
「いらっしゃーい」
店で仕事をしていたのはばあちゃんだった。
「じいちゃんは?」
「配達」
「なるほど」
今日もどうやら忙しいらしい。
まあ、だからこそ俺が来たわけだが。
「じゃあ台所借りるね」
「どうぞどうぞ。ありがとうね」
そうだ。今日は昼飯を作りに来たのだ。
材料はあるものを使う。何でも使っていいと言われているが、何を作ろうか。
「うーん、鶏肉が結構あるな。……よし」
親子丼にしよう。それとみそ汁。みそ汁の具はなめこにするか。
まずは親子丼から作っていくことにしよう。
玉ねぎを半分に切って程よい薄さに切っていく。テレビなんかでは一人前ずつちっちゃい鍋みたいなので作っていくが、俺はフライパンを使う。
フライパンに水、醤油、砂糖、みりん、酒を入れて煮立たせ、玉ねぎと鶏を入れる。
鶏肉に火が通ったら、あとは卵を溶いたのを入れれば完成だ。それはじいちゃんが帰ってきて、ばあちゃんの仕事が一段落してからでいいか。
みそ汁は顆粒出汁を使う。味噌を溶いて、さっと洗ったなめこを入れ、ねぎを散らせばよし。
「あら、いい匂い」
片づけをしていたらばあちゃんが上がってきた。すかさずうめずが駆け寄る。
「何作ってくれるの?」
「親子丼」
「お~、いいねえ」
と、その時、チャイムが鳴った。お客さんが来た時に鳴るやつで、コンビニのチャイムみたいなものだ。
「あ、ちょうど帰ってきたみたいね」
じいちゃんが帰ってきたらしい。
「おかえりー」
「おお、春都。もう来てたか」
「ご飯作ってくれてるの」
さて、それじゃあ仕上げようかね。
「はい、お待たせ」
ふんわり卵のつゆだく親子丼、完成だ。
「いただきます」
とりあえずみそ汁を一口すする。とろりとした舌触りと、プチっとした歯ごたえのなめこ。なめこって意外と主張がないんだ。
さて、親子丼はうまくできたかな。
じゅわっと汁に浸された卵、程よく食感の残る玉ねぎ、ほろっと崩れるごはん。おいしい。鶏肉はもちもちで、味がちゃんと染みてる。
「うん、うまいな」
じいちゃんが豪快にごはんをかきこむ。結構ご飯は盛ってたけど、もう半分近く食っている。
「おいしい。上手になったねえ」
ばあちゃんも嬉しそうに笑ってほおばる。
「誰かがご飯を作ってくれるのは、うれしいものね。上がってきたらいい匂いがする、すごくいい」
「そっか」
「また作りに来てくれていいよ」
誰かが作ってくれるご飯のありがたみはよく分かる。でも、誰かのために作るご飯というのもいいものだ。
こんなに喜んでくれるなら、また、作りにこよう。
今度はちょっと手の込んだものも作れるようにしておこうかな。
「ごちそうさまでした」
14
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる