一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第百十七話 親子丼

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 今日は朝から天気がいい。

 薄い色の空には淡い雲が浮かび、太陽の光は穏やかだ。吹く風は冷たいが、とても気持ちがいい。すがすがしい気分とはまさにこのことだろう。

 まあ一番はクラスマッチが終わったから、こんな気分になったんだろうけど。

「よっしゃ」

 今日はやることが山ほどある。

 この間冬服を出した時に思ったのだが、物置が散らかっている。

 とりあえず突っ込んだというような本の山にへしゃげた段ボール。引っ越した時に片付くかとも思ったが、なんかただ移動させただけになってしまった。

 まあそうだよな。持ち主が片付けないと散らかったままだよな。

「えーっと……」

 一気に片付けるとたぶん俺はキャパオーバーになってしまい、午後からの用事がこなせない。

 とりあえずボロボロの段ボールから片づけていくか。

「中は何だ?」

 段ボールの裂け目から見えるのは、ノートや紙の束。

 うっ、重い。なんか関節がパキッていった。どこの関節だ。

「いてて……えーっと?」

 どうやら小さいころの落書き帳らしい。なんかとりあえず線を引きましたーって感じのやつが多いな。捨てられるものは捨てるとしよう。

 お、この自由帳、なんか覚えてるぞ。小学生のころいろいろ書きなぐったやつだ。中身を見ると、その時々で何にはまっていたかよく分かる。あんときはめちゃくちゃうまく描けてると思ってたけど、線ぐっちゃぐちゃ。

 でもなんか全部まとめて捨てるのも胸が痛い。

「あ、そうだ」

 きれいな箱を一つ用意する。

 これに入る分だけ取っておくことにしよう。

「これはまた文字が大量に……」

 何が書きたかったんだろう、俺。読解不可能だ。

 こっちはやたらめったら迷路が描いてある。そしてこれは……円と、その中に幾何学模様。魔法陣のつもりで描いたんだったか。

 ん? なんか既製品じゃない、自分で作ったような、不格好な冊子が出てきた。

「おしながき」

 ああー、そういやしょっちゅう書いてたなあ、お品書き。

 ランチAとか定食Bとか、内容のよく分からないものの羅列が主だが、中には結構具体的にメニューを考えているやつもあった。

「親子丼、卵焼き、目玉焼き……見事に卵料理だな」

 うわ、目玉焼き高いな。値段設定どうなってんだ。

 で、こっちはお子様ランチ。ご丁寧に絵まで描いている。オムライス、ハンバーグ、からあげにナポリタン。デザートはプリンか。

 見事に食いたいもん全のっけって感じだな。でも、うまそう。

「今度作ってみるか」

 これは机に置いとくとして……

 さて、ちゃっちゃと終わらせてしまおう。



 何とか区切りのいいところまで片づけた。さて、午後からは行くところがある。

 うめずとともに向かったのは店だ。

「来たよー」

「いらっしゃーい」

 店で仕事をしていたのはばあちゃんだった。

「じいちゃんは?」

「配達」

「なるほど」

 今日もどうやら忙しいらしい。

 まあ、だからこそ俺が来たわけだが。

「じゃあ台所借りるね」

「どうぞどうぞ。ありがとうね」

 そうだ。今日は昼飯を作りに来たのだ。

 材料はあるものを使う。何でも使っていいと言われているが、何を作ろうか。

「うーん、鶏肉が結構あるな。……よし」

 親子丼にしよう。それとみそ汁。みそ汁の具はなめこにするか。

 まずは親子丼から作っていくことにしよう。

 玉ねぎを半分に切って程よい薄さに切っていく。テレビなんかでは一人前ずつちっちゃい鍋みたいなので作っていくが、俺はフライパンを使う。

 フライパンに水、醤油、砂糖、みりん、酒を入れて煮立たせ、玉ねぎと鶏を入れる。

 鶏肉に火が通ったら、あとは卵を溶いたのを入れれば完成だ。それはじいちゃんが帰ってきて、ばあちゃんの仕事が一段落してからでいいか。

 みそ汁は顆粒出汁を使う。味噌を溶いて、さっと洗ったなめこを入れ、ねぎを散らせばよし。

「あら、いい匂い」

 片づけをしていたらばあちゃんが上がってきた。すかさずうめずが駆け寄る。

「何作ってくれるの?」

「親子丼」

「お~、いいねえ」

 と、その時、チャイムが鳴った。お客さんが来た時に鳴るやつで、コンビニのチャイムみたいなものだ。

「あ、ちょうど帰ってきたみたいね」

 じいちゃんが帰ってきたらしい。

「おかえりー」

「おお、春都。もう来てたか」

「ご飯作ってくれてるの」

 さて、それじゃあ仕上げようかね。

「はい、お待たせ」

 ふんわり卵のつゆだく親子丼、完成だ。

「いただきます」

 とりあえずみそ汁を一口すする。とろりとした舌触りと、プチっとした歯ごたえのなめこ。なめこって意外と主張がないんだ。

 さて、親子丼はうまくできたかな。

 じゅわっと汁に浸された卵、程よく食感の残る玉ねぎ、ほろっと崩れるごはん。おいしい。鶏肉はもちもちで、味がちゃんと染みてる。

「うん、うまいな」

 じいちゃんが豪快にごはんをかきこむ。結構ご飯は盛ってたけど、もう半分近く食っている。

「おいしい。上手になったねえ」

 ばあちゃんも嬉しそうに笑ってほおばる。

「誰かがご飯を作ってくれるのは、うれしいものね。上がってきたらいい匂いがする、すごくいい」

「そっか」

「また作りに来てくれていいよ」

 誰かが作ってくれるご飯のありがたみはよく分かる。でも、誰かのために作るご飯というのもいいものだ。

 こんなに喜んでくれるなら、また、作りにこよう。

 今度はちょっと手の込んだものも作れるようにしておこうかな。



「ごちそうさまでした」

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