一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第四百八十一話 豚肉ともやし炒め

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 布団のゴワゴワが気になって目が覚める。まだ暗い。もうちょっと寝られるかな。
「スマホスマホ……」
 今日は休みだし、急ぐこともない。もう一時間くらい寝て……
「うぇ、もう六時なのかよ」
 暗い時間が長くなったもんだなあ。えー、どうしよう。別に寝ても支障はないけど、せっかく起きたしなあ……起きとくかあ……
「はあ、布団はどうなってんだ」
 丸まった毛布と布団をきれいにする。あー、めんどくせえ。眠い状態で布団の位置をきれいにするのはとてもしんどい。角、どこだよ。なんか辺の長さ合わねえし。あっ、しかも毛布、裏表逆じゃねえか。
「あーもーっ」
 何とか畳んで、片づける。はあ、どんだけ寝相が悪いんだ、俺は。
「うー、冷えるなあ、今日は……」
 着替えを済ませ、居間に向かう。長袖のパーカーがちょうどいい季節だ。でも昼間は結構暖かいんだよなあ。まあ、それは外に出たらの話で、家の中はとてもひんやりしている。何なんだろう、あれ。家の外の方が暖かいって。やっぱりお日様は偉大だなあ。
「わうっ」
「おはよう、うめず」
 ヒーターの電源を入れ、起動するまでの間は洗面所へ向かう。風呂掃除がしんどい季節だ。昼、暖かくなった時にしよう。
「水冷たぁ……」
 お湯にしよう。顔洗って、歯ぁ磨いて、洗濯機を回す。昼間晴れるなら、外に干してもいい。風が吹くとよく乾くんだけどなあ。本格的に寒いとヒーターがついてる家の中で乾くんだが、この時期が一番微妙だ。
「朝飯何にしよう」
 ササッと食べたいし、いいや、お茶漬けにしよう。お湯を沸かす間、どんぶりに飯をよそい、お茶漬けの素をかける。そんで、おかきをひとつまみ。お湯をかける前のカリカリした感じ、うまい。香ばしいなあ。
 この抹茶塩も何気に好きなんだよな。うま味があって。いっそこの味のふりかけとかあればいいのにとさえ思う。
 お湯が沸いたら適量注ぎ入れて……よし、いい感じだ。
「いただきます」
 ご飯をほぐし、やけどしないようにさらさらと口に入れる。んー、温まるなあ。程よい塩味と濃い目のうま味。少しふにゃっとした食感になったおかきもまたいい。のりの香りも立って、何とバランスの取れた味だろう。
「ふー、ごちそうさまでした」
 お茶漬けは洗いものも楽なんだよな。油使ってないし、茶碗一つだけだし。そう考えると、お茶漬けってよくできた食べ物なのではなかろうか。カレーとかそうめんとかも食べるには楽だけど、準備するとなると結構手がかかるし、片付けもなあ。
 ……作ってもらえるって、ありがたいことなんだよなあ。もっと感謝しないといけないなあ。
 さて、片付けが済んだら、勉強だ。もっかいワーク解いて、単語確認して、教科書を一通り読んで……あー、保健体育と家庭科のテストもあるんだっけ。体育の実技で点数取れない分、知識で点数とらないと。
「んー……読めん」
 自分で書いときながら、雑過ぎて読めない字が多々ある。眠かったからとかそういうことじゃなくて、シンプルに字の癖が強すぎるんだろうな。
 落ち着いて書くとそうでもないけどなあ。中学の頃書道部に入って、筆で書く字はかなりうまくなったし、硬筆も読める程度になった。でもやっぱり、元の字の癖の強さというのは、なかなかなくならないものだ。
 焦って書いた字とか、ミミズが這うような、ってのを通り越して、蛇がのたうち回ってるような字になってるもんなあ。もっとちゃんと書こう。
「わうっ」
「んー? うめず。どうした」
 うめずがすり寄ってくるので、顎の下をなでてやる。うめずは気持ちよさそうに目を細め、もっとなでろと近寄ってくる。しこたま撫でてやったら満足して、定位置である自分のベッドに向かい、昼寝の態勢に入った。
「自由な奴め」
 そうつぶやけば、うめずは大きくあくびをした。
 ああ、俺も横になってゲームがしたい。勉強は嫌いじゃないけど、それでもやはり、ゲームはしたい。
 数学のワーク、二巡目が終わったことだし……
「気分転換するか」
 英語か国語か……悩みどころだなあ。

 正午を告げる音楽でハッとする。もうそんな時間か。
「昼飯、昼飯っと」
 どうりで腹が減るわけだ。まだ何科目か終わってないが、いったん休憩にしよう。
 冷蔵庫からもやしと豚肉を取り出す。もやしは袋を開けて、さっと水で洗う。まずは、豚肉から炒めるか。
 味付けはシンプルに塩コショウ。豚肉を炒めた後にもやしを炒めると、豚肉のうま味がうまいこともやしに移っていいんだ。
 これ、昔っからよく食ってる組み合わせなんだよなあ。たいていの料理には名前がついているものだが、考えてみれば、名前のない料理もよくあるもんだ。まさしくこれがそうだろう。特別な名前はない。豚肉ともやし炒めだ。
 ご飯は大盛りにしよう。
「いただきます」
 まずは醤油とか何もかけないで、豚肉を。
 ああ、これこれ、この味だよ。塩コショウの味がよく分かる感じ。豚肉の脂身は甘く、身は柔く、ジューシーだ。口いっぱいにほおばるとうま味が広がって……うんうん、俺にとっての飯ってのは、こういうやつだ。
 もやしもジャキジャキしてていい感じの炒め具合である。みずみずしくてうまい。何気にいい味してんだよなあ、もやしって。
 こないだみたいにハンバーグに混ぜてもいいんだが、もやし単体でも十分うまい。炒めてよし、茹でてよし、そんで安い。俺はやっぱ、肉を焼いた後のフライパンで炒めたもやしが好きだ。程よく肉のうま味がありつつも、もやしの味は損なわれない感じ。
 今度は醤油を少し垂らして、豚肉でもやしとご飯を一緒に巻く。
 んー、最高にうまい。別々に食うのもうまいが、米の甘味と豚肉の味わい、やわらかさ、塩コショウの風味にもやしのみずみずしい食感、醤油の香ばしさ。これが一体となって、最高のおいしさとなっているのだ。
 鶏肉や牛肉でもいいんだけど、このおいしさは、豚肉ならではのものだよなあ。ちょっとカリッと焼けているところもうまい。
 そんで、味の染みたご飯もうまい。豚肉ももやしもない状態だけど、うま味はちゃんとある、みたいな感じ。ここを箸でさらって食うのがまたうまいんだ。
 山盛りだったが、やっぱり、食べきってしまったな。
 さて、もうひと頑張り、するとしますかね。

「ごちそうさまでした」
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