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日常
第五百六十一話 トマトのスープ
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「うおぉ……」
チョコレート博覧会翌日、朝から体が鉛のようだ。重いというか、痛いというか。人ごみに行くって、こんなに疲れるものだったっけ。ベッドからはいずり出るのがやっとだ。ああ、久しぶりのこの疲労感、筋肉痛というやつか。
やっとのことで身支度を整えて、ソファにダイブする……いや待て、朝飯。これ今ソファに寝っ転がったらもう立ち上がれないやつだ。一気に準備してしまおう。
「何食おうかな……あたた」
昨日の晩までは元気だった……というか、ハイになってたから、みそ汁作ったんだよな。それが中途半端に残ってるから、米にかけて食うか。
昼飯はまた考えよう。
みそ汁を温め直している間に、冷凍ご飯を電子レンジで解凍する。どんぶりにご飯を入れて、温まったみそ汁をかける。ほんのり香ばしい香りが鼻をくすぐった。
「いただきます」
具材はジャガイモと玉ねぎ。この組み合わせのみそ汁は、米に合うんだ。特に、次の日になると、ジャガイモはほろほろに崩れ、玉ねぎはトロットロになり、うまくご飯と混ざっていいんだ。
ほろほろと崩れるごはん、ジャガイモの甘味ととろみ、玉ねぎのほんの少しのサクサク。味噌の香ばしさが増し、疲れていても箸が進む。
昨日のうちに作っておいてよかった。
「ごちそうさまでした」
洗い物までしたら、ようやく、ソファにダイブだ。
「あ~疲れた……」
「くぁ~っふ」
うめずは窓際に座り、大きくあくびをした。
「はぁ……何しよう」
顔だけテレビの方に向けて、とりあえず、テレビをつける。ドラマの再放送か……他に何かやっていないだろうか。アニメ、子供向け番組、ニュース、バラエティ、ドラマ。
『もうすぐ閉幕! チョコレート博覧会、おすすめ三選!』
今日も人がいっぱいだなあ。付き添いでもない限り、行こうとは思えない。みんな、そのやる気はどこから来るんだろう。物産展とかも楽しそうだなあと思いながら行くことはないもんな。
『まず一つ目は、ホットチョコレートとクッキーのセットです』
お、飲んだやつ。うまかったなあ、あれ。クッキーもうまかった。その後に食った焼き鳥もラーメンもうまかったけど。へえー、人気の店なんだ、あれ。
『次にご紹介するのはこちら。見てください、まるで宝石が並んでいるようです!』
俺これ見た。マカロンだな。うまそうだけど高かったなあ。そうそう、隣に、ドライフルーツにチョコレートかけたやつが置いてあるんだよな。オランジェット、あの量であの値段って、目ん玉飛び出るかと思ったぜ。
『最後は……こちら!』
レポーターが両手でそっと持ち上げたのは、ホールケーキだった。生チョコのケーキだそうだが、そんなに特別なのだろうか。似たようなのあっちこっちで売ってたぞ。つやっつやの見た目がきれいだ。
『こちらのケーキ、ココアのスポンジにチョコレートの生クリームをふんだんに盛り付けたもので、中心には……このように、とろける生キャラメルが隠れているんです』
おー、あふれ出てきた。すっげえ。
『表面にはたっぷりと、ほろ苦いチョコレートがコーティングされています。マカロンや生チョコといったデコレーションがかわいらしいですよね~。こちらのケーキ、午後五時からの限定販売ということで、これだけをお目当てに買い物にくるお客様もいらっしゃるとのことです』
ああ、だから百瀬たちは夕方にまた戻って行ったのか。これのためだけに。はあー、すっげえ元気だなあ。
「食ったのかなー……食ったんだろうなあー……」
独り占めしたのだろうか。それとも、家族で食べたのだろうか。あいつのことだし、一人で食ってそうだな。甘いものにだけはこだわるからなあ。特にチョコレートに関してはとことんこだわりがあるようだし。
ホワイトチョコレートはいらない、抹茶もあの店だけ、箱に小粒のチョコレートがぎっしり詰まったやつは各人一箱ずつ確実に確保しろ……
俺もそれなりに食にはこだわるが、あそこまでじゃないなあ。
「ふあ……眠い」
テレビを消し、足元のブランケットをずり上げる。
……やっぱり電気も消そう。今日は天気がいいから、外からの光だけでちょうどいい。ほんのり薄暗いくらいでいいんだ。
うん、いい感じ。さあ、寝よう。自分のために好きなように時間を使っていいって、いいなあ。
……なんか今日の昼寝はいい感じだったみたいだ。頭がすっきりしている。相変わらず体はだるいが、ちょっと元気になった。
「今何時だろ」
スマホで時間を確認する。あ、もうこんな時間。どうりで腹が減っているはずだ。朝飯、みそ汁かけたご飯だけだもんなあ。うまかったけど、足りなかったか。
昼飯でも作るか。
冷蔵庫にはトマトが大量にあるから、それを使ってスープを作る。
トマトはくし形に切る。スープのベースは白だし。そこにトマトを入れて煮ていく。途中でかつお節を入れて、ねぎも散らす。最後に少しとろみをつけたら完成だ。
今度は、ご飯は別盛りで。
「いただきます」
トマト熱いだろうなあ。一切れ、ご飯の上にのせておいて、まずはスープから飲む。
スプーンですくって、一口。トマトの酸味と甘みが染み出した出汁は、うま味が計り知れない。かつお節を入れたのもよかったな。白だしだけとは段違いの風味だ。トロッとしているから、またうまい。
ほうっと胃から温まったところで、トマトをご飯と食べる。うん、程よい温かさだ。
なんだか、リゾットのような味わいだ。ジュワッと染み出すトマトの味に、トロトロの口当たり。ご飯がホロホロと崩れ、やわらかくなる。出汁を少しかけてもうまい。
トマト、スープの中のやつは……やっぱり熱い。でもうまいな。プルプルしたところが特にいい。この食感が苦手でトマトが食べられない、って人は多いように思う。俺は喜んで食う。好みは人それぞれだからとやかく言わないけど、うまいんだよなあ、この部分。生のトマトで塩振ってもうまい。
温かいトマトもいいものだなあ。それに、トマトって出汁とよく合うんだ。温めると皮がぽろっと外れる。くるっと丸まったような皮は、青い風味で、歯ごたえがなかなか好きだ。
麺入れてもうまそうだなあ。今度作るときは、準備しておこう。焼いた餅入れてもいいかもなあ。冷めてもうまいんだ、これが。
でも、今日は熱々のうちに、ご飯だけでなくなってしまいそうだ。
ああ、うまかった。
「ごちそうさまでした」
チョコレート博覧会翌日、朝から体が鉛のようだ。重いというか、痛いというか。人ごみに行くって、こんなに疲れるものだったっけ。ベッドからはいずり出るのがやっとだ。ああ、久しぶりのこの疲労感、筋肉痛というやつか。
やっとのことで身支度を整えて、ソファにダイブする……いや待て、朝飯。これ今ソファに寝っ転がったらもう立ち上がれないやつだ。一気に準備してしまおう。
「何食おうかな……あたた」
昨日の晩までは元気だった……というか、ハイになってたから、みそ汁作ったんだよな。それが中途半端に残ってるから、米にかけて食うか。
昼飯はまた考えよう。
みそ汁を温め直している間に、冷凍ご飯を電子レンジで解凍する。どんぶりにご飯を入れて、温まったみそ汁をかける。ほんのり香ばしい香りが鼻をくすぐった。
「いただきます」
具材はジャガイモと玉ねぎ。この組み合わせのみそ汁は、米に合うんだ。特に、次の日になると、ジャガイモはほろほろに崩れ、玉ねぎはトロットロになり、うまくご飯と混ざっていいんだ。
ほろほろと崩れるごはん、ジャガイモの甘味ととろみ、玉ねぎのほんの少しのサクサク。味噌の香ばしさが増し、疲れていても箸が進む。
昨日のうちに作っておいてよかった。
「ごちそうさまでした」
洗い物までしたら、ようやく、ソファにダイブだ。
「あ~疲れた……」
「くぁ~っふ」
うめずは窓際に座り、大きくあくびをした。
「はぁ……何しよう」
顔だけテレビの方に向けて、とりあえず、テレビをつける。ドラマの再放送か……他に何かやっていないだろうか。アニメ、子供向け番組、ニュース、バラエティ、ドラマ。
『もうすぐ閉幕! チョコレート博覧会、おすすめ三選!』
今日も人がいっぱいだなあ。付き添いでもない限り、行こうとは思えない。みんな、そのやる気はどこから来るんだろう。物産展とかも楽しそうだなあと思いながら行くことはないもんな。
『まず一つ目は、ホットチョコレートとクッキーのセットです』
お、飲んだやつ。うまかったなあ、あれ。クッキーもうまかった。その後に食った焼き鳥もラーメンもうまかったけど。へえー、人気の店なんだ、あれ。
『次にご紹介するのはこちら。見てください、まるで宝石が並んでいるようです!』
俺これ見た。マカロンだな。うまそうだけど高かったなあ。そうそう、隣に、ドライフルーツにチョコレートかけたやつが置いてあるんだよな。オランジェット、あの量であの値段って、目ん玉飛び出るかと思ったぜ。
『最後は……こちら!』
レポーターが両手でそっと持ち上げたのは、ホールケーキだった。生チョコのケーキだそうだが、そんなに特別なのだろうか。似たようなのあっちこっちで売ってたぞ。つやっつやの見た目がきれいだ。
『こちらのケーキ、ココアのスポンジにチョコレートの生クリームをふんだんに盛り付けたもので、中心には……このように、とろける生キャラメルが隠れているんです』
おー、あふれ出てきた。すっげえ。
『表面にはたっぷりと、ほろ苦いチョコレートがコーティングされています。マカロンや生チョコといったデコレーションがかわいらしいですよね~。こちらのケーキ、午後五時からの限定販売ということで、これだけをお目当てに買い物にくるお客様もいらっしゃるとのことです』
ああ、だから百瀬たちは夕方にまた戻って行ったのか。これのためだけに。はあー、すっげえ元気だなあ。
「食ったのかなー……食ったんだろうなあー……」
独り占めしたのだろうか。それとも、家族で食べたのだろうか。あいつのことだし、一人で食ってそうだな。甘いものにだけはこだわるからなあ。特にチョコレートに関してはとことんこだわりがあるようだし。
ホワイトチョコレートはいらない、抹茶もあの店だけ、箱に小粒のチョコレートがぎっしり詰まったやつは各人一箱ずつ確実に確保しろ……
俺もそれなりに食にはこだわるが、あそこまでじゃないなあ。
「ふあ……眠い」
テレビを消し、足元のブランケットをずり上げる。
……やっぱり電気も消そう。今日は天気がいいから、外からの光だけでちょうどいい。ほんのり薄暗いくらいでいいんだ。
うん、いい感じ。さあ、寝よう。自分のために好きなように時間を使っていいって、いいなあ。
……なんか今日の昼寝はいい感じだったみたいだ。頭がすっきりしている。相変わらず体はだるいが、ちょっと元気になった。
「今何時だろ」
スマホで時間を確認する。あ、もうこんな時間。どうりで腹が減っているはずだ。朝飯、みそ汁かけたご飯だけだもんなあ。うまかったけど、足りなかったか。
昼飯でも作るか。
冷蔵庫にはトマトが大量にあるから、それを使ってスープを作る。
トマトはくし形に切る。スープのベースは白だし。そこにトマトを入れて煮ていく。途中でかつお節を入れて、ねぎも散らす。最後に少しとろみをつけたら完成だ。
今度は、ご飯は別盛りで。
「いただきます」
トマト熱いだろうなあ。一切れ、ご飯の上にのせておいて、まずはスープから飲む。
スプーンですくって、一口。トマトの酸味と甘みが染み出した出汁は、うま味が計り知れない。かつお節を入れたのもよかったな。白だしだけとは段違いの風味だ。トロッとしているから、またうまい。
ほうっと胃から温まったところで、トマトをご飯と食べる。うん、程よい温かさだ。
なんだか、リゾットのような味わいだ。ジュワッと染み出すトマトの味に、トロトロの口当たり。ご飯がホロホロと崩れ、やわらかくなる。出汁を少しかけてもうまい。
トマト、スープの中のやつは……やっぱり熱い。でもうまいな。プルプルしたところが特にいい。この食感が苦手でトマトが食べられない、って人は多いように思う。俺は喜んで食う。好みは人それぞれだからとやかく言わないけど、うまいんだよなあ、この部分。生のトマトで塩振ってもうまい。
温かいトマトもいいものだなあ。それに、トマトって出汁とよく合うんだ。温めると皮がぽろっと外れる。くるっと丸まったような皮は、青い風味で、歯ごたえがなかなか好きだ。
麺入れてもうまそうだなあ。今度作るときは、準備しておこう。焼いた餅入れてもいいかもなあ。冷めてもうまいんだ、これが。
でも、今日は熱々のうちに、ご飯だけでなくなってしまいそうだ。
ああ、うまかった。
「ごちそうさまでした」
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