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日常
第六百九十七話 焼き鳥
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集めた草をゴミ捨て場に持って行って持ち場に戻る途中、石上先生とばったり会った。
「やあ、お疲れ様。一条君」
「石上先生、こんにちは」
「今日は暑いね。大丈夫か?」
「はい、何とか」
先生は玄関先を掃除しているようだったが、周囲を見回すと手招きしてきた。何だろう。手伝えっていうんじゃなかろうか。
周囲に見回りの先生はいない。先生は少しだけ声を潜めて言った。
「例の店、覚えているか?」
「例の店……?」
なんだっけ、なんか石上先生と話したっけ。少しばかり沈黙していると、先生は続けた。
「居酒屋だよ。焼き鳥買ってた」
「あー、あの店ですか」
「そう。実はな、テイクアウトのラインナップが増えたんだ」
「なんと」
そいつは聞き捨てならない。石上先生はにやっと笑った。
「先週末から増えているみたいでな。機会があったら、行ってみるといい」
「はい、絶対行きます」
なるほど、この話をするためにこそこそとしていたのか。
なんだかとても重要で、素晴らしい内緒話をしているような気がして、ワクワクした。
そんで今、車に乗って、例の店へ向かっている。近くのコインパーキングに停めれば、あっという間につく距離だ。電車で行くより、だいぶ気が楽だなあ。
「楽しみね、焼鳥!」
その話をして一番乗り気だったのは、母さんだった。何があるだろうかとずっとワクワクしていたようだ。
「晩ご飯はそれでいいもんね」
「十分だな」
父さんは運転しながら言った。
「それと、野菜を準備しようか」
「ああ、いいね」
「うーん、楽しみだなあ。春都は一度食べたんでしょう?」
どうだった? と母さんは聞いてくる。
「うまかったよ。つくねとか、四つ身とか」
「いいね~」
「大きさはどうだったんだ?」
コインパーキングに入りながら、父さんも聞いてくる。
「結構大きいよ。その時は五種類を二本ずつ食べて、それでお腹いっぱいになったし」
「じゃあ、結構な大きさだな。うわぁ、いいなあ」
先を行く二人の後ろをちょこちょことついていく。二人とも、本当に楽しそうだ。
夕暮れ時なのですでに店先にはお店の人が立っていて、良い匂いが漂っていた。ああ、タレと炭の香り。いいねえ、俺もワクワクしてきた。
「こんにちは~」
「はーい、こんにちは……おっ、今日は家族そろって来てくれたんだね」
お店の人が俺の方を見て言ってくる。え、覚えてたのか。すっかり驚いてしまって会釈しかできないでいると、お店の人は快く笑った。
「ちゃーんと覚えてるよ。石上さんの知り合いでしょう?」
「ええ、ああ、はい」
知り合い……まあ、そうともいえるか。
「また買いに来てくれたんだね、ありがとう。どうしますか?」
そうそう、焼き鳥だ、焼き鳥。
えーっと……この間のラインナップに加え、砂ずりと薬研軟骨、レバー、手羽先、野菜巻き、それにうずら巻。他にも色々増えたみたいだが、串物はその後種類が増えたようだった。野菜巻きの野菜は季節によって違うみたいで、今はアスパラとトマトのようだ。
「えー、全部でしょ?」
と、母さんが父さんに聞くと、父さんは頷いた。
「そうだな。春都は何かないか?」
「ううん、それがいい」
焼き鳥は透明のパックに詰められ、新聞で巻かれる。
「前も言ったと思うけど、温めるときはホットプレートがおすすめだよ」
「はい。アルミホイル敷いて、ですよね」
「そうそう、よく覚えてる」
お客さんは次々とやってくる。これからやってくる宵を楽しく過ごすためか、あるいは他にも理由があるのか。それは分からないが、薄暗い時間が賑やかなのはいいな。
「じゃ、帰ろっか」
灯り始めた街の明かり。湿気をはらんだ生ぬるい空気とそこかしこから漂ってくる夜の匂い、その中を三人で歩く。
なんだか少し、そわそわした。
こないだと同じように、ホットプレートにアルミホイルを敷いて、焼き鳥を並べた。焼きたてだったから、さほど冷えてはいない。
ああ、もう腹ペコだ。
「いただきます」
まずはこの間のやつから。
今日はねぎまから食おう。うん、相変わらずたれがうまい。甘辛くて、香ばしい。ねぎの甘味にも、肉のうま味にも合うのだ。
四つ身には七味をかけて。やっぱり風味がいいな。ほろほろとほどけるような肉がたまらなくうまい。
「おいしいね、ここの。たくさん食べられそう」
母さんは言うと、ビールをあおった。
「うん、これはうまいよ」
父さんも言って、皮をつまんだ。
そうそう、皮もうまいんだ。パリパリでカリッとしてて、少しもちっと。噛みしめるほどにうま味と脂がジュワジュワと滲み出し、鼻に抜ける風味がいい。
豚バラは塩。サクサクした脂身とギュッとした肉。やっぱり、焼き鳥食うなら豚バラは必須だよなあ。
つくねもうまい。たれの香りと味わい、炭の香りがふわりとして、いい感じに相まって最高だ。ふわふわのつくねが優しい歯触りで、すいすい入ってしまう。
さて、それでは新しいものをいただこう。
野菜巻き、気になってたんだ。豚バラとアスパラが合うというのはよく分かっている。分かっているが……いや、分かっているからこそ、食べたい。カリッとした豚肉はジューシーで、アスパラはみずみずしい。香る青い風味、塩こしょう、脂。うん、たまらないな。
トマトは熱々だあ。プチトマトって、加熱するとすげぇうまい。しかもこれは豚のうま味がにじんでいるからもっとうまい。甘くて、ジューシーで、みずみずしい。
うずらの卵はベーコンに巻かれている。
しょっぱさと油っ気がちょうどいいベーコンは、良い感じに炭の香りがする。プチッとはじけるうずらの卵。この白身の食感と、まろやかな黄身の感じは、うずらの卵にしかないものだよな。
さて、薬研軟骨はどうだろう。うーん、こりっこり。この歯ごたえ、好きだなあ。軟骨って、どうして食べるんだろう、と思っていた時もあったが、実際食べてみるとうまいんだ。淡白で、歯ごたえもよく、しかもここのは結構肉がついているから得した気分になる。この肉、ささみだったかな。
砂ずりもいい食感だ。軟骨とはまた違うサクこりっとした感じ。風味は少し、レバーに似ているかな。レバーよりも淡白だ。これも、最近好きになったものである。
次はレバー。ほわっと、トロッとした感じ。独特の風味。それを際立たせるわけでも打ち消すわけでもない、程よく濃いタレ。ここのレバーは、好きだな。
最後に、手羽先。なんとなく楽しみだったので、とっておいた。
骨からほろりと外れる身。オーブンで焼いたものより皮は柔らかい。すごく肉汁が出てくる。へえ、手羽先って、こんなにジューシーだったっけ。ほんのり醤油が垂らされているのが、すごくうまい。
また、石上先生に報告しないとなあ。
家族で食べました、おいしかったです、って。
今度はお店で……いや、先にテイクアウトを全制覇するか? うーん、どっちもいいなあ。
ま、どっちもやればいいか。楽しみは、多く、長い方がいい。
「ごちそうさまでした」
「やあ、お疲れ様。一条君」
「石上先生、こんにちは」
「今日は暑いね。大丈夫か?」
「はい、何とか」
先生は玄関先を掃除しているようだったが、周囲を見回すと手招きしてきた。何だろう。手伝えっていうんじゃなかろうか。
周囲に見回りの先生はいない。先生は少しだけ声を潜めて言った。
「例の店、覚えているか?」
「例の店……?」
なんだっけ、なんか石上先生と話したっけ。少しばかり沈黙していると、先生は続けた。
「居酒屋だよ。焼き鳥買ってた」
「あー、あの店ですか」
「そう。実はな、テイクアウトのラインナップが増えたんだ」
「なんと」
そいつは聞き捨てならない。石上先生はにやっと笑った。
「先週末から増えているみたいでな。機会があったら、行ってみるといい」
「はい、絶対行きます」
なるほど、この話をするためにこそこそとしていたのか。
なんだかとても重要で、素晴らしい内緒話をしているような気がして、ワクワクした。
そんで今、車に乗って、例の店へ向かっている。近くのコインパーキングに停めれば、あっという間につく距離だ。電車で行くより、だいぶ気が楽だなあ。
「楽しみね、焼鳥!」
その話をして一番乗り気だったのは、母さんだった。何があるだろうかとずっとワクワクしていたようだ。
「晩ご飯はそれでいいもんね」
「十分だな」
父さんは運転しながら言った。
「それと、野菜を準備しようか」
「ああ、いいね」
「うーん、楽しみだなあ。春都は一度食べたんでしょう?」
どうだった? と母さんは聞いてくる。
「うまかったよ。つくねとか、四つ身とか」
「いいね~」
「大きさはどうだったんだ?」
コインパーキングに入りながら、父さんも聞いてくる。
「結構大きいよ。その時は五種類を二本ずつ食べて、それでお腹いっぱいになったし」
「じゃあ、結構な大きさだな。うわぁ、いいなあ」
先を行く二人の後ろをちょこちょことついていく。二人とも、本当に楽しそうだ。
夕暮れ時なのですでに店先にはお店の人が立っていて、良い匂いが漂っていた。ああ、タレと炭の香り。いいねえ、俺もワクワクしてきた。
「こんにちは~」
「はーい、こんにちは……おっ、今日は家族そろって来てくれたんだね」
お店の人が俺の方を見て言ってくる。え、覚えてたのか。すっかり驚いてしまって会釈しかできないでいると、お店の人は快く笑った。
「ちゃーんと覚えてるよ。石上さんの知り合いでしょう?」
「ええ、ああ、はい」
知り合い……まあ、そうともいえるか。
「また買いに来てくれたんだね、ありがとう。どうしますか?」
そうそう、焼き鳥だ、焼き鳥。
えーっと……この間のラインナップに加え、砂ずりと薬研軟骨、レバー、手羽先、野菜巻き、それにうずら巻。他にも色々増えたみたいだが、串物はその後種類が増えたようだった。野菜巻きの野菜は季節によって違うみたいで、今はアスパラとトマトのようだ。
「えー、全部でしょ?」
と、母さんが父さんに聞くと、父さんは頷いた。
「そうだな。春都は何かないか?」
「ううん、それがいい」
焼き鳥は透明のパックに詰められ、新聞で巻かれる。
「前も言ったと思うけど、温めるときはホットプレートがおすすめだよ」
「はい。アルミホイル敷いて、ですよね」
「そうそう、よく覚えてる」
お客さんは次々とやってくる。これからやってくる宵を楽しく過ごすためか、あるいは他にも理由があるのか。それは分からないが、薄暗い時間が賑やかなのはいいな。
「じゃ、帰ろっか」
灯り始めた街の明かり。湿気をはらんだ生ぬるい空気とそこかしこから漂ってくる夜の匂い、その中を三人で歩く。
なんだか少し、そわそわした。
こないだと同じように、ホットプレートにアルミホイルを敷いて、焼き鳥を並べた。焼きたてだったから、さほど冷えてはいない。
ああ、もう腹ペコだ。
「いただきます」
まずはこの間のやつから。
今日はねぎまから食おう。うん、相変わらずたれがうまい。甘辛くて、香ばしい。ねぎの甘味にも、肉のうま味にも合うのだ。
四つ身には七味をかけて。やっぱり風味がいいな。ほろほろとほどけるような肉がたまらなくうまい。
「おいしいね、ここの。たくさん食べられそう」
母さんは言うと、ビールをあおった。
「うん、これはうまいよ」
父さんも言って、皮をつまんだ。
そうそう、皮もうまいんだ。パリパリでカリッとしてて、少しもちっと。噛みしめるほどにうま味と脂がジュワジュワと滲み出し、鼻に抜ける風味がいい。
豚バラは塩。サクサクした脂身とギュッとした肉。やっぱり、焼き鳥食うなら豚バラは必須だよなあ。
つくねもうまい。たれの香りと味わい、炭の香りがふわりとして、いい感じに相まって最高だ。ふわふわのつくねが優しい歯触りで、すいすい入ってしまう。
さて、それでは新しいものをいただこう。
野菜巻き、気になってたんだ。豚バラとアスパラが合うというのはよく分かっている。分かっているが……いや、分かっているからこそ、食べたい。カリッとした豚肉はジューシーで、アスパラはみずみずしい。香る青い風味、塩こしょう、脂。うん、たまらないな。
トマトは熱々だあ。プチトマトって、加熱するとすげぇうまい。しかもこれは豚のうま味がにじんでいるからもっとうまい。甘くて、ジューシーで、みずみずしい。
うずらの卵はベーコンに巻かれている。
しょっぱさと油っ気がちょうどいいベーコンは、良い感じに炭の香りがする。プチッとはじけるうずらの卵。この白身の食感と、まろやかな黄身の感じは、うずらの卵にしかないものだよな。
さて、薬研軟骨はどうだろう。うーん、こりっこり。この歯ごたえ、好きだなあ。軟骨って、どうして食べるんだろう、と思っていた時もあったが、実際食べてみるとうまいんだ。淡白で、歯ごたえもよく、しかもここのは結構肉がついているから得した気分になる。この肉、ささみだったかな。
砂ずりもいい食感だ。軟骨とはまた違うサクこりっとした感じ。風味は少し、レバーに似ているかな。レバーよりも淡白だ。これも、最近好きになったものである。
次はレバー。ほわっと、トロッとした感じ。独特の風味。それを際立たせるわけでも打ち消すわけでもない、程よく濃いタレ。ここのレバーは、好きだな。
最後に、手羽先。なんとなく楽しみだったので、とっておいた。
骨からほろりと外れる身。オーブンで焼いたものより皮は柔らかい。すごく肉汁が出てくる。へえ、手羽先って、こんなにジューシーだったっけ。ほんのり醤油が垂らされているのが、すごくうまい。
また、石上先生に報告しないとなあ。
家族で食べました、おいしかったです、って。
今度はお店で……いや、先にテイクアウトを全制覇するか? うーん、どっちもいいなあ。
ま、どっちもやればいいか。楽しみは、多く、長い方がいい。
「ごちそうさまでした」
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