一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第六百九十九話 ハンバーガー

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 連休とかでいつもより学校に行く日数が少なくなるというのは、結構嬉しい。でも同じくらい、週のどこかが半日だけってなるのもいい。休みじゃない分、頑張ったという大義名分ができるというものだ。
 今日は職員会議か何か知らないが、半日で帰れる。ラッキーだ。
「じゃ、行ってきます」
「あ、ちょっと待って」
 荷物を抱え玄関に向かおうとしたとき、母さんに呼び止められる。
「あれ、何か忘れものしたかな」
「違う違う。今日ね、早く帰って来るでしょ?」
「うん」
「今日はちょっとバタバタしそうで……」
 ああ、そういや仕事があるとか言ってたなあ。家でできる仕事だから、とは言っていたが、とても大変らしい。
「お昼ご飯作れそうにないから、何か帰りに買ってきてくれる?」
「いいよ」
「お金は渡しておくから」
 いくらぐらいいる? と母さんは財布片手に聞いてくる。ええ、どうしよう。何が食べたいかなあ。
「何がいい?」
 ここは、父さんと母さんに聞いてみよう。
「お母さんは何でもいいよ」
「父さんも。春都が好きなものを買っておいで」
 ……そう来たか。ううむ、何にしよう。
「まあ、とりあえず五千円、渡しておくね」
 母さんは財布から五千円札を取り出す。おお、こりゃ大金だ。大事にしまっておかないと。財布にちゃんと入れて、と。
「じゃ、気を付けて」
「行ってきます」
 さあて、お昼には何が食べたいかな。

「五千円の予算で好きなものを買うって?」
 移動教室の合間に通りがかったという百瀬が話しかけてきたので、昼飯のことを聞いてみた。というか、この席、よくみんなが話しかけてくる。思った通り、騒がしい席だ。
「五千円かあ……何にしようかなあ」
 百瀬は頬杖をつき、少し考えてから言った。
「ホールケーキはギリギリかな。それか、足りないくらい。ロールケーキだったら、シンプルなのだと三本くらいだね。自分で作るならクッキーとか? 五百円のケーキ十個、ってのも捨てがたいよねえ」
「お前ならそう言うと思ったよ」
 甘いものに興味が全振りしているやつである。なんとなく、答えの予想はついた。
「シュークリームもいいよね。あっ、エクレアも捨てがたいな」
「飯は?」
「家にある冷ご飯チンして、ふりかけかければいいんじゃん?」
 いやそれはそれでうまいけれども。もうちょいなんかないかね。
「あっ、おーい早瀬~」
 百瀬が、理系の教室がある方を向いて手を振る。間もなくして、早瀬がやって来た。早瀬は教科書を抱えていた。
「なんだ?」
「早瀬はさ、五千円あったとして、何でも好きな食べ物買っていいよって言われたら何買う?」
「唐突だな」
 早瀬は笑ってこっちを見た。
「なに? なんか買うの?」
「昼飯をちょっとな」
「そっかあ、昼飯か」
 う~ん、と早瀬は顎に手を当てて考えこむ。なんか妙にしっくりなじむな、そのポーズ。隣で百瀬が真似をする。
「俺、コンビニかスーパーしか思いつかないや」
「無難だよな」
「そうそう、大きく外れるってことがないからさ。ああ、あとあれもあるな、ハンバーガー」
「ああ、そっか」
 その選択肢を忘れていた。ハンバーガーか、いいじゃないか。
「特に今確か、バスセンターのとこの店、期間限定で安くなってんじゃなかったか?」
「そうなのか?」
 それは知らなかった。
 よし、それじゃあ……昼飯はハンバーガーで決まりだな。

「おお、良いもの買ってきたね」
 父さんにも母さんにも、このチョイスは好評だったようだ。野菜たっぷりのハンバーガーの、ポテトセット。ジュースはコーラで、チキンナゲットも頼んだ。
「いただきます」
 野菜たっぷりハンバーガーには、特製のソースがたっぷりだ。包み紙が他のハンバーガーとはまた違った感じにしんなりしている。
 バンズはふわふわで、ほんのり甘い。
 おっとっと、ソースがあふれ出てくる。ジャクッとみずみずしいレタスの層、酸味もある爽やかなトマト、ほんのり甘みを感じる玉ねぎ。肉というより野菜が主役、って感じのハンバーガーだ。
 もちろん、肉も負けてはいない。ふわっとしつつも噛み応えがあり、ジューシーで、口いっぱいに肉汁が広がる。
 全部をいっぺんに口の中に入れるのは難しい。それくらい、ボリュームたっぷりだ。それにソースも零れそうだ。
 でも、食べる。口の周りをぬぐいながら、大きいハンバーグを食べるって、なんか楽しい。
 ポテトも忘れちゃいけないな。
 サクッと、ほくっとしたじゃがいも。甘くて、塩加減もちょうどいい。チキンナゲットのバーベキューソースにつけてもいいな。
 チキンナゲットは揚げたてだったから、まだ熱々のサクサクだ。肉はぷりっとしていて、淡白ながらも、いい感じに香辛料が効いている。
 そこにコーラ。ストローで吸い上げた炭酸は甘く、すっきりと冷たい。
 ふと、開いた窓から風がそよぐ。まだ夏になりきらない、生暖かい風だ。部屋の中は少しひんやりとしているから、まるで心地よいぬるま湯の中にいるようである。
 うめずは夏用ベッドに横になり、うとうとしていた。
 俺も、昼飯食ったら少し昼寝をしよう。ああ、なんて贅沢な平日なんだ。

「ごちそうさまでした」
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