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日常
第七百十話 紫陽花スイーツ
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晴天とも曇天ともいい切れない天気である。吹く風は生ぬるく、湿っぽい。
「梅雨っぽい天気でいいね!」
やけに乗り気な百瀬がルンルンとスキップしながら、会場に向かう。その後ろを朝比奈がついていく。
「おい、あんま先に行くな」
「百瀬めっちゃ元気だなー、なんで?」
咲良が聞いてくるが、俺にもよく分からない。首を傾げ、「さあ」と言っておく。
「なんか甘い物でもあるんじゃないか」
「そんなところだろうなあ」
「てか、なんで急に行くって言ったんだよ」
行けば咲良は、カラッと笑って答える。
「なんかー、なんとなく? 行ってみちゃおうかなーって」
「理由を求めた俺が間違いだった」
人はそこまで多くないんだなあ、テレビで見たまんまだ。天気のせいもあるんだろうか。一面に広がる様々な種類の紫陽花。赤に水色に、濃い青、紫、ピンクに白。青々とした葉っぱもみずみずしくてきれいだ。その間に、人がまばらにゆっくりと歩いている。
「あった! ここだ!」
なんだなんだ、百瀬がなんか指さして騒いでいる。
「優太、落ち着け。いったん深呼吸」
「っはー、甘い匂い!」
「だめか。とりあえず声のボリュームを落とすんだ」
朝比奈に言われ、百瀬は少し落ち着く。何やら出店がずらりと並んだこの道は……お、看板が立っている。
「紫陽花シュガーロード?」
「そ、限定スイーツがたくさんあるんだ~。みんなで行こうよ、ね!」
これは、有無を言わせない感じだな。まあ、いいんじゃないか。楽しそうだし。
「へー、こんなんやってたんだ。知らなかったなあ」
咲良は言うと、一番近くの店を覗いた。何の店だ、と確認する前に百瀬が言う。
「そこはね、綿あめの店だよ。おっきいの。食べる? 食べようよ」
「お、おお」
あの咲良が押されている。その様子に、思わず笑ってしまった。
確かに、綿あめ持ってる人結構いるなあ。一人じゃ食べきれそうにないから、三人でシェアすることにした。もちろん、百瀬は一人で食うらしい。
青に紫、それと緑色。なるほど、紫陽花を模しているのか。きれいだなあ。
味は……
「あ、すげえ、これ、サイダーだ」
青い部分を食べた咲良が楽しげに言う。
「紫はぶどうだな」
と、朝比奈。じゃあ、緑は……
「メロンか」
シュワッと溶ける綿あめは、よく知っているくちどけなのに味が新鮮だ。はじけるソーダ味、安定感抜群のぶどう味、甘さが増すメロン味。なんだか、知らない世界だなあ。
「次行こ、次」
あっという間に食べきってしまった百瀬が先へ行く。
「もうだいぶ満足なんだけど」
そう言いながらも、揃ってついていく。全制覇と言っていたが、端から順に、というわけではないらしい。優先順位は決めているようだ。
「ここはー、ミニパフェがあるよ」
「へー、きれいだな」
「でしょ」
紫陽花を模したスイーツというのは、透明感がある。きらきらしていて、とてもきれいだ。ゼリーが使われていることが多いってのもあるかもしれない。寒色って、食欲を減退させるとかいうけど、こういうのは食べたいなあ、って思うから不思議だ。
「そんでこっちは持って帰れるお店。ほら、和菓子売ってるよ」
おお、これはお土産にいいかもしれない。練りきりの紫陽花。
「あれ、色が違う?」
似たような色合いだが、一つ一つ、少しずつ違うみたいだ。赤っぽいの、紫、濃い青、水色……グラデーションがきれいだ。
「そうなんですよ。一つとして同じものはないですよ」
お店の人が楽しそうに教えてくれる。露を模した透明のゼリーみたいなのものってておしゃれだなあ。よし、これ買って帰ろう。
「あ、一条戻って来た~」
百瀬は、今度はジュースを飲んでいた。真っ青……ん? 紫色のグラデーションだ。赤いとこもある。朝比奈はミニパフェを食べていた。
「これねー、レモン汁入れると色変わんの」
「聞いたことあるな、そういうの」
「なー、春都~。これ食わねぇ?」
と、咲良がやって来て、とある店に連れていかれる。どうやら、氷菓を売っている出店のようだった。アイスクリームもあるが、売りはどうやら、かき氷のようである。
「二種類あってな、どっちも気になるんだ」
「じゃあ、一つずつ買うか」
どちらも紫色だが、片方は赤みがかっていて、もう一方は青っぽい。
フワフワのかき氷は形よく、青い方にはラムネ、赤い方には砕いた飴が散りばめられている。俺は赤い方にした。
「こっちこっち~」
百瀬たちが席を取ってくれていたので、そこに行く。百瀬はまた別のスイーツを手に入れていた。早いなあ。何だこれ、でっけえパフェ。
「いただきます」
スプーンで触れると、スポンジとかとはまた違ったふわっとした感じがした。
しゃりっとしつつ、シュワアッと溶ける。うーん、氷だ。あ、いちご味なんだ。でもほんのりぶどうっぽい感じもある。どっかで食べたことのあるような、でも、初めて食べるような味である。
めちゃくちゃ冷たいジュースを飲んでいる気分にもなる。
あ、飴はパチパチはじけるタイプか。ふふ、面白い。冷たい氷の中で飴がはじける。こういうかき氷はあまり食べたことがない。
「春都、一口ちょうだい」
「ん。お前のもくれ」
「おう、食え。うまいぞ」
青いのは……うん、ソーダ味。ぶどうソーダだな。爽やかでうまい。ラムネが酸っぱくて、口の中がスースーする。
また自分のに戻る。んー、いろんな味が混ざって面白い。でも、合うから不思議だ。いちごとぶどうとソーダ。いろんな飴を一気に口に入れたような、駄菓子っぽさもある。
「見て、春都。舌が変な色」
と、咲良がちらっと舌を見せてくる。
「はは、すげー色だなあ」
「春都も似たようなもんだぜ」
「同じもん食ってるもんな」
帰ったら、緑茶入れて和菓子食うかな。練り切り、好きなんだ。
帰ったら家で待っている家族を思って、お土産を買う。誰かが自分の知らぬところで時分の事を考えてくれているのもうれしいけど、誰かを思うことも、いいもんだなあ。
「ごちそうさまでした」
「梅雨っぽい天気でいいね!」
やけに乗り気な百瀬がルンルンとスキップしながら、会場に向かう。その後ろを朝比奈がついていく。
「おい、あんま先に行くな」
「百瀬めっちゃ元気だなー、なんで?」
咲良が聞いてくるが、俺にもよく分からない。首を傾げ、「さあ」と言っておく。
「なんか甘い物でもあるんじゃないか」
「そんなところだろうなあ」
「てか、なんで急に行くって言ったんだよ」
行けば咲良は、カラッと笑って答える。
「なんかー、なんとなく? 行ってみちゃおうかなーって」
「理由を求めた俺が間違いだった」
人はそこまで多くないんだなあ、テレビで見たまんまだ。天気のせいもあるんだろうか。一面に広がる様々な種類の紫陽花。赤に水色に、濃い青、紫、ピンクに白。青々とした葉っぱもみずみずしくてきれいだ。その間に、人がまばらにゆっくりと歩いている。
「あった! ここだ!」
なんだなんだ、百瀬がなんか指さして騒いでいる。
「優太、落ち着け。いったん深呼吸」
「っはー、甘い匂い!」
「だめか。とりあえず声のボリュームを落とすんだ」
朝比奈に言われ、百瀬は少し落ち着く。何やら出店がずらりと並んだこの道は……お、看板が立っている。
「紫陽花シュガーロード?」
「そ、限定スイーツがたくさんあるんだ~。みんなで行こうよ、ね!」
これは、有無を言わせない感じだな。まあ、いいんじゃないか。楽しそうだし。
「へー、こんなんやってたんだ。知らなかったなあ」
咲良は言うと、一番近くの店を覗いた。何の店だ、と確認する前に百瀬が言う。
「そこはね、綿あめの店だよ。おっきいの。食べる? 食べようよ」
「お、おお」
あの咲良が押されている。その様子に、思わず笑ってしまった。
確かに、綿あめ持ってる人結構いるなあ。一人じゃ食べきれそうにないから、三人でシェアすることにした。もちろん、百瀬は一人で食うらしい。
青に紫、それと緑色。なるほど、紫陽花を模しているのか。きれいだなあ。
味は……
「あ、すげえ、これ、サイダーだ」
青い部分を食べた咲良が楽しげに言う。
「紫はぶどうだな」
と、朝比奈。じゃあ、緑は……
「メロンか」
シュワッと溶ける綿あめは、よく知っているくちどけなのに味が新鮮だ。はじけるソーダ味、安定感抜群のぶどう味、甘さが増すメロン味。なんだか、知らない世界だなあ。
「次行こ、次」
あっという間に食べきってしまった百瀬が先へ行く。
「もうだいぶ満足なんだけど」
そう言いながらも、揃ってついていく。全制覇と言っていたが、端から順に、というわけではないらしい。優先順位は決めているようだ。
「ここはー、ミニパフェがあるよ」
「へー、きれいだな」
「でしょ」
紫陽花を模したスイーツというのは、透明感がある。きらきらしていて、とてもきれいだ。ゼリーが使われていることが多いってのもあるかもしれない。寒色って、食欲を減退させるとかいうけど、こういうのは食べたいなあ、って思うから不思議だ。
「そんでこっちは持って帰れるお店。ほら、和菓子売ってるよ」
おお、これはお土産にいいかもしれない。練りきりの紫陽花。
「あれ、色が違う?」
似たような色合いだが、一つ一つ、少しずつ違うみたいだ。赤っぽいの、紫、濃い青、水色……グラデーションがきれいだ。
「そうなんですよ。一つとして同じものはないですよ」
お店の人が楽しそうに教えてくれる。露を模した透明のゼリーみたいなのものってておしゃれだなあ。よし、これ買って帰ろう。
「あ、一条戻って来た~」
百瀬は、今度はジュースを飲んでいた。真っ青……ん? 紫色のグラデーションだ。赤いとこもある。朝比奈はミニパフェを食べていた。
「これねー、レモン汁入れると色変わんの」
「聞いたことあるな、そういうの」
「なー、春都~。これ食わねぇ?」
と、咲良がやって来て、とある店に連れていかれる。どうやら、氷菓を売っている出店のようだった。アイスクリームもあるが、売りはどうやら、かき氷のようである。
「二種類あってな、どっちも気になるんだ」
「じゃあ、一つずつ買うか」
どちらも紫色だが、片方は赤みがかっていて、もう一方は青っぽい。
フワフワのかき氷は形よく、青い方にはラムネ、赤い方には砕いた飴が散りばめられている。俺は赤い方にした。
「こっちこっち~」
百瀬たちが席を取ってくれていたので、そこに行く。百瀬はまた別のスイーツを手に入れていた。早いなあ。何だこれ、でっけえパフェ。
「いただきます」
スプーンで触れると、スポンジとかとはまた違ったふわっとした感じがした。
しゃりっとしつつ、シュワアッと溶ける。うーん、氷だ。あ、いちご味なんだ。でもほんのりぶどうっぽい感じもある。どっかで食べたことのあるような、でも、初めて食べるような味である。
めちゃくちゃ冷たいジュースを飲んでいる気分にもなる。
あ、飴はパチパチはじけるタイプか。ふふ、面白い。冷たい氷の中で飴がはじける。こういうかき氷はあまり食べたことがない。
「春都、一口ちょうだい」
「ん。お前のもくれ」
「おう、食え。うまいぞ」
青いのは……うん、ソーダ味。ぶどうソーダだな。爽やかでうまい。ラムネが酸っぱくて、口の中がスースーする。
また自分のに戻る。んー、いろんな味が混ざって面白い。でも、合うから不思議だ。いちごとぶどうとソーダ。いろんな飴を一気に口に入れたような、駄菓子っぽさもある。
「見て、春都。舌が変な色」
と、咲良がちらっと舌を見せてくる。
「はは、すげー色だなあ」
「春都も似たようなもんだぜ」
「同じもん食ってるもんな」
帰ったら、緑茶入れて和菓子食うかな。練り切り、好きなんだ。
帰ったら家で待っている家族を思って、お土産を買う。誰かが自分の知らぬところで時分の事を考えてくれているのもうれしいけど、誰かを思うことも、いいもんだなあ。
「ごちそうさまでした」
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