770 / 893
日常
第七百十九話 トースト
しおりを挟む
休日の朝は、早起きしないともったいない気がする反面、のんびりと寝ておかないと損な気もする。
どちらかといえば、早起きすることの方が多いか。
まだ車の通りも少ない、早朝の町。コンビニ以外の店は開店の時を待ち、道路を行きかうのはバスやトラックが多い。静かな町をゆっくりと歩く自分のスニーカーの足音と、うめずの軽快な足取りがよく聞こえる。
朝日が昇ったばかりのこんな時間にうめずと散歩していると、冒険に出かけているような気分になる。
ゲームでよく見る、旅立ちの朝のような。
「まあ、短い旅路だけどな」
ふと呟けば、うめずがこちらを振り返った。今日はお互いに少しばかり体力が余っているので、いろいろ歩き回ってみようと思う。
行ったことのない道って、割とある。あの道、この道、どこにつながっているかなんとなく見当のつくところもあれば、まったくもってつかないところもある。細い道はちょっと怖い。突き当りが民家だったらまずいよなあ。
学校の裏の道はちょくちょく通るが、細い道には入ったことがない。よっぽど用がない限り行かない道だからな。
店もなく、民家しかないような通りだ。
「行ってみるか?」
「わうっ」
うめずが少し乗り気だったので、入ってみることにする。たぶん、変なところには出ないだろう。
「へ~、こんななってんだ……」
古い建物、狭い敷地、いつから伸びっぱなしなのか分からない木々がある家、新しく建ったような家、古いアパート。遠くから見たことがあるようなないような、そんな場所だ。
知らない町の住宅街を歩いているみたいだ。
入り組んだ道を歩いていく。この家、車停まってるけど、どこから入るんだろう。すごく駐車しづらそうだ。あ、こっちの道が広いのか。ああ、ここに入り口があって……なるほどね。いろいろ工夫があるわけだ。
少し歩いていくと、見慣れた道に出た。この辺りは何度か来たことがある。小学校の時、遠足の帰り道がいつも通りだと退屈だからって、寄り道した場所でもある。
「なるほどねー……ここに繋がるんだ」
「わうっ」
「知らなかったな」
ゲームでよくある、ダンジョンとかの地図が思い浮かぶ。最初は全部黒塗りだけど、行ったところだけ解放されていくやつ。クリアした後、行ったことのないルートをたどってみたら、実はこことつながっていましたー、みたいな。
避けて通った道が近道だったり、その道中にいいアイテムがあったりするんだよな。
ま、今は現実世界だから、そういうことはないんだけど。でも、そういう気持ちで歩いていると、いつもの散歩もちょっと気分が変わっていい。
そろそろ日が高くなってきた。帰って、朝飯の準備をしようかな。
散歩に出る前にあんまりお腹が空いていたから、冷凍したご飯をチンして、ふりかけ振って食ったが、やっぱ腹減ってんなあ。
かといって、手の込んだものを作る気はない。さて、どうしようか。
「食パンあったよな……」
久しぶりに、朝、トーストにしてみよう。モーニングだ、モーニング。
食パンは六枚切り。とりあえず、二枚焼こう。焼く前に切れ目を入れたら食べやすくなるだろうか。お店のって、そうなってるよな。たぶん。あんま見たことないけど。
焼いている間に、他の準備をする。
まずはプチトマト。へたを取って洗って、皿にのせる。あ、玉子食べたいな。ゆで卵……いや、スクランブルエッグにしよう。
ボウルに卵を割り入れ、塩こしょう。しっかり混ぜたら、熱したフライパンに油を広げて、流し入れる。卵焼きと違って砂糖とか入れないから、味付けの塩梅がよく分からない。じゅわーっといい音がして、焼けた縁から中心に寄せるようにして焼いていく。
炒り卵にならない程度に火を通したら、皿にのせる。醤油でいいかなあ。
それと、チーズ食べたい。モッツァレラチーズを割いて食べられるやつだ。細かく裂いて、ねぎとかつお節と醤油。
そうこうしているうちに、パンが焼けた。おお、いい色。
うちの朝には珍しい、パンの香ばしい香り。コーヒーでもあればもっと様になるのだろうが、今日は麦茶で。
「うめずも朝ごはんな」
「わうっ」
うめずが一番お気に入りの器に、ざらざらとご飯を入れる。このカリカリ、妙にうまそうに見えるんだよなあ。うまいのかな。
まあ、食ってみる勇気はないけどな。
早く食べたいだろうに、俺が席につくのを律儀に待っている。そういうふうに教えたつもりはないんだが、かわいいやつだ。
そわそわと、台所にいる俺を見てくるうめず。
「わふぅ」
「はいはい、今座るよ」
マーガリンも持ってきて、っと。
「いただきます」
「わうっ」
パンにはマーガリンを塗る。おっと、切れ目に入ってなかなか塗りづらい。でもなんだろう、パンの上で溶けていくマーガリンって、きれいだ。きらきらの金色だ。
切れ目にそってちぎってみる。モチィッとした内側の白がまぶしい。
サクッと香ばしく、耳は噛み応えがある。ジュワッと染み出すマーガリンの風味もいい。朝にパン、いいかもしれない。サクサク入っていく。軽い食感、重くない腹のたまり具合、でもマーガリンと小麦の香りで満足する。
スクランブルエッグはふわふわだ。半熟まではないが、カチカチでもない、程よい火の通り具合。醤油を垂らすと香ばしい。
パンにのせて食べてみる。うん、これもなかなか。和風の卵サンドって感じになる。パンと卵の食感の違いが面白いなあ。ふわふわという表現でも、なんとなく質感が違うというか。卵の方がしっかりめかなあ。パンにはサクサクもある。
プチトマトは甘い。小さなトマトが口の中ではじけるのって、なんか楽しい。ついつい食べ過ぎてしまいそうになる。
チーズは風味控えめで、醤油で滲み出すかつお節のうま味と、ねぎのさわやかさがよく合う。
これ、クリームチーズでしてもうまいんだよな。その時は、わさびを混ぜるとなおよしである。わさびって、たいていのものに合う。
少し冷えたパンに塗ったマーガリンは、なかなか溶けない。でも、少しかたまり状態のマーガリンごとパンを食べるのも好きだ。にゅっとした感じの歯ざわり、口の中の温度で溶けるマーガリン、もちもちが増したパン。うまいなあ。
切れ目を入れているから、余計に香ばしいのかもしれない。隙間に染みたマーガリンもまたいい味出してる。
散歩した後に食べる飯って、やっぱうまいなあ。
さて、お昼は何を食べようか。
「ごちそうさまでした」
どちらかといえば、早起きすることの方が多いか。
まだ車の通りも少ない、早朝の町。コンビニ以外の店は開店の時を待ち、道路を行きかうのはバスやトラックが多い。静かな町をゆっくりと歩く自分のスニーカーの足音と、うめずの軽快な足取りがよく聞こえる。
朝日が昇ったばかりのこんな時間にうめずと散歩していると、冒険に出かけているような気分になる。
ゲームでよく見る、旅立ちの朝のような。
「まあ、短い旅路だけどな」
ふと呟けば、うめずがこちらを振り返った。今日はお互いに少しばかり体力が余っているので、いろいろ歩き回ってみようと思う。
行ったことのない道って、割とある。あの道、この道、どこにつながっているかなんとなく見当のつくところもあれば、まったくもってつかないところもある。細い道はちょっと怖い。突き当りが民家だったらまずいよなあ。
学校の裏の道はちょくちょく通るが、細い道には入ったことがない。よっぽど用がない限り行かない道だからな。
店もなく、民家しかないような通りだ。
「行ってみるか?」
「わうっ」
うめずが少し乗り気だったので、入ってみることにする。たぶん、変なところには出ないだろう。
「へ~、こんななってんだ……」
古い建物、狭い敷地、いつから伸びっぱなしなのか分からない木々がある家、新しく建ったような家、古いアパート。遠くから見たことがあるようなないような、そんな場所だ。
知らない町の住宅街を歩いているみたいだ。
入り組んだ道を歩いていく。この家、車停まってるけど、どこから入るんだろう。すごく駐車しづらそうだ。あ、こっちの道が広いのか。ああ、ここに入り口があって……なるほどね。いろいろ工夫があるわけだ。
少し歩いていくと、見慣れた道に出た。この辺りは何度か来たことがある。小学校の時、遠足の帰り道がいつも通りだと退屈だからって、寄り道した場所でもある。
「なるほどねー……ここに繋がるんだ」
「わうっ」
「知らなかったな」
ゲームでよくある、ダンジョンとかの地図が思い浮かぶ。最初は全部黒塗りだけど、行ったところだけ解放されていくやつ。クリアした後、行ったことのないルートをたどってみたら、実はこことつながっていましたー、みたいな。
避けて通った道が近道だったり、その道中にいいアイテムがあったりするんだよな。
ま、今は現実世界だから、そういうことはないんだけど。でも、そういう気持ちで歩いていると、いつもの散歩もちょっと気分が変わっていい。
そろそろ日が高くなってきた。帰って、朝飯の準備をしようかな。
散歩に出る前にあんまりお腹が空いていたから、冷凍したご飯をチンして、ふりかけ振って食ったが、やっぱ腹減ってんなあ。
かといって、手の込んだものを作る気はない。さて、どうしようか。
「食パンあったよな……」
久しぶりに、朝、トーストにしてみよう。モーニングだ、モーニング。
食パンは六枚切り。とりあえず、二枚焼こう。焼く前に切れ目を入れたら食べやすくなるだろうか。お店のって、そうなってるよな。たぶん。あんま見たことないけど。
焼いている間に、他の準備をする。
まずはプチトマト。へたを取って洗って、皿にのせる。あ、玉子食べたいな。ゆで卵……いや、スクランブルエッグにしよう。
ボウルに卵を割り入れ、塩こしょう。しっかり混ぜたら、熱したフライパンに油を広げて、流し入れる。卵焼きと違って砂糖とか入れないから、味付けの塩梅がよく分からない。じゅわーっといい音がして、焼けた縁から中心に寄せるようにして焼いていく。
炒り卵にならない程度に火を通したら、皿にのせる。醤油でいいかなあ。
それと、チーズ食べたい。モッツァレラチーズを割いて食べられるやつだ。細かく裂いて、ねぎとかつお節と醤油。
そうこうしているうちに、パンが焼けた。おお、いい色。
うちの朝には珍しい、パンの香ばしい香り。コーヒーでもあればもっと様になるのだろうが、今日は麦茶で。
「うめずも朝ごはんな」
「わうっ」
うめずが一番お気に入りの器に、ざらざらとご飯を入れる。このカリカリ、妙にうまそうに見えるんだよなあ。うまいのかな。
まあ、食ってみる勇気はないけどな。
早く食べたいだろうに、俺が席につくのを律儀に待っている。そういうふうに教えたつもりはないんだが、かわいいやつだ。
そわそわと、台所にいる俺を見てくるうめず。
「わふぅ」
「はいはい、今座るよ」
マーガリンも持ってきて、っと。
「いただきます」
「わうっ」
パンにはマーガリンを塗る。おっと、切れ目に入ってなかなか塗りづらい。でもなんだろう、パンの上で溶けていくマーガリンって、きれいだ。きらきらの金色だ。
切れ目にそってちぎってみる。モチィッとした内側の白がまぶしい。
サクッと香ばしく、耳は噛み応えがある。ジュワッと染み出すマーガリンの風味もいい。朝にパン、いいかもしれない。サクサク入っていく。軽い食感、重くない腹のたまり具合、でもマーガリンと小麦の香りで満足する。
スクランブルエッグはふわふわだ。半熟まではないが、カチカチでもない、程よい火の通り具合。醤油を垂らすと香ばしい。
パンにのせて食べてみる。うん、これもなかなか。和風の卵サンドって感じになる。パンと卵の食感の違いが面白いなあ。ふわふわという表現でも、なんとなく質感が違うというか。卵の方がしっかりめかなあ。パンにはサクサクもある。
プチトマトは甘い。小さなトマトが口の中ではじけるのって、なんか楽しい。ついつい食べ過ぎてしまいそうになる。
チーズは風味控えめで、醤油で滲み出すかつお節のうま味と、ねぎのさわやかさがよく合う。
これ、クリームチーズでしてもうまいんだよな。その時は、わさびを混ぜるとなおよしである。わさびって、たいていのものに合う。
少し冷えたパンに塗ったマーガリンは、なかなか溶けない。でも、少しかたまり状態のマーガリンごとパンを食べるのも好きだ。にゅっとした感じの歯ざわり、口の中の温度で溶けるマーガリン、もちもちが増したパン。うまいなあ。
切れ目を入れているから、余計に香ばしいのかもしれない。隙間に染みたマーガリンもまたいい味出してる。
散歩した後に食べる飯って、やっぱうまいなあ。
さて、お昼は何を食べようか。
「ごちそうさまでした」
24
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる