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日常
番外編 山崎護のつまみ食い①
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今日も朝から家は静かだ。
「ふぁ~あ……」
クーラーが効いた居間は居心地がよくて、ソファに横になるとまた寝てしまいそうになる。これで何度遅刻したことか。
ま、今日は課外があるだけだし、遅刻してもいっか。
どうにも朝って苦手だ。ぼーっとするし、元気出ないし、眠いし。そんなことなら夜、早く寝りゃいいんだけどさ。スマホ見てたらつい。
それに、急かしてくる人もいないと、どうしてもねえ。
「……お腹空いたなあ」
どんなに面倒だろうと、腹は減るもんだ。重い体を引きずって、冷蔵庫を見る。
朝飯は……あー、おにぎりがある。うちの朝飯は決まってそうだ。朝一番に起きた人がおにぎりを釜にある米の分、あるだけ握って置いておく。それを各々食べていく。おかずは作り置きの分を好きなだけ食べていい。
たまにおにぎりがパンになったり、おいなりさんになったりする。食パンがどんと置かれてることもあるなあ。
「今日は何だろ……」
梅干しとおかか。うん、いつも通りだ。
えーっと、麦茶とぉ、おかずは……うーん、からあげと……あ、冷食のソースカツでもチンしよ。ん、あれ、なんかメモが書いてある。
「護へ ちゃんと野菜も食べなさい 母」
あ、先回りされた。
スルーしてもいいんだけど、なぜかバレるんだよなあ。怖いくらい。作り置きのマリネがあるから、それを食おう。トマトと玉ねぎか……うん、ドレッシング味なら、まあ。
「いただきます」
テレビ、何やってんだろ。
「んん~、すっぱ」
梅干し、酸っぱいなあ。あ、プールだ。いいなあ、行きたいなあ。今日みたいに暑い日はプールに行きたくなる。でも、今日は塾あるし、休みの日はテニスがある。お盆くらいにはいけるかなあ。
おかかは醤油をかけてある。この独特の風味、割と最近まで苦手だったけど、慣れちゃった。
からあげもソースカツも、肉って感じ。いつも通りの味だ。
そんでもって野菜。トマトの青臭さと玉ねぎの風味。野菜って、なんとなく苦手なんだよなあ。まあ、食えないこともないけど。
んー、ますます面倒になって来ちゃった。本格的に行きたくないと考え出す前に、体を動かしてしまおう。
「ごちそうさまでしたぁ」
さーて、準備準備。続きに塾行くなら、リュックも持ってかないと。あ、昼飯どうしよう。
「あ~、めんどくさ~い」
どうにもならないけど、そう言わずにはいられなかった。
前の席に座るやつは、時々遠い目をしている。
何考えてんだろ。
「おっ、この教室涼しいな」
なんかこのクラスじゃない顔がやって来た。えーっと……そうそう、井上だ。前の席の……一条の友達。
「なー、春都」
「あ、何だ?」
「この教室涼しいなって」
「どこも一緒じゃないか?」
心底不思議そうに聞き返す一条に、井上は気を悪くする様子もなく「そうかなあ?」と言って、話題を変えた。
「何考えてたんだ? なんか、遠い目してたぞ」
「んー……」
「分かった、当ててやる。今日の昼飯のことだろ」
井上の得意げな言葉に、一条はふっと笑った。
「残念、晩飯だ」
「あーっ、そっちかあ! で、昼飯は何なんだ?」
「なんか……肉と野菜炒めたやつ。焼きそばになるかもかもしれない」
「はは、うちも多分そんな感じだ」
昼飯かあ……そういや俺も、何か考えないと。
コンビニかファミレスか……どうせ自習室じゃ食えないし、涼しいとこで食うならハンバーガーかなあ。
でも、昼時のあの人混みに一人で行くの、なんか苦手なんだよなあ……
「今日は塾か、護」
「んー? あ、雪ちゃん」
真夏だけど寒そうな名前の幼馴染が来た。
「そだよー。だから昼飯に悩んでたとこ。あ、一緒に食べ行こーよ。ハンバーガー」
「まあ、別にいいけど」
「やったー」
じゃあ、何食べようかなあ。あとでメニュー見てみようっと。
昼時って、やっぱり混むなあ。駅の近くのファストフード店は、この時間、いつも大盛況だ。
「ネットオーダーしといてよかったな~」
運よく空いた席に座る。事前に頼んどいたから、思ったよりも待たなくて済んだ。ネットオーダーって便利だなあ。
「そうだな」
「んじゃ、いただきまーす」
ベーコンレタスバーガーにコーラとポテト。うん、いい組み合わせだなあ。こういうのに入ってる野菜は、なんか好きなんだよねえ。
フワフワのパンと、香辛料が効いた肉。濃いソースが空きっ腹に刺激的だ。うまいなあ、やっぱハンバーガーってうまい。
揚げたてのポテトもいいな。この塩気がたまらない。
ジャンクな昼ご飯には、氷たっぷりの甘いコーラが最適だ。
「はー、なんかやっと目が覚めた感じ~」
言えば向かいに座る雪が、「今まで寝てたのかよ」と笑った。
「いやー、起きてはいたけどさー。なーんか本調子じゃないっていうか?」
がぶりとハンバーガーにかぶりつく。脂身が甘い、ちょっと厚めのベーコン。塩気とうま味が最高だ。
濃い味の中だと、レタスもいい感じにおいしく食べられる。
ポテトもまあ、じゃがいもで野菜っちゃ野菜だけど、こっちはいくらでも食える。
「塾行きたくなーい」
「はは、でもさぼったら怒られるんだろ」
「それも面倒くさーい」
「難儀なやつだ」
でも、なんか朝よりは動けそうだ。昼になったからか、それとも、雪ちゃんと笑いながらご飯食べられたからか。
んー、まあ、どっちでもいいけど、後の方の考えを採用しよう。
そっちの方が、なんとなく元気が長続きしそうな気がするから。
「ごちそうさまでした」
「ふぁ~あ……」
クーラーが効いた居間は居心地がよくて、ソファに横になるとまた寝てしまいそうになる。これで何度遅刻したことか。
ま、今日は課外があるだけだし、遅刻してもいっか。
どうにも朝って苦手だ。ぼーっとするし、元気出ないし、眠いし。そんなことなら夜、早く寝りゃいいんだけどさ。スマホ見てたらつい。
それに、急かしてくる人もいないと、どうしてもねえ。
「……お腹空いたなあ」
どんなに面倒だろうと、腹は減るもんだ。重い体を引きずって、冷蔵庫を見る。
朝飯は……あー、おにぎりがある。うちの朝飯は決まってそうだ。朝一番に起きた人がおにぎりを釜にある米の分、あるだけ握って置いておく。それを各々食べていく。おかずは作り置きの分を好きなだけ食べていい。
たまにおにぎりがパンになったり、おいなりさんになったりする。食パンがどんと置かれてることもあるなあ。
「今日は何だろ……」
梅干しとおかか。うん、いつも通りだ。
えーっと、麦茶とぉ、おかずは……うーん、からあげと……あ、冷食のソースカツでもチンしよ。ん、あれ、なんかメモが書いてある。
「護へ ちゃんと野菜も食べなさい 母」
あ、先回りされた。
スルーしてもいいんだけど、なぜかバレるんだよなあ。怖いくらい。作り置きのマリネがあるから、それを食おう。トマトと玉ねぎか……うん、ドレッシング味なら、まあ。
「いただきます」
テレビ、何やってんだろ。
「んん~、すっぱ」
梅干し、酸っぱいなあ。あ、プールだ。いいなあ、行きたいなあ。今日みたいに暑い日はプールに行きたくなる。でも、今日は塾あるし、休みの日はテニスがある。お盆くらいにはいけるかなあ。
おかかは醤油をかけてある。この独特の風味、割と最近まで苦手だったけど、慣れちゃった。
からあげもソースカツも、肉って感じ。いつも通りの味だ。
そんでもって野菜。トマトの青臭さと玉ねぎの風味。野菜って、なんとなく苦手なんだよなあ。まあ、食えないこともないけど。
んー、ますます面倒になって来ちゃった。本格的に行きたくないと考え出す前に、体を動かしてしまおう。
「ごちそうさまでしたぁ」
さーて、準備準備。続きに塾行くなら、リュックも持ってかないと。あ、昼飯どうしよう。
「あ~、めんどくさ~い」
どうにもならないけど、そう言わずにはいられなかった。
前の席に座るやつは、時々遠い目をしている。
何考えてんだろ。
「おっ、この教室涼しいな」
なんかこのクラスじゃない顔がやって来た。えーっと……そうそう、井上だ。前の席の……一条の友達。
「なー、春都」
「あ、何だ?」
「この教室涼しいなって」
「どこも一緒じゃないか?」
心底不思議そうに聞き返す一条に、井上は気を悪くする様子もなく「そうかなあ?」と言って、話題を変えた。
「何考えてたんだ? なんか、遠い目してたぞ」
「んー……」
「分かった、当ててやる。今日の昼飯のことだろ」
井上の得意げな言葉に、一条はふっと笑った。
「残念、晩飯だ」
「あーっ、そっちかあ! で、昼飯は何なんだ?」
「なんか……肉と野菜炒めたやつ。焼きそばになるかもかもしれない」
「はは、うちも多分そんな感じだ」
昼飯かあ……そういや俺も、何か考えないと。
コンビニかファミレスか……どうせ自習室じゃ食えないし、涼しいとこで食うならハンバーガーかなあ。
でも、昼時のあの人混みに一人で行くの、なんか苦手なんだよなあ……
「今日は塾か、護」
「んー? あ、雪ちゃん」
真夏だけど寒そうな名前の幼馴染が来た。
「そだよー。だから昼飯に悩んでたとこ。あ、一緒に食べ行こーよ。ハンバーガー」
「まあ、別にいいけど」
「やったー」
じゃあ、何食べようかなあ。あとでメニュー見てみようっと。
昼時って、やっぱり混むなあ。駅の近くのファストフード店は、この時間、いつも大盛況だ。
「ネットオーダーしといてよかったな~」
運よく空いた席に座る。事前に頼んどいたから、思ったよりも待たなくて済んだ。ネットオーダーって便利だなあ。
「そうだな」
「んじゃ、いただきまーす」
ベーコンレタスバーガーにコーラとポテト。うん、いい組み合わせだなあ。こういうのに入ってる野菜は、なんか好きなんだよねえ。
フワフワのパンと、香辛料が効いた肉。濃いソースが空きっ腹に刺激的だ。うまいなあ、やっぱハンバーガーってうまい。
揚げたてのポテトもいいな。この塩気がたまらない。
ジャンクな昼ご飯には、氷たっぷりの甘いコーラが最適だ。
「はー、なんかやっと目が覚めた感じ~」
言えば向かいに座る雪が、「今まで寝てたのかよ」と笑った。
「いやー、起きてはいたけどさー。なーんか本調子じゃないっていうか?」
がぶりとハンバーガーにかぶりつく。脂身が甘い、ちょっと厚めのベーコン。塩気とうま味が最高だ。
濃い味の中だと、レタスもいい感じにおいしく食べられる。
ポテトもまあ、じゃがいもで野菜っちゃ野菜だけど、こっちはいくらでも食える。
「塾行きたくなーい」
「はは、でもさぼったら怒られるんだろ」
「それも面倒くさーい」
「難儀なやつだ」
でも、なんか朝よりは動けそうだ。昼になったからか、それとも、雪ちゃんと笑いながらご飯食べられたからか。
んー、まあ、どっちでもいいけど、後の方の考えを採用しよう。
そっちの方が、なんとなく元気が長続きしそうな気がするから。
「ごちそうさまでした」
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