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一章 黄昏のパリは雪に沈む
………幼き日の夢
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────
──
「ただいま祐ちゃん、からだの具合はどうかな?」
「うん、もうすっかり平気。だって三日も学校休んだし」
「よ~し、それなら今夜は勉強だ」
「ええ~っ、あ、ゴホンゴホン、今度は咳が出て来たみたい」
「祐ちゃ~ん、それじゃ明日もお休みかい?それなら尚さら勉強しなくちゃ遅れちゃう……ええっと明日の分もだとぉ、今夜中に四日分は進めなくっちゃ」
「あ、ごめんごめん!咳なんて嘘だよ。明日は休まないから三日分でいいよ」
「冗談だよ、三日分なんて無理しなくていいよ。病み上がりなんだから明日の予習だけしておこう」
「アキ兄ちゃんが優秀な家庭教師だからね、僕、休んでばかりの筈なのにクラスのみんなよりずっと進んじゃってるんだ、本当だよ?」
「それは祐ちゃんが賢いからだよ。教えたことを一度で覚えちゃうからさ、俺なんて祐ちゃんに教えるために必死に勉強してるんだ」
「そんな事ないよ、アキ兄ちゃんの教え方が上手いんだ。お陰で僕、たまに学校に行っても全然ばかにされないよ?ありがとう」
「祐ちゃん……」
「アキ兄ちゃんが好き。アキ兄ちゃんと一緒なら安心……」
「祐ちゃん……俺はずっと祐ちゃんと一緒だから……」
──────
────(アキ兄ちゃん)
──(アキ兄ちゃんが)
(……好き)
───(アキ兄ちゃんと)
──(一緒なら)
(安心だよ……)
重いまぶたを薄く開けると、カーテンの隙間から差し込む朝日が眩しい。
(ああ……また祐二の夢か……)
夢の中の少年はいつも変わらず微笑んでいる。
(離ればなれになってから、もう何年……?)
ゆっくりと身体を起こし、今見ていた夢を思い描く──
少年の面影が蜃気楼のように霞んで消えた。
(この頃、祐二の夢ばかり見る)
昨日は藤代と再会した。会議に同席してもらい、とても心強かった。
(今夜はオペラ座で観劇か……)
苦手なオペラも藤代が一緒なら気が楽だ。
夕方には藤代が迎えに来る。
(それまで今日は……ゆっくりしよう……)
──数日ぶりの余暇だった。
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