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一章 黄昏のパリは雪に沈む
………訪れし春の夢
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────
──
「アキ兄ちゃん、明日ね、翔君のお父さんが面会に来るんだって」
「ふ~ん」
「こないだの雛祭りの時はね、愛ちゃんとこにお母さんから贈り物が届いたんだよ?」
「ああ、知ってる」
「あのさ、あのさ、去年のクリスマスの時だって……」
「祐ちゃん!仕方がないよ。俺達には誰も会いになんて来ないんだ」
「アキ兄ちゃん、でも……」
「な、分かってるだろ?この施設で誰も来ないのは俺たち二人だけなんだって……俺達、二人ぼっちなんだ……」
「……ごめん」
「俺は平気さ、親なんていなくても」
「アキ兄ちゃん……?」
「祐ちゃんがいるから、だから俺は少しも寂しくなんてない」
「うん、そうだね。僕だってそうさ、アキ兄ちゃんさえいれば平気だよ?」
「祐ちゃん……」
「あ、気付いてた?庭の椿がもうすぐ咲きそうなんだよ?僕の好きな白い花」
「ホント?もう春なんだね。行ってみようか?」
「うん、行く!」
────(うん、行く…)
──(うん、行く…)
(うん、行く…)
頭が重い──。
(また……祐二の夢か……)
昨夜は取引先に対する接待のためパリ・オペラ座へとおもむいた。
本来苦手な筈の全幕物のオペラもさほど長く感じなかったのは、やはりかの美女との出会いが有ったからだ。
そして思い掛けずも彼女から、突然「夜会」に招待されたのだったけれど──
(でも……場所も時間も分からないじゃないか……やはりあれは俺をからかっただけなのか?)
しかし明彦は決意していた。
(たとえ夜会への招待が偽りだったとしても、俺はもう一度会わなくてはならない。少なくとも侯爵に同行していた事だけは確実な情報なのだから、それを手掛かりに調べれば何か分かるに違いない……!)
明彦は身体を起こし、いつものようにシャワー・ルームへと向かって行った。
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