昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

文字の大きさ
15 / 121
一章 黄昏のパリは雪に沈む

………将来を語った日の夢

しおりを挟む

「アキ兄ちゃん……どうして僕達にはお父さんもお母さんもいないのかなぁ」
「ほら、園長先生がいつでも言ってるだろ?親がいなくても、自分さえしっかりしていれば必ず神様が味方してくれるんだって」

「神様が?神様なんて、何もしてくれないよ……」
「だったらほら、祐ちゃんには俺がいるだろ?それじゃ駄目かな?寂しいかな……?」

「ん~ん、平気!僕アキ兄ちゃんがいれば大丈夫」
「祐ちゃん、本当?」

「うん、僕、ここが好きだよ。
春には園庭の椿が咲くでしょう?あの白い花が大好き。寒~い冬が過ぎて冷たい雪が溶けると、毎年変わらずあの花が咲くんだ。
アキ兄ちゃんと一緒にね、毎年変わらずあの花を見ていたい」
「そうだね、祐ちゃんは白い椿の花が好きだったよね。
それならきっと、いつかきっと、俺たちの家には椿を植えよう」

「え、僕達のおうち?」
「そうだよ。祐ちゃんは心臓が弱いから俺がずっと守ってあげる。
一生懸命勉強して、立派な仕事に就けたら家を買うんだ。毎年椿の花が咲く俺達二人のおうちだよ?きっと、必ず買ってあげる」

「本当?本当に?
アキ兄ちゃん、僕おうちなんていらない!椿もいらない!
アキ兄ちゃんと一緒にいられるなら、僕はそれだけで十分なんだ!本当だよ?」
「祐ちゃん、俺は嘘なんて言わない。俺達はいつまでも一緒だよ。
けど、家は買う……俺たちの家は絶対に買うんだ、たとえ……何が有っても必ず……!」

「アキ兄ちゃん……?」


────アキ兄ちゃん…
───何もいらないよ…
──一緒に居られれば…
──それだけで…


 覚醒を促すように、重い目蓋が薄く開いた──。
 明彦はいつものホテルのベッドの中。


(祐二……どうしておまえは……)


 今宵はいよいよ侯爵邸での夜会の日だ。いつまでも夢見心地ではいられない。


(……起きるか)

 
 夕刻には藤代と会う事になっている。
 もしかすると調査の結果が出たのかも知れない──。

 明彦は重い身体を静かに起こした。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結】禁断の忠誠

海野雫
BL
王太子暗殺を阻止したのは、ひとりの宦官だった――。 蒼嶺国――龍の血を継ぐ王家が治めるこの国は、今まさに権力の渦中にあった。 病に伏す国王、その隙を狙う宰相派の野心。玉座をめぐる見えぬ刃は、王太子・景耀の命を狙っていた。 そんな宮廷に、一人の宦官・凌雪が送り込まれる。 幼い頃に売られ、冷たい石造りの宮殿で静かに生きてきた彼は、ひっそりとその才覚を磨き続けてきた。 ある夜、王太子を狙った毒杯の罠をいち早く見破り、自ら命を賭してそれを阻止する。 その行動をきっかけに、二人の運命の歯車が大きく動き始める――。 宰相派の陰謀、王家に渦巻く疑念と忠誠、そして宮廷の奥深くに潜む暗殺の影。 互いを信じきれないまま始まった二人の主従関係は、やがて禁じられた想いと忠誠のはざまで揺れ動いていく。 己を捨てて殿下を守ろうとする凌雪と、玉座を背負う者として冷徹であろうとする景耀。 宮廷を覆う陰謀の嵐の中で、二人が交わした契約は――果たして主従のものか、それとも……。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

OUTSIDER

TERRA
BL
何故、僕らは出逢ってしまったんだろう。 裏社会の片隅で始まった、決して結ばれてはいけない二人の同居生活。 それぞれの思惑とは裏腹に、無慈悲に交差していく物語。 これは、孤独な世界で出逢った男達の抗えない愛の物語。 ■一話完結日常編ほのぼのパートと少しシリアスな本編があります。数組のカップリングがあるので章のタイトルに載っているお好みのカップリングから読んでみてください。

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...