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一章 黄昏のパリは雪に沈む
No,19 確信の抱擁
しおりを挟む「祐ちゃんだ。俺の祐二だ!」
明彦は屈託も無い満面の笑みで優夜を正面から抱きしめていた。
溢れ出しそうな涙を懸命にこらえる優夜──しかし瞬間、ふっとその表情から力が抜けた。
無表情に、虚ろな瞳で言葉を漏らす。
「もう……そのくらいでいいだろ?離せよ……」
「祐二?」
思いも掛けぬ冷淡な態度に、明彦は歓喜に湧いた気勢を削がれた。
「だから……離せ……」
優夜は自分を抱く明彦の両手を振り解くと、ゆっくりと明彦の元を離れ、傍らに置かれた花瓶の生花を虚ろに見詰める。
「どう?変わっただろ……
もう、見る影も無いだろ……」
そう言って優夜は、一輪の花を握り潰した。
「祐二……」
────────────
今日のこの時、この瞬間。
何年もその消息すら不明だった祐二とまさかこう言う形で再開するとは──。
確かに明彦は直ぐに気付いた──あの夜、オペラ座のロビーでひと目その姿を見た時から。
(あれは……祐二か……?)
それが祐二だと気付いた瞬間、明彦の胸には例えようも無い程の感動が湧き起った。
が、しかし、それは大きな喜びであると同時に激しい戸惑いでもあった。
(あの、女姿は……?)
でも、明彦にはそんな疑問など後回しで良かった。祐二と出会えた喜びの方が、遥かにその疑問を凌駕した。
ただ、それが祐二であるなら、到底そのまま遣り過す事など出来ない。
たとえどんなに奇異な姿であっても、それが祐二なら当然このまま放ってはおけない。
──いや、むしろ異形だからこそ、その真意を確かめなくてはならないと明彦は思った。
その後、藤代から「高級娼婦」とも聞いている。いちるの望みとして、単に顔が似ただけの他人かも知れない。
しかも娼婦と言う以上、優夜は女ではないのか?──との疑いも有った。
が、果たしてそれは「いちるの望み」なのだろうか?
「優夜」が「祐二」でなければ、明彦はほっと胸を撫で下ろすのだろうか?
いや、違う!
たとえそれが異形であっても、たとえそれが女装の男娼であっても──明彦はそれが祐二である事を強く願っていたのだ。
祐二と会いたい!
ただひたすらに会いたい!
──それが明彦の真意だった。
だからこそ明彦は慎重に対応した。優夜が本当に祐二なのかどうか、静かに様子を探ったのだ。
そして──心臓の痛み。
──白い椿の花。
──雪への恐怖。
──懐かしいトンボの唄。
カードは揃った。
確信しか無い!
(祐二だ!やはり祐二なんだ!)
明彦は衝動を抑えられなかった。
ただ抱きしめるしかなかった。
なのに優夜は──。
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