32 / 121
一章 黄昏のパリは雪に沈む
No,26 明彦の返信
しおりを挟む──────────
祐二、今俺がどんな気持ちでこの手紙を書いているか分かるか?
悲しみ。怒り。
嘆き。苛立ち。
いや、どんな言葉でも今の俺の心境を的確に表現は出来ない。
何故行ってしまった!
何故また離れてしまった!
約束通り、おまえを連れ出すため侯爵邸へ向かおうとしたその時、ホテルのフロントからあの手紙を受け取った。
あの手紙が俺にとってどれほどの衝撃だったか、どれほど俺を強く打ちのめしたか、おまえには分かるはずだ。
それでも俺は直ぐに侯爵邸へ駆け付けた。
たとえ会えなくても、おまえの向かう行き先が知りたかった。おまえの情報はもう、あの侯爵邸にしか無いのだから。
しかし侯爵邸の連中は口を揃えて優夜など知らない、佐伯の事も知らないと、皆かたくなに言い張る。
この手紙はそんな騒ぎを聞きつけ、玄関先まで姿を見せてくれた侯爵ご本人が「それなら手紙を書きなさい」と勧めて下さっての事だ。
俺は侯爵のご厚意に甘えるしか無い。それしかおまえと繋がる伝手が無いのだ。
そして今、急ぎ侯爵邸でこれを走り書きしている。
だからこの手紙が本当におまえの手に渡るのかどうかとても心配だけれど、でも俺は侯爵を信じたい。信じるしか無い。
祐二、この手紙を読んだのなら今直ぐ連絡をくれ!
おまえが気に病んでいる心配や遠慮は全て筋違いなものだ。
俺にはおまえが必要なんだ!
おまえは俺の希望なんだ!
おまえが実の父親に引き取られたと聞いた時、もう俺の出る幕は無いのかと目標を失った時もあったけれど、でもおまえと再会し、おまえの現状を知った今、どうしておまえを諦められる!
おまえを忘れるなんて俺には出来ない!
だから祐二、俺をこれ以上泣かせないでくれ。
この手紙を侯爵に託す。
だからこれを見たら直ぐに居所を知らせれ欲しい。必ずこの手紙はおまえの元に届くと信じているから──。
祐二へ
──────明彦より
──────────
25
あなたにおすすめの小説
【完結】禁断の忠誠
海野雫
BL
王太子暗殺を阻止したのは、ひとりの宦官だった――。
蒼嶺国――龍の血を継ぐ王家が治めるこの国は、今まさに権力の渦中にあった。
病に伏す国王、その隙を狙う宰相派の野心。玉座をめぐる見えぬ刃は、王太子・景耀の命を狙っていた。
そんな宮廷に、一人の宦官・凌雪が送り込まれる。
幼い頃に売られ、冷たい石造りの宮殿で静かに生きてきた彼は、ひっそりとその才覚を磨き続けてきた。
ある夜、王太子を狙った毒杯の罠をいち早く見破り、自ら命を賭してそれを阻止する。
その行動をきっかけに、二人の運命の歯車が大きく動き始める――。
宰相派の陰謀、王家に渦巻く疑念と忠誠、そして宮廷の奥深くに潜む暗殺の影。
互いを信じきれないまま始まった二人の主従関係は、やがて禁じられた想いと忠誠のはざまで揺れ動いていく。
己を捨てて殿下を守ろうとする凌雪と、玉座を背負う者として冷徹であろうとする景耀。
宮廷を覆う陰謀の嵐の中で、二人が交わした契約は――果たして主従のものか、それとも……。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
OUTSIDER
TERRA
BL
何故、僕らは出逢ってしまったんだろう。
裏社会の片隅で始まった、決して結ばれてはいけない二人の同居生活。
それぞれの思惑とは裏腹に、無慈悲に交差していく物語。
これは、孤独な世界で出逢った男達の抗えない愛の物語。
■一話完結日常編ほのぼのパートと少しシリアスな本編があります。数組のカップリングがあるので章のタイトルに載っているお好みのカップリングから読んでみてください。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる