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一章 黄昏のパリは雪に沈む
………病床の追憶
しおりを挟む「祐ちゃん、大丈夫?
お医者さんはいつもの発作だって言うけど、何だか今回はいつもより息が荒いみたい」
「平気だよ……もう直ぐお薬も効いてくる……僕……そう簡単には死なないから……」
「死ぬなんて馬鹿なこと言うな!」
「うん、そうだね……だって折角アキ兄ちゃんが助けてくれた命だもん……」
「祐ちゃん?」
「あの雪の夜……アキ兄ちゃんが僕に気付いて助けてくれた……」
「そんな事もあったね」
「そうでなければ、きっとあのまま凍え死んでいただろうって、みんな言うよ……?」
「祐ちゃんは憶えていないよね。
あの時の祐ちゃん、本当にまだ小さかったから」
「憶えていないけど……でも、僕が雪を怖がるのはきっとその夜が原因なんだ……」
「大丈夫!雪の夜は俺の布団に入ればいい。一緒に眠れば怖くないよ?」
「そうだね、アキ兄ちゃんと一緒なら平気だね。
それにしても……僕って一体、どこの誰なんだろう?僕、何も分からないんだ。いつの間にかアキ兄ちゃんと一緒にいた……」
「それは俺だって一緒だよ。
ここってみんな、事情が有って預けられている子が多いだろ?本当に身元の分からない子なんて、結局俺たち二人だけだもんな」
「アキ兄ちゃんは僕よりずっといいよ。だってここ来た時、名前も年もちゃんと自分で言えたんでしょう?」
「祐ちゃんだって、そりゃ自分で名前は言えなかったけれど、でも着ていた洋服にちゃんと漢字で秋本祐二って書いてあったんだ。確実だよ。
俺なんて、加藤明彦って名前だって本当かどうか分かったもんじゃない。だって俺、4歳だったんだよ?もしかしたら、本当はサトウアキヒトだったのかも知れないし」
「僕がここ来た時って、2歳だったんだよね?」
「ああ……そうだよ……?」
「それって……誰が決めたの?」
「……お医者さんだよ?」
「ふ~ん……それじゃ僕たち、4歳違いだって事にはなってるけど、本当はどうだか分からないよね?」
「そうだよね、何だか俺、祐ちゃんより10歳も年上な感じがするよ?」
「ええ~っ!僕ってそんなに幼稚~?!」
「へっへっへ」
「ひどいな、よし、僕一生懸命勉強してアキ兄ちゃんより先に大人になってやる!」
「だから祐ちゃん、勉強すれば大人になれると思っているのが子供だよ」
「え?、あ、うん……」
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