昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

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二章 再会は胸を締め付ける

No,33 BLUE BIRDS ②

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 明彦は駆け引きの口火を切った。

「お尋ねしますが、こちらに佐伯さんはいらっしゃいますか?」
 佐伯という名前が出た途端、マスターの営業スタイルがサッと消えた。
 明彦は静かに押す。
「こちらは佐伯さんのお店だと聞いて、それで訪ねてきたのですが……」

「あなた、お名前は?」
「豪田と申します」
 そう言いながら明彦が名刺入れを取り出すと、マスターはそれをそっと押し留めた。

「お名刺は結構です。以前から豪田様のお名前はオーナーから聞いておりました。いらしたら取り次ぐようにと……」
「そうでしたか。では、優夜の件で伺ったと取り次いでいただけますか?」
「少々お待ちください」
 マスターは店の奥へと姿を消した。何やら電話を掛けているようだ。

「お兄さん、そんなに若いのに優夜さんのお客様?」
「え?」
 振り返ると、そこには派手な風貌の美少年が立っていた。
 明るい色の髪がカールしている。長いまつ毛に囲まれた大きな瞳が、明彦の目を食い入るように見詰めている。

「豪田って聞こえたけど、もしかしてあの豪田物産の豪田さん?」
 豪田と名乗れば、多くの日本人がこう言う類の反応を見せる。明彦は辟易としていた。
「あ、いや思い違いだよ。豪田と言っても俺はそんなじゃない」

「でも優夜さん目当てなんですよね?こう言っちゃ何だけど、普通はお兄さんみたいな若い人が優夜さんに手を出せるはずがない。
やっぱり御曹司様なんでしょ?」
「き、君は……!」

「あら玲央ちゃん、ご熱心に営業かしら?」
 マスターが立ち戻り、二人の間に割って入った。
「だってマスター、優夜さんのお客様なら僕だって顔ぐらい売っておきたい」
「あら、向上心って言うか野心って言うか……まあいいわ、このお商売には必要なことね」
「だったらマスター、優夜さんばかりじゃなく僕にだって!」
「よしよし、チャンスは上げるからお待ちなさいな」

 マスターが明彦へ向き直り、妙に真剣な表情を見せる。陽気な作り笑顔は消えていた。
「先ほどは失礼致しました。私はこの店を任せられている熊田原と申します」
 熊田原──マスターの風貌とその個性的な苗字が妙に絶妙で 、明彦は一瞬吹き出しそうになるのを辛うじて堪えた。
 お陰でこの店に入るまでの極度な緊張が吹き飛び、瞬時に平静を取り戻すことが出来た。


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