56 / 121
二章 再会は胸を締め付ける
No,48 悲しい再会
しおりを挟む大邸宅──お城のようなお屋敷。その閉ざされた広い門の壁についたインターホンのボタンを、祐二は震える指で恐る恐る静かに押した。
「どちら様でしょうか?」
スピーカー越しに事務的な女性の声が尋ねる。
「あの、秋本と申します。明彦さんとお会いしたいのですが、いらっしゃいますか」
「秋本様ですか?あの、どちらの秋本様でしょうか?お約束はございましたか?」
「はい……あの……」
その時だった。突然はるか向こうの角を曲がり、一台の高級車がこちらに向かって走り来る。
瞬間──祐二は反射的に近くの物陰に身を隠した。
はたして車は門の前で一時停止し、広い門扉が両側に少しずつゆっくりと開いて行く。
(アキ兄ちゃん!!)
祐二は心の中で大きく叫んだ。思いの限りに明彦の名を呼んだのに、しかし心の叫びは明彦の元には届かなかった。
後部座席に座った懐かしい面影──それは紛れもなく明彦だった。しかし明彦は祐二の存在に気付かない。物陰に隠れ、恐る恐る離れた場所から覗く祐二に気付く筈ない。
数年ぶりに見る明彦の様子は、その逞しく大人びた青年の面影は──もはや自分の知っている明彦とは別人のようにさえ感じられた。
それはほんの一瞬の再会だった。車中の人は開いた門扉の中へと吸い込まれるように消え去った。
立ち尽くす祐二──。
名門校の制服を身につけ、冷徹な表情で高級車に乗りつける明彦の姿──そんな自分とは別世界の姿を見てしまった今となっては、もはや祐二に再び豪田家の呼び鈴を押す勇気など無かった。
(アキ兄ちゃん……もう、僕達は別々の世界に生きてるんだね)
その後、どこをどう歩き回ってこの新宿にたどり着いたのか分からない──放心した祐二には自覚がない。
昨夜からの疲労と足を棒にして歩き回った負担から、祐二はいつもの発作を起こして倒れ込んだ。
そして祐二は、はたと気付く。
──薬が無い。
「はぁ……はぁ……」
息絶え絶えに祐二は思った。
(僕、このままここで死んじゃうのかな……アキ兄ちゃん……助けて……)
人混みの絶えない真夜中の新宿──倒れ込み、閉ざされたシャッターに身をもたれながら苦しむ祐二になど、誰一人として関心も示さぬ冷たい街角。
徐々に薄れいく意識の中で、 明彦が変わらぬ微笑みを投げ掛けてくれるようだ。
(祐ちゃん、大丈夫だよ?俺が一緒だから全然平気……)
祐二の視界が苦痛に霞んだ。
(祐ちゃん、俺たちはいつまでもずっと一緒だよ……)
明彦の笑顔を思い浮かべて──祐二はそっと瞳を閉じた。
25
あなたにおすすめの小説
【完結】禁断の忠誠
海野雫
BL
王太子暗殺を阻止したのは、ひとりの宦官だった――。
蒼嶺国――龍の血を継ぐ王家が治めるこの国は、今まさに権力の渦中にあった。
病に伏す国王、その隙を狙う宰相派の野心。玉座をめぐる見えぬ刃は、王太子・景耀の命を狙っていた。
そんな宮廷に、一人の宦官・凌雪が送り込まれる。
幼い頃に売られ、冷たい石造りの宮殿で静かに生きてきた彼は、ひっそりとその才覚を磨き続けてきた。
ある夜、王太子を狙った毒杯の罠をいち早く見破り、自ら命を賭してそれを阻止する。
その行動をきっかけに、二人の運命の歯車が大きく動き始める――。
宰相派の陰謀、王家に渦巻く疑念と忠誠、そして宮廷の奥深くに潜む暗殺の影。
互いを信じきれないまま始まった二人の主従関係は、やがて禁じられた想いと忠誠のはざまで揺れ動いていく。
己を捨てて殿下を守ろうとする凌雪と、玉座を背負う者として冷徹であろうとする景耀。
宮廷を覆う陰謀の嵐の中で、二人が交わした契約は――果たして主従のものか、それとも……。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
OUTSIDER
TERRA
BL
何故、僕らは出逢ってしまったんだろう。
裏社会の片隅で始まった、決して結ばれてはいけない二人の同居生活。
それぞれの思惑とは裏腹に、無慈悲に交差していく物語。
これは、孤独な世界で出逢った男達の抗えない愛の物語。
■一話完結日常編ほのぼのパートと少しシリアスな本編があります。数組のカップリングがあるので章のタイトルに載っているお好みのカップリングから読んでみてください。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる