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二章 再会は胸を締め付ける
No,53 懐かしい町
しおりを挟む二人が育った施設のある町──帆ノ崎。
日本海に面したその町は静かな早春を迎え、懐かしき海原はまばゆいばかりに輝いていた。
そんな海を見渡せる高台。
穏やかな坂道の頂上にその家はあった。
「優夜さん、身体の具合はどうですか?」
「全然平気さ♪健ちゃんごめん。何だか心配を掛けてしまったね。別に身体の調子が悪くてここに来ていた訳じゃないんだ 」
「え、そうなんですか?この家は西五条の御前が優夜さんの静養のために借りてくれたって聞いてたから俺、てっきり優夜さんは体調を崩しているもんだとばっかり思ってましたよ」
「ごめんごめん。それにしてもわざわざ僕の為にこんな所まで来てくれなくて良かったのに。
……東京で何か有ったの? 」
優夜を訪ねて来た健は見た目も爽やかな好青年で、その体躯も優夜より大きくがっしりしている。
「ご挨拶だな。俺マジで心配してたんですよ?まあ、元気だったらそれに越した事はないけど。
優夜さん、それなら早く東京に戻って来て下さいよ。近頃の白馬会って言ったら、優夜さんがいないのをいいことに玲央の奴が本当に我物顔で生意気で、俺たち優夜派はすんげー悔しい思いをしてるんですよ」
「ええーっ?ふふっ」
「笑い事じゃないですよ!
玲央の奴、優夜さんのお客にまで平気で媚を売って、もうあちこちプンプン粉掛けまくりですよ」
「ふふっ、粉を掛けまくりって、まるでモスラみたいだね」
「優夜さん、冗談言ってる場合じゃないですよ、本当にいいんですか?玲央をあんな好きにさせといて、本当に、マジでお客を取られたって知りませんからね!」
「健ちゃん、勘違いしちゃいけないよ。お客って言ったって別に僕の所有物じゃないんだ。僕は一度だってお客様を獲得した事なんて無いよ?お客様が僕を獲得したんだ。もし彼等が玲央を選ぶのなら、それは仕方の無いことだよ。それは玲央の魅力で、それも実力だから」
「優夜さん……」
「それに玲央は強い子だよ。色々
と頑張ってるみたいだし、玲央に
は僕に無い、何か原動力のような
ものを感じる」
「それってただの野心だよ。
奴はお客を引く為にギラギラ動いているだけで、その成果をいつも値踏みしている。
優夜さんが無欲すぎるんですよ。まあ、俺たち優夜派としてはそこが魅力でついて行ってるんですけどね」
「だから、その優夜派って言うのやめてくれる?僕は別に、玲央と競争する気は全然ないんだから」
「いやいや、俺達みんな、優夜さんに従ってればこの業界で間違い無いって信じてるんです」
「やれやれ、困ったな……」
二人並ぶと健の方がずっと大人びて見えるが、実はひとつ年下。優夜から見れば健も可愛い後輩だ。
もっとも健にしてみれば、実は優夜を単なる先輩とは考えていない──その胸の奥に、もっと切ない、熱い想いを抱いていた。
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