71 / 121
二章 再会は胸を締め付ける
No,61 破綻、そして決別
しおりを挟む「アキ兄ちゃん、もし普通に僕と再会していたなら、アキ兄ちゃんはいけない事だって分かっていた筈のさっきのようなこと……僕に出来た?」
「そ、それは……」
「出来ないよね、出来るわけないよね!ずっとずっと我慢しなきゃいけないって、思っていた事なんだもんね。それなのに、どうしてあんな事が出来た?」
「……祐二」
「アキ兄ちゃんは僕のしてきた事を知ったから……僕は、その、男同士と言う関係を精神的にも肉体的にも、何もかも当たり前に汚れて、慣れきっている奴だと思うから、だからあんな事が出来たんだ」
「違う!それは違うぞ祐二!」
「違わないよ!だって今までずっとずっと、耐えに耐えてきた事じゃないか……それなのに、アキ兄ちゃんは……」
「ゆうじ、愛しているんだ。
あの頃の俺は間違っていた。おまえを愛する事に何も引け目や罪悪感など感じる事は無かったんだ。今にして思うよ、俺にとってどれ程おまえが大切な存在だったのか。俺はもう恥じてなんかいない。おまえを愛することに誇りを持っているんだ 」
祐二は黙って明彦に背を向け、窓際に立つと眼下に広がる海原を眺め始めた。
(どうしよう……アキ兄ちゃんにこんな事を言わせるつもりじゃなかった……)
明彦はそっと祐二に近づき 、後ろから祐二の肩に手を掛けた。
「祐二……嫌だよ……こんなケンカは……」
「アキ兄ちゃんは、二人の大切な思い出を汚したんだ。僕たち二人の掛け替えのない結び付きを壊してしまったんだ」
「違う!違うよ祐二!」
「離れていて会えなかった時間も、僕たち二人の絆はいつまでも変わらないって、そう信じていたのに、それを粉々にしたのはアキ兄ちゃんだ」
「祐二、どうすれば分かってくれる?」
「このまま帰って。二度と会いに来ないで」
「そんな事ができるか!
やっと……やっと会えたのに」
「知ってるでしょ?僕の心臓の事情……。あんまり取り乱して、少し胸が痛むんだ。
アキ兄ちゃんのせいだよ?少し休むから……だからもう帰って欲しい」
明彦ははたと顔色を変え、祐二の身体を両手で抱える。
「発作なのか?」
「そんな感じ……だから早く帰って……」
「そんな、発作の事は良く知っている。そんなおまえを残してどうして俺がこのまま帰れる?」
「そうだったね。僕の身体のことは誰よりもよく知ってるはずだね。薬を飲んで、少し休めば別に平気さ。ただ、気に障るのが一番良くないんだ 」
「……分かった。今日は突然俺が現れて、おまえも随分慌てたんだろうな」
「…………」
「日を改めてまた会いに来るよ。この次はもっと落ち着いて、冷静に話し合おう」
明彦から目を背けたまま祐二は嗚咽を噛み殺し、明彦の身体を突き放す。
「もう、何も話す事は無いよ」
「祐二?」
「何も聞かなかった事にする 」
明彦は肩を落とし、静かに部屋の外へと姿を消した。
(行ってしまった……
アキ兄ちゃんが行ってしまった……)
身体中の力が足元から一気に抜けて、そのままベッドの上に崩れ落ちる。
(……これで良かったんだ。アキ兄ちゃんを傷付けてしまったけれど、でもこれで良かったんだ……)
止めどなく溢れる涙を拭おうともせず、祐二はうつ伏せのまま静かに瞳を閉じた。
発作なんて嘘だった。
(アキ兄ちゃんはきっとまた来る。何とか……何とかしなくちゃ……)
この次会ったらきっともう、明彦に対して偽りの仮面など被り切れない。
祐二の明彦に対する理性は、もう既にギリギリのところまで追い詰められていたのだ。
(どうしよう……もう、これ以上アキ兄ちゃんに会うわけにはいかない。もう、二度と会っちゃいけないんだ!)
これ以上明彦に会ってしまえば、この次はきっともう、どうにも理性では抑え切る事が出来ないだろう──。
それほどに熱く激しい明彦への思いを、その時すでに祐二は自覚していた。
17
あなたにおすすめの小説
【完結】禁断の忠誠
海野雫
BL
王太子暗殺を阻止したのは、ひとりの宦官だった――。
蒼嶺国――龍の血を継ぐ王家が治めるこの国は、今まさに権力の渦中にあった。
病に伏す国王、その隙を狙う宰相派の野心。玉座をめぐる見えぬ刃は、王太子・景耀の命を狙っていた。
そんな宮廷に、一人の宦官・凌雪が送り込まれる。
幼い頃に売られ、冷たい石造りの宮殿で静かに生きてきた彼は、ひっそりとその才覚を磨き続けてきた。
ある夜、王太子を狙った毒杯の罠をいち早く見破り、自ら命を賭してそれを阻止する。
その行動をきっかけに、二人の運命の歯車が大きく動き始める――。
宰相派の陰謀、王家に渦巻く疑念と忠誠、そして宮廷の奥深くに潜む暗殺の影。
互いを信じきれないまま始まった二人の主従関係は、やがて禁じられた想いと忠誠のはざまで揺れ動いていく。
己を捨てて殿下を守ろうとする凌雪と、玉座を背負う者として冷徹であろうとする景耀。
宮廷を覆う陰謀の嵐の中で、二人が交わした契約は――果たして主従のものか、それとも……。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
OUTSIDER
TERRA
BL
何故、僕らは出逢ってしまったんだろう。
裏社会の片隅で始まった、決して結ばれてはいけない二人の同居生活。
それぞれの思惑とは裏腹に、無慈悲に交差していく物語。
これは、孤独な世界で出逢った男達の抗えない愛の物語。
■一話完結日常編ほのぼのパートと少しシリアスな本編があります。数組のカップリングがあるので章のタイトルに載っているお好みのカップリングから読んでみてください。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる