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二章 再会は胸を締め付ける
No,62 思い出の入江
しおりを挟む♪トンボのメガネは
赤色メガネ
夕焼け雲を飛んだから
飛んだから♪
(バカだな。こんな子供の頃の歌を歌うなんて)
明彦は夕日に染まる海を見ていた──
(それにしてもここは何も変わっていない、あの頃のままだ)
沈み行く夕日の赤々と燃える日差しを受けて、この小さな入江の渚は金色に輝き、静かに夕凪の音を奏でる。
十年に渡る歳月も、この大自然に対しては何ほどの変化も与えることなく、そこに立つ明彦にさえ、まるでそれがつい昨日の事かのような錯覚を与える。
(祐二、なぜこんな事になってしまった。お前の思いは十分過ぎるほど良く分かっている。何を考えてあんな事を言うのか、それさえ俺には痛いほどよく理解出来る。
それなのに、俺達は……)
大海より吹き寄せる潮風が、まるで明彦の心を通り抜けて行くようだ──
(俺たちの気持ちは変わっていない、あの頃のままだ。それなのになぜ……
会えなかった長い年月が、いつのまにか二人の間に微妙な食い違いを生んだのか?
祐二、どうしたらいい……
俺たちはこれからどうしたらいいんだ)
一人渚にたたずみ、明彦は食い入るように夕日を見つめる。
幼い頃に幾度となく訪れたこの秘密の入り江──明彦はようやくここへ帰って来た。
しかしここに祐二はいない 。
(今夜は駅前のホテルにでも泊まろう。そして明日、改めて祐二を訪ねるんだ。明日になればきっと祐二も落ち着きを取り戻す。
このまま……このまま祐二を置いて東京に戻るわけにはいかない!)
赤々と燃える太陽が水平線に触れた。
夕凪の音に身に委ね、明彦はそっと瞳を伏せる──
「アキ兄ちゃん……」
驚きにハッと目を見開き 、振り返る明彦。
「……アキ兄ちゃん……
来たよ……」
そこには赤々と燃える夕日を全身に浴び、一途に明彦を見詰める祐二がたたずんでいた。
その瞳は揺れ動き、頬は紅潮している──
「みっともないよね、勝手だよね、あんな強気なこと言っといて、あんな酷いこと言っといて、それなのにこんな所にノコノコやって来るなんて」
「祐二……?」
はにかんだ笑みを見せて祐二は視線を外した。が、その唇は微かに震えていた。
「あはっ、調子いいよね、アキ兄ちゃんの事をあんなに傷つけておいて、これって手のひら返しって言うんだよね、バカだよね、恥ずかしいよね」
「もういい祐二!何も言うな!」
「アキ兄ちゃん……」
黙って祐二に近づき、明彦は両手をその肩に乗せた。
込み上げる感情に言葉が途切れ、祐二はぐっと涙を飲み込んだ。
「アキ兄ちゃんは、きっとここへ来ると思ってた」
途端に祐二の瞳から涙が溢れ出した。
「おかしいよね、滑稽だよね 、自分でも分からないんだ、 なぜこんな事をしているのか 。
僕はアキ兄ちゃんと関わっちゃいけない。アキ兄ちゃんの足手まといにはなりたくないって、ちゃんと分かっているんだ」
「祐二、だからもう何も言わなくていいよ」
「ん~ん!だって僕は傷つけた。アキ兄ちゃんに嫌われるように、あんなに酷い事を言ってしまった!」
「分かってるよ、祐二」
「アキ兄ちゃんを追い出すためにあんな事を言ったのに、なのに、なのにアキ兄ちゃんが出て行った後、直ぐにとっても辛くなって、どんどん悲しくなって、気付いたら夢中でこの入江に向っていたよ」
「祐二、分かった。祐二の気持ちは全部分かってるよ」
明彦は祐二を抱き寄せた。
──そして見詰め合う二人。
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