73 / 121
二章 再会は胸を締め付ける
No,63 夕日に燃える二人
しおりを挟む「祐二、分かった。祐二の気持ちは全部分かってるよ」
明彦は祐二を抱き寄せた。
──そして見詰め合う二人。
「アキ兄ちゃんが好きなんだ」
「祐二」
「恥ずかしいよ、あんなこと言った直後に僕の方からこんな事を言うなんて、節操が無いよね、支離滅裂だよね」
「祐二、素直に言ってくれて俺は嬉しい」
明彦は祐二を抱き締めたまま、そっと頬と頬を合わせる。
「ずっとずっとアキ兄ちゃんの事が好きだった。いつもいつも、アキ兄ちゃんの事ばかり考えていた。
でもあの日、パリで思い掛けず再開してしまったあの日から、僕はいつも恐れていたんだ。
アキ兄ちゃんに僕の素性が知れて、いつ僕を見付け出すのか、僕はそれが怖くて、今日までずっと雲を踏むように生きて来たのに……」
「祐二!」
さらに強く祐二を抱き締め、明彦は震える祐二の耳たぶにそっとくちづける。
祐二は思わず陶酔の声を漏らした。
「本当は死ぬほど会いたかったのに、どんなに辛くても身を隠して避け続けたのはアキ兄ちゃんのため?それとも自分を守るため?もう僕には分からない。もう、何がどうでも構わない」
「祐二」
「突然アキ兄ちゃんがやって来て、あんな心にも無い酷い事ばかり言って、それをアキ兄ちゃんのためだなんて、結局は僕の傲慢な思い上がりだった。
あのあと辛くて、悲しくて、情けないけど恥も外分も投げ捨てて、こうしてアキ兄ちゃんを追い掛けた」
「だから祐二、もういいって言ってるだろ」
「こんなに汚れてしまった僕は、もうアキ兄ちゃんに会わす顔がないと思って、迷惑にしかならない僕は、アキ兄ちゃんの前から姿を消すしかないと思って、ああ、それなのに、今の僕にはもう何も考えられない……」
突然、明彦が祐二の唇を奪った。強引なくちづけで祐二の話を遮る。
そして二人は半分以上海に沈んだ夕日に照らされ、長い沈黙に強く抱き締め合った。
(祐二……俺は何をどう話せばいい?分からないよ……
今はただ、こうしておまえを黙らせるしかない……)
夕凪の音は二人を包み込み 、明彦と祐二はまるで小舟のように渚に揺れる。
「アキ兄ちゃん……」
溢れる涙を拭おうともせず、明彦の広い胸に顔をうずめる祐二。
「もう何も言わなくていい。何度も同じ事を言わせるな」
「うん、もう愚痴は言わない」
「祐二の事は全部分かっている。もう、何がどうなっても構わない。俺と一緒に東京へ戻ろう」
「うん……僕、アキ兄ちゃんと一緒に東京に戻るよ」
潮騒につつまれ、只々じっと抱き合う二人──
「祐二、今度こそ決してお前を離さない!」
明彦は思いの丈を祐二に告げた。
(アキ兄ちゃん……まさかこんな事になってしまうだなんて。
だけどもう戻れない。
もう、アキ兄ちゃんと離れられない!)
間もなく海の彼方に夕日は沈み、夕映えはやがて静かな 闇に落ちるだろう。
──なのに静かな夕凪に身を委ね、いつまでも渚に漂い続ける二人だった。
19
あなたにおすすめの小説
【完結】禁断の忠誠
海野雫
BL
王太子暗殺を阻止したのは、ひとりの宦官だった――。
蒼嶺国――龍の血を継ぐ王家が治めるこの国は、今まさに権力の渦中にあった。
病に伏す国王、その隙を狙う宰相派の野心。玉座をめぐる見えぬ刃は、王太子・景耀の命を狙っていた。
そんな宮廷に、一人の宦官・凌雪が送り込まれる。
幼い頃に売られ、冷たい石造りの宮殿で静かに生きてきた彼は、ひっそりとその才覚を磨き続けてきた。
ある夜、王太子を狙った毒杯の罠をいち早く見破り、自ら命を賭してそれを阻止する。
その行動をきっかけに、二人の運命の歯車が大きく動き始める――。
宰相派の陰謀、王家に渦巻く疑念と忠誠、そして宮廷の奥深くに潜む暗殺の影。
互いを信じきれないまま始まった二人の主従関係は、やがて禁じられた想いと忠誠のはざまで揺れ動いていく。
己を捨てて殿下を守ろうとする凌雪と、玉座を背負う者として冷徹であろうとする景耀。
宮廷を覆う陰謀の嵐の中で、二人が交わした契約は――果たして主従のものか、それとも……。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
OUTSIDER
TERRA
BL
何故、僕らは出逢ってしまったんだろう。
裏社会の片隅で始まった、決して結ばれてはいけない二人の同居生活。
それぞれの思惑とは裏腹に、無慈悲に交差していく物語。
これは、孤独な世界で出逢った男達の抗えない愛の物語。
■一話完結日常編ほのぼのパートと少しシリアスな本編があります。数組のカップリングがあるので章のタイトルに載っているお好みのカップリングから読んでみてください。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる