昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

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三章 祐二の過去とこれから

………祐二の独白③

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「僕は今、一体どれぐらい佐伯さんにお借りしているんですか?助けていただいた時の治療費をお返しするために僕は働き始めました。
だけど BLUE BIRDS には出してくれないし、白馬会でも雑用ばかり。この数ヶ月の間、借金をお返しするどころか学費に生活費と、借金はますます増えるばかりじゃないですか」
 僕は思いの丈を語り始めた。

「今はまだそんな余計なことは考えず、学校の事だけ考えていればいい」
「働きたいです、先輩たちと同じように。僕だけ一人が特別扱いだなんて、寮でもちょっと立場がないし……」

「実は、君の学費は白馬会の有志の方々で賄われている。君が素晴らしい青年に成長するのを期待しての先行投資としてね」
「え、そうなんですか?先行投資って……」

「だから、君はそんなに負担に思う必要はないのだよ。君が皆さんの期待に応えるよう、立派な青年へと成長すれば良いだけの事です」
「ご恩は、お返ししなければなりませんね」

「君次第です」
「はい」

「それに生活費についても、君は白馬会で十分に働いてくれているし、それに寮でも君は食事の用意から掃除まで、一人で何もかも家事をつとめてくれているそうだね。住み込みと言う事を差し引いても、君には本来給料を支払わなければならないところだ」
「給料なんてそんな、僕は住まわせていただけてるだけでもありがたいと、そう思って心から感謝しています」

 僕の話を聞きながら、佐伯さんは何やら帳簿を持ち出した。

「見たまえ、この数ヶ月の君の給料分を換算し、貸金から差し引いてある。これがその帳簿だ」
「え、そうなんてすか?」

 僕は初めてそれを見る。
 これまで僕に掛かった費用が詳細に記録されていて、確かに月々、僕への給料分として差し引かれている。

「どうかな?これなら納得できるだろう」
「でも、まだこんなに残ってる」

「確かに、雑用だけではちょっと無理かな」
「お願いします。僕にお客を付けて下さい。白馬会のお手伝いをしながら、僕は僕なりに勉強し、先輩たちを見習い、今なら自分の売り方もちゃんとこなせる自信があります」

「優夜……」
「確実に借金を返済し得る収入の機会を僕にも下さい」 

「いやはや、君には全く驚かされるよ。これが十五歳の少年の思考なのかと思うと、そうならざるを得なかった境遇を思い、可哀想なくらいだ」
「佐伯さん、僕は可哀想ではありまけん。先輩たちと同じように、ちゃんと稼ぐ事が出来ます」

「分かりました。私の配慮はかえって君を圧迫するだけの事らしい、この際余計な配慮はせず、君の気の済むようにさせていただこう」
「ありがとうございます。やっと一人前に扱っていただけるのですね」

「ただし BLUE BIRDS はダメだ。あの店では衆目にさらされる。危険だ。君には白馬会専門でやってもらう」
「分かりました」

「先輩たちのご贔屓様を奪い取るぐらいの意気込みが、君には有るかね?」
「そうしなければ自分の身が立たないというのであれば」 

「改めて確認するが、客を取ると言うことがどう言う事か、理解はしてるな?」
「……僕は……初めてではありません。父親に……」

「分かった、もういい!」
 佐伯は顔をしかめた。
「よし次の土曜日、白馬会の席上で君を正式なメンバーとして紹介しよう」
「はい、よろしくお願いします」

 こうして僕は、名実ともに白馬会のメンバーとなった。
──中学三年に進級したばかりの頃だった。


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