79 / 121
三章 祐二の過去とこれから
………祐二の独白③
しおりを挟む「僕は今、一体どれぐらい佐伯さんにお借りしているんですか?助けていただいた時の治療費をお返しするために僕は働き始めました。
だけど BLUE BIRDS には出してくれないし、白馬会でも雑用ばかり。この数ヶ月の間、借金をお返しするどころか学費に生活費と、借金はますます増えるばかりじゃないですか」
僕は思いの丈を語り始めた。
「今はまだそんな余計なことは考えず、学校の事だけ考えていればいい」
「働きたいです、先輩たちと同じように。僕だけ一人が特別扱いだなんて、寮でもちょっと立場がないし……」
「実は、君の学費は白馬会の有志の方々で賄われている。君が素晴らしい青年に成長するのを期待しての先行投資としてね」
「え、そうなんですか?先行投資って……」
「だから、君はそんなに負担に思う必要はないのだよ。君が皆さんの期待に応えるよう、立派な青年へと成長すれば良いだけの事です」
「ご恩は、お返ししなければなりませんね」
「君次第です」
「はい」
「それに生活費についても、君は白馬会で十分に働いてくれているし、それに寮でも君は食事の用意から掃除まで、一人で何もかも家事をつとめてくれているそうだね。住み込みと言う事を差し引いても、君には本来給料を支払わなければならないところだ」
「給料なんてそんな、僕は住まわせていただけてるだけでもありがたいと、そう思って心から感謝しています」
僕の話を聞きながら、佐伯さんは何やら帳簿を持ち出した。
「見たまえ、この数ヶ月の君の給料分を換算し、貸金から差し引いてある。これがその帳簿だ」
「え、そうなんてすか?」
僕は初めてそれを見る。
これまで僕に掛かった費用が詳細に記録されていて、確かに月々、僕への給料分として差し引かれている。
「どうかな?これなら納得できるだろう」
「でも、まだこんなに残ってる」
「確かに、雑用だけではちょっと無理かな」
「お願いします。僕にお客を付けて下さい。白馬会のお手伝いをしながら、僕は僕なりに勉強し、先輩たちを見習い、今なら自分の売り方もちゃんとこなせる自信があります」
「優夜……」
「確実に借金を返済し得る収入の機会を僕にも下さい」
「いやはや、君には全く驚かされるよ。これが十五歳の少年の思考なのかと思うと、そうならざるを得なかった境遇を思い、可哀想なくらいだ」
「佐伯さん、僕は可哀想ではありまけん。先輩たちと同じように、ちゃんと稼ぐ事が出来ます」
「分かりました。私の配慮はかえって君を圧迫するだけの事らしい、この際余計な配慮はせず、君の気の済むようにさせていただこう」
「ありがとうございます。やっと一人前に扱っていただけるのですね」
「ただし BLUE BIRDS はダメだ。あの店では衆目にさらされる。危険だ。君には白馬会専門でやってもらう」
「分かりました」
「先輩たちのご贔屓様を奪い取るぐらいの意気込みが、君には有るかね?」
「そうしなければ自分の身が立たないというのであれば」
「改めて確認するが、客を取ると言うことがどう言う事か、理解はしてるな?」
「……僕は……初めてではありません。父親に……」
「分かった、もういい!」
佐伯は顔をしかめた。
「よし次の土曜日、白馬会の席上で君を正式なメンバーとして紹介しよう」
「はい、よろしくお願いします」
こうして僕は、名実ともに白馬会のメンバーとなった。
──中学三年に進級したばかりの頃だった。
15
あなたにおすすめの小説
【完結】禁断の忠誠
海野雫
BL
王太子暗殺を阻止したのは、ひとりの宦官だった――。
蒼嶺国――龍の血を継ぐ王家が治めるこの国は、今まさに権力の渦中にあった。
病に伏す国王、その隙を狙う宰相派の野心。玉座をめぐる見えぬ刃は、王太子・景耀の命を狙っていた。
そんな宮廷に、一人の宦官・凌雪が送り込まれる。
幼い頃に売られ、冷たい石造りの宮殿で静かに生きてきた彼は、ひっそりとその才覚を磨き続けてきた。
ある夜、王太子を狙った毒杯の罠をいち早く見破り、自ら命を賭してそれを阻止する。
その行動をきっかけに、二人の運命の歯車が大きく動き始める――。
宰相派の陰謀、王家に渦巻く疑念と忠誠、そして宮廷の奥深くに潜む暗殺の影。
互いを信じきれないまま始まった二人の主従関係は、やがて禁じられた想いと忠誠のはざまで揺れ動いていく。
己を捨てて殿下を守ろうとする凌雪と、玉座を背負う者として冷徹であろうとする景耀。
宮廷を覆う陰謀の嵐の中で、二人が交わした契約は――果たして主従のものか、それとも……。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
OUTSIDER
TERRA
BL
何故、僕らは出逢ってしまったんだろう。
裏社会の片隅で始まった、決して結ばれてはいけない二人の同居生活。
それぞれの思惑とは裏腹に、無慈悲に交差していく物語。
これは、孤独な世界で出逢った男達の抗えない愛の物語。
■一話完結日常編ほのぼのパートと少しシリアスな本編があります。数組のカップリングがあるので章のタイトルに載っているお好みのカップリングから読んでみてください。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる