昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

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三章 祐二の過去とこれから

No,72 最後のBLUE BIRDS

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「おはよう」
 突然の優夜の出現に BLUE BIRDS の面々は色めきだった。

「優夜さん、今までどこで何していたんですか?東京には戻っているって聞いていけど、全然連絡が取れませんでしたよ?」
「健ちゃんごめん、何の連絡も出来なくて」
──言われてみれば、留守番電話に健からのメッセージが何件か残されていた。雑事に追われてつい不義理をしてしまった。

「うん、でもこうして優夜さんの元気が顔が見られて安心しました。でも、ここに来るなんて珍しいですよね?」
 優夜がここ BLUE BIRDS に顔を出すのは極めて稀な事だった。

 夕刻時──開店間も無いこの時間に客が来る事はまずほとんど無い。
 店内にたむろしていたボーイ達は突然の優夜の出現に驚いて駆け寄る者と、無表情に関心を示さぬ者とにはっきりと色分けされた。
 優夜を見知っている者は当然、白馬会のメンバーだけである。なぜなら優夜がこの店に立った事は、結局一度として無かった事なのだから。

「用事があって銀座に寄ったからアベイユのケーキを買って来たよ?お客さんが入らないうちにみんなでどうぞ」
「わぁ、すげぇ! 流石に優夜さんだ、超高級!」
「浅ましいね~!これだから貧乏人はやだよ。あ、俺このでかいやつね!」
「待てよ!じゃんけん♪じゃんけん♪」

 優夜の登場で店内が急に明るくなった。そんな光景に笑顔を浮かべながら、優夜は周りを見渡し、健にたずねた。
「ねぇ健ちゃん、熊田原マスターは?」 
「何か用事が有るって出掛けてます」
「ああ、そうなんだね」

「それより優夜さん、このところ白馬会もずっとお休みでしたよね?敷島会長と旅行にでも行っていたんですか?」
「健ちゃん、そうじゃないんだ。実は……」
 健が言葉を被せる。
「優夜さん、この仕事を辞めるって本当ですか?」
 思い詰めた健の表情。
──その一言に優夜は驚く。

(まだ、公表していないはずなのに……)

 聞き付けた数人が取り囲む 。
「それじゃ、やっぱりあの噂は本当だったんですか?」
「ショックだな、僕たちこれからどうすれば?」
 そんな仲間たちに優夜はにっこりと微笑みを見せた。

「もう、みんな知ってるんだね。実は、今日はみんなにお別れを言いに来たんだ」

「え……」
「!」

 優夜を慕う白馬会の仲間達が絶句する。かろうじて健が言葉を繋いだ。

「本当に……良かった……
おめでとう、って言うべきなんですよね、もう、こんな仕事をしなくてもいいんだから…」    
 そう言いながら、健は顔を曇らす。
「健ちゃん……」
 優夜と健は見詰め合い、無言で立ち尽くした。

 その時、突然ドアが開き玲央が現れた。あたりがぱっと華やかになる。
「あれ?優夜さん、もう辞めたって聞いたけど、こんなところで何してんの?」
「玲央ちゃん、うん、今日はね、お世話になったみんなにさよならを言いに来たんだ」

「ふう~ん、それならそろそろ帰った方がいいんじゃない?グズグズしてるとお客さんが来て指名されちゃうよ?なんせ優夜さんはこの街一番の美人なんだから」
「おい、玲央!」
 玲央の毒の有る言葉に健がいきり立った。

「でも、二十歳も過ぎて薹が立ってるからもう平気なのかな?だって未成年が売りの優夜さんだもの」
「玲央!何だよてめぇ!喧嘩売る気か!」
「健ちゃんいいから!もう、いいから……」
 顔色を変え、掴み掛かろうとする健を優夜は辛うじて止めた。

 が、玲央は悪びれた様子もなく優夜に挑む。
「だってそれで辞めるんでしょ?もう少年好みの上客に法外な高値で売る事も出来ない歳なんだから。
大丈夫安心して下さい。優夜さんの抜けた穴はまだまだ未成年の僕がしっかりと埋めますよ♪」
「玲央!おまえ!!」

「こら!!二人共いい加減におし!!お店の外まで聞こえてるわよ!!!」
 突然威勢よくドアが開き、この店のマスター、熊田原が姿を見せた。


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