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四章 果て無き雲の彼方へ
No,79 西五条家と雪辻家
しおりを挟む虚ろな瞳に霞が掛かり、激しい耳鳴りが祐二を襲う。
「わたくし、驚きましたわ。
知らせて下さった奥様はわたくしに遠慮なさって、ただ風変わりなお商売としかおっしゃらないし、わたくしとしては何と言っても大切なご縁に関わる大事ですものねぇ、ことを未然に収めるためにも、あなたの事は独自で調べるしかありませんでしたの」
「それで……僕の一体、何が分かったのですか……」
「何もかも全てですわ」
「……そうですか」
「けれどもわたくし、先程もお話した通り、あなたと明彦が単なる幼なじみだと知って胸を撫で下ろしましたのよ?
確かにあなたは、そうねぇ、すこぉしばかり風変わりなお商売をしていらっしゃるようだけれど、でもそれは明彦とは何の関係も無い事なのでしょう?」
「それは、確かに僕の仕事と明彦さんは何の関係もありません」
「そうですわよねぇ、それが当たり前の事ですわ……
けれど、世間様は決してそうは考えて下さいませんのよ?ことに縁談が絡んできますとねぇ……」
「……はい」
「そのような誤解は、豪田家にとっては甚だ不本意なことですわ?」
「僕は、明彦さんに迷惑を掛けるつもりなんて決してありません」
「まあ、わたくし、その言葉を伺って本当に安心致しましたわ。なんて潔く、そうして物分かりの良い方でしょう。
さすがにあの西五条さんのお目にかなっただけあって、道理も弁え、分別もお持ちなのねぇ」
「え?」
「西五条さんはあれで中々気難しい所のあるお方でしたもの、やはりそれぐらいでなくては、特殊なお仕えはかないませんものねぇ」
「あの、ご存知なんですか?西五条さんを…」
「わたくし先程、あなたを目にした途端驚いてしまって、少々取り乱してしまいましたでしょう?わたくし、以前にもあなたにお会いした事がありますのよ 」
祐二の胸中に、一気に羞恥心が沸き起こった。
「わたくし、あなたの風変わりなお商売について報告を受けた時、とても信じる事が出来ませんでしたの。
けれど先程あなたにお会いして、わたくし直ぐに思い出しましたわ?あなたのあの特殊なお姿を……
そうしてようやく、あなたのお商売がわたくしにも理解できましたの」
祐二は言葉を詰まらせる。
「あれは何年前かしら?確か西五条さんの喜寿のお祝いの席でしたわねぇ。
わたくしの実家である雪辻家は、西五条家とは親戚にあたりますの。わたくしも出席しておりましたのよ?あの祝賀会に…」
「あ……」
「西五条さんにはことのほかあなたの事をお気に入りでしたわねぇ、何でも若くして亡くなられた頼子夫人にあなたがまるで生き写しとか。あなたにそのお形見とか言う触れ込みの大層古風なローブ・デ・コルテを身に着けさせて、それこそ得意満面にお披露目をなさっていたわねぇ」
「や、やめて……」
「西五条さんと言えば元々粋狂な方でしたし、そうねぇ、何かと奇をてらうのがお好きな方でしたでしょう?それだけにわたくし達、あの時はさして気にも留めなかったのだけれど、まさかあの時の美女が男の人だったとは、本当に、常人には全く思いもよらぬ事ですわ」
「分かりました、もうやめてください……」
祐二の瞳が屈辱に潤んだ。
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