昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

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四章 果て無き雲の彼方へ

No,82 侯爵との再会

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 数日後──都内某所。
 鬱蒼とした林に囲まれた広い敷地の中に、ひっそりと建つ由緒有り気な洋館。

 その夜、ド・ロモランタン侯爵の華やかなる夜会が繰り広げられていた。
 ホールに集まるのはフランスから来日した侯爵とその取り巻き達。
 日本勢としては白馬会のメンバーと、BLUE BIRDS からも選りすぐりのボーイ達。

 男性ばかりのその中にあってひときわ華やかな紅一点は、派手なピンクのドレスを身に着けた艶やかなる玲央の姿であった。
 今や玲央は侯爵のお気に入りであり、占有契約の第一候補者でもある。
──数人の取り巻き達を引き連れて、玲央が侯爵の御前へとまかり出る。

『こんばんは侯爵、私は玲央です』

 片言のフランス語で基本例文のような挨拶をしながら、玲央は派手な身振りで妖艶な笑顔を振りまいた。

(どう?僕くらい若くて女姿の似合うボーイなんて、他にはいないだろ?)

 侯爵を独占し、我が物顔の玲央を中心に宴はいよいよ絢爛の時を迎え、そろそろ中盤にも差し掛かろうかと言うその時──突然並み居る人々から称賛の声とため息が沸き起こった。

 そしてそこに立つのは──
颯爽としたタキシード姿の健にエスコートされ登場した、さながら大輪に咲き誇る白き花椿のごとく清楚なる美女。 
 象牙色の豪華なドレスに身を包み、あたり一面に光を放つその姿こそ、まさにあの懐かしき優夜に相違なかった。

 瞬時にして嬌声が止み、ざわめきが静まる。
 まるで絵の様に美しい一対の若き美貌──健と優夜。
 そして人々は静かに立ち尽くし、完璧なまでの二人の姿に魅入るのだった。

 逞しき健に手を取られながら侯爵の御前へと歩む優夜。
 その楚々とした立ち居振る舞いの優雅さは、到底玲央など及ぶべくもない。

「優夜?え、優夜さんなの?
何なの!どう言うこと?!」
 玲央は焦りに顔を引きつらせ、優夜の前へと立ちはだかった。

「玲央ちゃん……まあ、お綺麗ね、さぞかし侯爵様にはお気に入りなのでしょうね」
 優夜は極上の笑みを満面に浮かべ、たじろぎもせずに玲央に対峙した。
 その翳りも見せず凛とした様子に、思わず玲央も後ずさりする。が、玲央も黙ってはいない。

「私は、幽霊が出たかと思ったわ!」
 強張った顔に険を現し、皮肉な笑みで口元を歪める。

「そうね、今になって現れるなんて、幽霊かも知れないわね」
「何しに来たのよ!説明してちょうだい!」

「ごめんなさい、ふふっ、
ご挨拶なら、あなたよりも侯爵様が優先よ?」
 優夜は玲央に構わず先へ進み、侯爵の前で膝を折る。
 両手でドレスの裾を広げると、そこには大輪の花びらが広がった。
 ゆっくりと優雅に、そして華々しくも優夜の流暢なフランス語が口火を切った。

『お懐かしき侯爵様、今再び御前にまかり出ます望みこと叶い、優夜の胸は喜びと感慨に打ち震えております』
 その優雅な仕草は独特なもので、誰もが感嘆にため息を漏らした。

 侯爵も再会を喜んだ。
『おお、美しくも懐かしき夜の妖精よ。あなたにこうしてまた会える日が来ようとは』

『侯爵様は憶えていらっしゃるかしら?この象牙色の夜会服を……
4年前のあの日、そう、最後のお別れの際に開いてくださったあの宴のために、侯爵様がこの素晴らしいドレスをあつらえて下さいました。
優夜はこの長き歳月を隔てようとも、あのパリーの夜のまま何も変わってはおりません、この夜会服のように』

 あまりに流暢過ぎて聞き取りの出来ない玲央は焦りまくり、会話を阻むため拙い仏語で強引に割り込む。

『侯爵!この人は22歳です!侯爵の好む少年ではありません!』

 言葉に精通していないだけに直訳的、かつ浅はかな物言いに侯爵は顔をしかめた。
 しかし玲央はそれに気付かず優夜に挑む。

「優夜さん、今頃出て来たって遅いわよ!侯爵は私をパリに連れてってくれる事になってるの!もう決まってるんだから!」

「まあ、そうなの?あなたがパリーにいらっしゃるの?
それでは言葉が通じなくてさぞかしご不自由でしょうね、わたくしが通訳として付き添って差し上げようかしら?」

「きっ!何ですって?何なのよあんた!」


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