昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

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四章 果て無き雲の彼方へ

No,91 明かされる秘密①

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「教えてやるぜ、へへっ、
おめぇと明彦はな、血を分けた実の兄弟だってぇことよ」 

(え……ええっ?!)

 瞬間、祐二の周りから全ての景色と物音が消えた。
 ただ、秋本のネチネチとした言葉だけが妙に鮮明に鼓膜を通る。

「俺はてっきり、おめぇもまんまと豪田家に取り入って、とっくに甘い汁を吸ってるもんだとばかり思っていたが、まあ仕掛けはこれからだぁな」

「な、何を言ってるのか、僕には全然分からない……」
 あまりの衝撃に祐二の思考は混乱する。

「それにしても、それなら何で奥方が俺んところへ知らせに来た?はは~ん、あの奥方も、まだおめぇ達が実の兄弟なのを知らねえのか」

「だから何の話だって聞いてるんだ!僕とアキ兄ちゃんが兄弟?何だよそれ!」

「そう言や、おめぇにはろくすっぽ母親の話をした事がなかったっけな。
俺が静枝と一緒になった時、くっ付いて来たのが父無し子だった明彦だってぇ訳よ。
あいつはちいせい時から生意気でよぉ、可愛げのねえ奴だったぜ。
そのうち俺の子が出来てな、それが祐二、おめぇだぁな」


(嫌だ!聞きたくない!)


 それは祐二と明彦の今までの関係を足元から崩し去る、重大な事実だった。

「静枝は滅多にねえ上玉だったが、おめぇを産んで直ぐにくたばっちまいやがったぜ。
それで厄介者の明彦は直ぐにあの施設の前に捨てちまったが、さすがに自分の血を引くおめぇの事はそう簡単にも行かなくてよぉ、手元に残して育ててやった。苦労したぜ? 
へへっ、少しはおめぇもありがたく思えや」

「結局、捨てたじゃないか」 

「まあ、色々と都合も有ったからよぉ、俺だってずいぶん迷ったんだ、へっ、分かってくれや」

「そうか……やっと分かったよ……なぜあんたが、あの時になって突然僕を引き取りに来たのか……
僕はずっとそれが分からなかった。ずっとずっと、それが不思議でならなかった。
あんたはアキ兄ちゃんが豪田家に引き取られたのを知って、それで紛いなりにも同じ母を持つ僕の方にも何か役得が生じるんじゃないかと思い付いて、それで急に僕の事を引き取る気になったんだ」

「おおっと、それは違うぜ、順番が逆だ。
明彦の事を豪田に知らせてやったのが俺だ。
俺が知らせてやんなきゃよ、明彦は豪田の御曹司様にはなれなかったって言うことよ」

「え?」

「静枝はよぉ、いくら俺が責めても決して明彦の父親の事はしゃべらなかった。
ところがある時、静枝が死んでからずいぶん経ってからの事だったが、ひょんな事から静枝が俺と出会う前、豪田家の女中をしていた事が分かったんだ。
俺がな、これはもしかするとって探りを入れて見たらな、丁度その頃、腹ん中に明彦がいた事が分かったんだ。それに当時、静枝と豪田がいい仲だった事もな。
へへっ、それで早速豪田に知らせてやったんだ、あなた様のお息子様がいらっしゃいますよ!ってな。
それで豪田も慌てて色々と調べたって訳だ」


──今更のように理解できる数々の出来事。

 豪田家のから突然降って湧いた明彦の養子縁組。
 その後しばらくして、突然祐二を引き取りに来た秋本。 

 秋本は親としての情愛をまるで見せず、むしろ祐二を邪魔にして虐待していた。
 なぜ、何のために秋本は祐二を引き取ったのか?
 そして秋本は、なぜか働きもしないのに金回りだけは良かった。

──長い間わだかまっていた多くの疑問も、今なら容易に辻褄が合う。


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