116 / 121
四章 果て無き雲の彼方へ
No,96 藤代の諫言①
しおりを挟む重く深刻な気持ちを引きずりながらも、とにかく明彦は豪田の家に戻って来た。
確固たる決意を固め、そして精一杯の勇気を振り絞り、広い邸宅の門前に立つ明彦。
──それはこれからの二人の為に、一度は必ずくぐり抜けなければならない門であった。
耕造から突然告げられた、あまりにも衝撃的な真実。
──我を失い取り乱し、夢中で家を飛び出してよりまだ数時間しか経ってはいない。
しかしわずかとは言え冷却時間を置いた今なら明彦も、そして耕造も先程よりは冷静に話し合う事も可能だろう。
明彦は握りこぶしで気を引き締めて、今しっかりと門をくぐった。
「明彦さん、お待ち致しておりました」
「藤代さん?」
広い玄関ホールに入ってみると、そこには待ちかねたように藤代が立っていた。
「社長がお倒れになりました 」
「え?何ですって!」
明彦は思わぬ事態に目を見開く。
「貴方と口論になり、貴方がお出掛けになってより直ぐ、以前より主治医から注意を受けていた血圧に異常をきたし、即刻日東医大病院に入院なさいました」
「藤代さん、そ、それで父の具合は?!」
「ご心配には及びません。手当が迅速だった事も幸いし、お命に別状は無いと言う事です」
「そうですか……」
耕造との対決を覚悟して戻って来ただけに、事の思わぬ展開にどう対処すべきか戸惑う明彦だった。
何より耕造が倒れたと聞き、意外にも不安に駆られる自分を知った。
(やはり父親なんだな……)
確かに、血は水よりも濃いのかも知れない。
「明彦さん、実は貴方に対し、社長より言付かった重要なお話があるのです。私はそれをお伝えするために病院からこちらに戻り、貴方のお帰りをお待ちしていたのです」
「それより、僕も病院へ駆け付けなければならないのではありませんか?」
思いもしない発言に自分自身が驚いた。
(俺は、あの人を心配しているのか?)
「社長が貴方に求めているのはまず第一に、これから話す内容を重く受け止め、冷静に考えて欲しい、と言う事なのです」
「父と僕の、親子関係の事ですね」
「はい、お聞きしました。社長から何もかも全てを」
「藤代さん、あなたは知っていたのですか?
その……豪田が僕の実の父親だという事実を」
「知りませんでした、私はつい先程まで何も聞かされてはおりませんでしたから。
が、当時、突然降って湧いた養子縁組があまりにも唐突だったものですから、正直これは訳有りか?とは感じておりましたが……」
「そうでしたか。藤代さんも真実は聞かされてはいなかったのですね」
「今回社長から全ての事情をお聞きして、あらゆる事に合点が行きました。
私はそれをこれから何もかも全て、貴方にお伝えしなければなりません」
「藤代さん、この期に及んで他に一体どんな話が有ると言うのですか?」
明彦の脳裏に少々怪訝な思いが走り抜ける。
「社長のお話しにはまだ重大な続きが有ったのです。
ところが貴方は感情を昂ぶらせ、お話しの途中で飛び出しておしまいになった。
社長はお倒れになった直後に私を呼び出し、その全ての事情を貴方にお伝えするよう、私に託されたのです」
「僕を産んだ、母の事でしょうか?」
「はい、その事も後でお話し致しますが……その、まず第一に社長がご心配なのは……
大変申し上げ難いのですが」
「祐二の事ですね!」
瞬間、明彦の全身が激情に燃える。
「それなら藤代さん!たとえあなたが何を言おうと僕の決心は変わらない!
あの人は絶対に祐二を認めようとはしなかった!
藤代さんも知っている通り、祐二のあの過去ゆえに……」
「明彦さんそれは違います!
そう言う話ではないのです!」
「藤代さん!」
藤代は意を決した。
一気に言い放つ──
「分かりました、率直に言いましょう、貴方と祐二さんは兄弟なのです!
同じ母親の血を分けた、実の兄弟なのです!」
一瞬思考が止まり、呆然と立ち尽くす明彦。
(な、何を言ってる?)
そのあまりに突飛な内容ゆえに、明彦には到底、藤代の言葉の意味を解する事が出来ない。
「私が病院に駆け付けた時、社長には奥様が付き添っておられました。社長は奥様と私の前で、この事実を全てお話になったのです」
17
あなたにおすすめの小説
【完結】禁断の忠誠
海野雫
BL
王太子暗殺を阻止したのは、ひとりの宦官だった――。
蒼嶺国――龍の血を継ぐ王家が治めるこの国は、今まさに権力の渦中にあった。
病に伏す国王、その隙を狙う宰相派の野心。玉座をめぐる見えぬ刃は、王太子・景耀の命を狙っていた。
そんな宮廷に、一人の宦官・凌雪が送り込まれる。
幼い頃に売られ、冷たい石造りの宮殿で静かに生きてきた彼は、ひっそりとその才覚を磨き続けてきた。
ある夜、王太子を狙った毒杯の罠をいち早く見破り、自ら命を賭してそれを阻止する。
その行動をきっかけに、二人の運命の歯車が大きく動き始める――。
宰相派の陰謀、王家に渦巻く疑念と忠誠、そして宮廷の奥深くに潜む暗殺の影。
互いを信じきれないまま始まった二人の主従関係は、やがて禁じられた想いと忠誠のはざまで揺れ動いていく。
己を捨てて殿下を守ろうとする凌雪と、玉座を背負う者として冷徹であろうとする景耀。
宮廷を覆う陰謀の嵐の中で、二人が交わした契約は――果たして主従のものか、それとも……。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
OUTSIDER
TERRA
BL
何故、僕らは出逢ってしまったんだろう。
裏社会の片隅で始まった、決して結ばれてはいけない二人の同居生活。
それぞれの思惑とは裏腹に、無慈悲に交差していく物語。
これは、孤独な世界で出逢った男達の抗えない愛の物語。
■一話完結日常編ほのぼのパートと少しシリアスな本編があります。数組のカップリングがあるので章のタイトルに載っているお好みのカップリングから読んでみてください。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる