39 / 42
(39) 電気羊の夢(4)
しおりを挟む結日るるという娘は魅力的だった。ゲンコは、はじめてふれる文化的ショックがあったとはいえ、たしかに彼女に夢中だった。
ウィッグであるというのには、早い段階で気づいていた。というか、経験上だてに変装だのは見なれていて、あまり慣れないらしいるるくらいのものだったら一目瞭然である。
派手な子だとは思わない。
眼はカラーコンタクトと推測できる。
変装しているのだ。まだ、聞いてはいなかったが、彼女といると楽しかった。毎回、聞くのを忘れるのだ。といって、三回、四回しか本格的に遊んでいない。会った回数だけなら七、八回。
忘れられないのは二回目に遊んだとき、白熱した格闘ゲーム、きゃあきゃあとガラにもなく騒いだ、シューティングゲーム。ろくなスコアも出ないことにおおげさに落胆するのが、なにかとても楽しい。
おたがいにいいやつとか、いい子とは言うほど思っていなかったはずだ。いや、ゲンコは、惚れこんでいるのと同じだったから自省してもそんなふうには思っていただろう。
そもそもゲンコには遊んでいるような余裕はない。特殊行方不明指定者の探索は、先の見えない現象にふりまわされ、少しでもあやしい可能性は探らねばならず、ゲンコが若く向こう見ずでいられるところがなければ頓挫している。
とはいえゲンコの影響など微力で、十割で語るのなら九割八分まではすべてグリニザという組織がやっている。この点に関しては他組織に膝を折ろうがやっている。
ゲンコ自身が必死であることなど、大した問題ではなかった。なんなら気を向けずにすむよう配慮までされる側だ。
そのことにあぐらをかいていてはいけない、などと考える隙もないほどにそれはそうだ。
自分は子供だ。どうにもならないし、それはいい。だが、たまに口をついて出るのは、自分に言い聞かせているところはあった。人が思う以上にゲンコ・オブライアンという少女は青臭い。
その未熟さが現実逃避と、るるという少女への懸想めいた感情を生んでいた。いいわけをするのならそんなところで、そも、言い訳にはなっていない。
多忙であり、疲弊するのには慣れていて、多忙も多忙、疲弊を疲弊とも思っていない。
そのなかでゲンコの脳に一種のハイである部分が生まれていた。彼女は疲れきっていたのだ。
だれしもが努力してそうであることにゲンコ自身、気づいていた。そして、若いということはわかってほしい、忘れたいという反動を生じさせ、それらを通りこしてすこし頭がおかしい部分になっていた。
その部分に、るるという少女とすごすゲームセンターでの時間というやつがすべりこんだかたちだった。
ゲンコは恋をしていた。その恋は、しょせん頭がおかしいのでまともな感情として成立していなかった。
いつか彼女が大人になったときに気づくだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
異世界で農業を -異世界編-
半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。
そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる