5 / 66
第一章 転生
4 王太子とお茶会
しおりを挟む
☆
「よく来てくれたね、モモ」
「今日、お目にかかれるのを楽しみにしていましたわ」
おれはモモじゃないけど、今はモモになりきっている。
それにしても、王子様は美しい。
黄金の髪に瞳まで黄金で、まるで甘い蜂蜜を纏っているようだ。
ふんわり柔らかそうな髪は、背中まであり真っ直ぐでお行儀良く揃っている。きちんと手入れされた髪だ。顔立ちもくっきりしていて、薄い唇はビスクドールみたいだ。
それを言ったら、モモもおれもビスクドールみたいだ。いつも人形のように美しいと言われている。
今日のアスビラシオン様は、お洒落なブラウスシャツにラフなズボンを履いている。
靴はピカピカで、とてもお上品だ。
「16歳になったお誕生会を開いてないのを思い出したんだ」
「ええ、無事に16歳を迎えることができました。春から王立学校に2年通います」
「そのままお嫁に来てもいいのだよ。礼儀作法もきちんと学んでいるようだし、母もモモのことを娘のように思っているようだから」
「いえ、まだまだ未熟者ですので、もっと勉強して参ります」
おれは美しく見えるように微笑んだ。
すると、王子も眩しい微笑みを向けてきた。
まったく、心臓に悪い。同性だと分かっていても、あまりに美しすぎて、ドキドキが止まらない。
「お誕生日祝いを用意したんだ。受け取ってもらえるかな?」
「気を遣わなくてもいいのですよ。わたしと殿下とは婚約者でございますので」
「婚約者の誕生日を祝わない王子は、恥でしかないだろう。そうは思わないか?愛情を疑われてしまうのではないか?」
「わたしは殿下を信じておりますので、品物がなくても、こうしてお目にかかるだけでも、十分に幸せでございます」
「可愛い事を……」
王宮に到着したおれは、応接室に招かれた。
森が描かれた絵画に、大きな花瓶には、深紅の薔薇が生けられている。
王太子殿下の従者が一人、確かラウという名だと思う。モモが想い続けている騎士が、入り口に置物のように立っているが、身動き一つもしないので、その存在も忘れてしまう。
座り心地のいいソファーに並んで座り、テーブルの上には、チョコレートと紅茶が置かれている。
殿下はソファーの後ろに隠していた四角い箱を取り出して、その蓋を開けた。
「まあ、とても美しいですわ」
それは、おれの瞳と同じ色をした宝石、アメジストのネックレスだった。
「これを付けていいだろうか?」
「こんな高価なものを、ありがとうございます」
殿下は箱からネックレスを取り出すと、おれの首にそれを器用に付けた。
長い髪を持ち上げられたとき、首に殿下の手が触れて、ドキドキと胸が騒いだ。
「後は、リボンだ。私の印章が刺繍されている。付けてもいいか?」
「はい」
殿下は手櫛で髪を梳くと、髪をハーフアップにしてそこにリボンで結んだ。
ラベンダー色のリボンは、きっと瞳の色とお揃いにしたのだろう。
「美しい」
「ありがとうございます」
殿下はクッションの下から手鏡を取りだして、おれに手渡した。
ゴールドのチェーンに、綺麗な一粒のアメジストが輝いている。大きすぎず、そして小さすぎない。ちょうど似合う大きさで、カットが珍しいのか、キラキラ光る。
リボンは見えないけれど、きっと綺麗なものなのだろう。
モモが貰うべきものをおれが貰ってしまった。微かな罪悪感を抱えながら、嬉しそうに微笑む。
「……好きだ」
頬にキスされて、そのまま抱きしめられる。おれは俯く。
温かな体温に包まれ、幸せなのに、おれには言葉を返すことができない。
モモは殿下のことを好きではない。
でも、おれは殿下の事は、むしろ好きだ。これほどの愛情を受け取った事は、今まで無かったから。正直に言えば嬉しい。
「……わたしも好きです」
言ってはいけない言葉を、うっかり返してしまった。
モモが聞いたら激怒しそうだけど、答えずにいられなかった。
殿下の腕の力が増したような気がする。
「結婚は早めにしよう」
「……はい」
殿下は嬉しそうに微笑んでいる。
「あの、殿下、わたしは……」
「何も言わずにおればいい」
「話を聞かなければ、分からない事もありますわ」
「だが、今日は何も聞きたくはないのだ。そなたも話すのが辛かろう。せっかくの誕生日祝いの席で余計な事を考えるな」
「……はい」
おれは殿下にずいぶん抱きしめられていた。
帰りの馬車に乗るまでに、あと2度ほどキスをされた。
チクチクと疼く罪悪感が、やはり胸を痛ませた。
「よく来てくれたね、モモ」
「今日、お目にかかれるのを楽しみにしていましたわ」
おれはモモじゃないけど、今はモモになりきっている。
それにしても、王子様は美しい。
黄金の髪に瞳まで黄金で、まるで甘い蜂蜜を纏っているようだ。
ふんわり柔らかそうな髪は、背中まであり真っ直ぐでお行儀良く揃っている。きちんと手入れされた髪だ。顔立ちもくっきりしていて、薄い唇はビスクドールみたいだ。
それを言ったら、モモもおれもビスクドールみたいだ。いつも人形のように美しいと言われている。
今日のアスビラシオン様は、お洒落なブラウスシャツにラフなズボンを履いている。
靴はピカピカで、とてもお上品だ。
「16歳になったお誕生会を開いてないのを思い出したんだ」
「ええ、無事に16歳を迎えることができました。春から王立学校に2年通います」
「そのままお嫁に来てもいいのだよ。礼儀作法もきちんと学んでいるようだし、母もモモのことを娘のように思っているようだから」
「いえ、まだまだ未熟者ですので、もっと勉強して参ります」
おれは美しく見えるように微笑んだ。
すると、王子も眩しい微笑みを向けてきた。
まったく、心臓に悪い。同性だと分かっていても、あまりに美しすぎて、ドキドキが止まらない。
「お誕生日祝いを用意したんだ。受け取ってもらえるかな?」
「気を遣わなくてもいいのですよ。わたしと殿下とは婚約者でございますので」
「婚約者の誕生日を祝わない王子は、恥でしかないだろう。そうは思わないか?愛情を疑われてしまうのではないか?」
「わたしは殿下を信じておりますので、品物がなくても、こうしてお目にかかるだけでも、十分に幸せでございます」
「可愛い事を……」
王宮に到着したおれは、応接室に招かれた。
森が描かれた絵画に、大きな花瓶には、深紅の薔薇が生けられている。
王太子殿下の従者が一人、確かラウという名だと思う。モモが想い続けている騎士が、入り口に置物のように立っているが、身動き一つもしないので、その存在も忘れてしまう。
座り心地のいいソファーに並んで座り、テーブルの上には、チョコレートと紅茶が置かれている。
殿下はソファーの後ろに隠していた四角い箱を取り出して、その蓋を開けた。
「まあ、とても美しいですわ」
それは、おれの瞳と同じ色をした宝石、アメジストのネックレスだった。
「これを付けていいだろうか?」
「こんな高価なものを、ありがとうございます」
殿下は箱からネックレスを取り出すと、おれの首にそれを器用に付けた。
長い髪を持ち上げられたとき、首に殿下の手が触れて、ドキドキと胸が騒いだ。
「後は、リボンだ。私の印章が刺繍されている。付けてもいいか?」
「はい」
殿下は手櫛で髪を梳くと、髪をハーフアップにしてそこにリボンで結んだ。
ラベンダー色のリボンは、きっと瞳の色とお揃いにしたのだろう。
「美しい」
「ありがとうございます」
殿下はクッションの下から手鏡を取りだして、おれに手渡した。
ゴールドのチェーンに、綺麗な一粒のアメジストが輝いている。大きすぎず、そして小さすぎない。ちょうど似合う大きさで、カットが珍しいのか、キラキラ光る。
リボンは見えないけれど、きっと綺麗なものなのだろう。
モモが貰うべきものをおれが貰ってしまった。微かな罪悪感を抱えながら、嬉しそうに微笑む。
「……好きだ」
頬にキスされて、そのまま抱きしめられる。おれは俯く。
温かな体温に包まれ、幸せなのに、おれには言葉を返すことができない。
モモは殿下のことを好きではない。
でも、おれは殿下の事は、むしろ好きだ。これほどの愛情を受け取った事は、今まで無かったから。正直に言えば嬉しい。
「……わたしも好きです」
言ってはいけない言葉を、うっかり返してしまった。
モモが聞いたら激怒しそうだけど、答えずにいられなかった。
殿下の腕の力が増したような気がする。
「結婚は早めにしよう」
「……はい」
殿下は嬉しそうに微笑んでいる。
「あの、殿下、わたしは……」
「何も言わずにおればいい」
「話を聞かなければ、分からない事もありますわ」
「だが、今日は何も聞きたくはないのだ。そなたも話すのが辛かろう。せっかくの誕生日祝いの席で余計な事を考えるな」
「……はい」
おれは殿下にずいぶん抱きしめられていた。
帰りの馬車に乗るまでに、あと2度ほどキスをされた。
チクチクと疼く罪悪感が、やはり胸を痛ませた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる