素敵な洋服を作りたい

大羽月菜

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 その日は十時開店を目指して、普段はあまり行くことが少ない、割と大き目の目的のショッピングモールへ向かった。うちから程よい距離にあり、自転車で行けるのが幸いだった。平日だと言うのに開店前の入り口には、短い列が出来ていた。年齢層が若い女性が多いことから、皆、『Apple tea』へ向かうのだと思う。中には四十代くらいの女性の姿も見られた。大幅な年代の方から大きな支持を得ているそうだから、彼女らも深山ゆきさんコラボ目当てかもしれない。

(多分、無理だろうな)

 もし買えなくても、昨日貰った注文書がある。あの会場に出向いた人しかもらえない、特別な注文書。そう、考えると昨日のイベントは出向いた甲斐があったというものだ。
 開店すると、自動ドアが解錠された。皆、一気に同じ方向へ向かう。そして走りだす。無理だと諦め、歩みを緩めた。Mサイズ、Lサイズ、各サイズ十着しかないと聞いていた。オンラインショップでの販売もある。けれども一早く皆、欲しいのだろう。すっかり私は怖気ついてしまった。エスカレーターを皆、走って行く。なかなかのルール違反だ。私はゆっくりエスカレーターに乗り、二階へ到着するのを待った。すぐに靴屋があり、開店直後なので、各店舗のスタッフが通路へ出て「いらっしゃいませ」と言っている。隣のアクセサリーショップも同じだった。お客さんはどちらもまだ、入っていなかった。これから入って来るだろう。

『Apple tea』は違った。既にここだけ人だかり。買えないのはもう、目に見えた。諦めかけたとき、スタッフさんが整理券を配っていた。淡いベージュ色のカットソーに、水色のAラインのスカートがお洒落だ。綺麗に、カラーリングされた茶色のソバージュのヘアスタイル。こんな時でも落ち着いて対応出来ている。店内はピンクベージュの外観で、春らしい、白、水色、ピンクと言ったパステルカラー色で溢れていた。チューリップの色合いみたいで可愛らしく、乙女心をくすぐる。黒や茶色と言った色まであり、様々な年代の女性方に愛されているアパレルブランドだと、改めて分かった。
何人か貰えずに踵を返していた。これはもう、ダメだろうと諦め、歩みを緩めた。折角来たのだから、他の商品を見るだけ見ていこうと決めていた。

「いらっしゃいませ。深山ゆきさんのワンピースをお求めですか?」

 リブスカートを穿いた、ボブカット頭で綺麗にカラーリングされた可愛らしい雰囲気の別のスタッフさんが、笑顔で話しかけてきた。

「あ、はい」

「Mサイズ、Lサイズ、どちらをお求めですか?」

「Lサイズです」

 そう言うとそのスタッフさんは「良かったです」と、笑顔で私に整理券を手渡してくれた。

「これで最後になります」

『10』と書かれた番号札を受け取った。ほとんどの人がMサイズをお求めだった。先ほど諦めて引き返した人達は、細身の人ばかりだった。

「ありがとうございます」

 それを受け取り、安堵を覚える。こんな人気の中、今日中に手に入れられるのは奇跡に近い。カットソーやカーディガンがハンガーにかけられている洋服の中に、深山ゆきさんのコーナーがあり、そこにあのワンピースが一着だけあった。それを手に取り、試着室へは行かず、レジへ行く。試着室も昨日程ではないけれど、列が出来ていた。予想どおり先着二十名様までだ。

「ご試着なさいますか?」

 先ほど、整理券を下さったスタッフさんに話しかけられ「いえ」と、ごもりながらも、かぶりを振った。

「これ下さい。あと他にも色々見てもいいですか?」

「勿論です。ではこちらの商品をお預かりしておきますね」

 愛想の良い、素敵な笑顔で対応してくれた。
 買わなくても見るだけなら、無料だ。どんなものが流行しているか、把握したかった。服飾関係の大学に行きたいと、小さな決心をしたばかり。尚更今、どんなデザインが多くの方に支持を得ているのか、知りたかった。
マネキンが着ていた、ブルーのギンガムチェックのスカートに惹かれた。ティアード切り替えが立体的なシルエットだった。値段を確認すると三九八〇円。姉にお小遣いをもらったばかりとはいえ、やっぱり今の私には痛い出費だった。けれども世間では、『プチプラ』の域に入るだろう。色々、物色して回った。やっぱり春色のカラーが可愛くて、薄い桃色のカーディガンなど目に入る。私には似合わない色だから、見るだけにしておく。
 あまり長居するのも嫌なので、レジのほうへ進んだ。

「先ほどのワンピースを下さい」

 覚悟を決めて、財布を出す。

「はい、こちらの商品でございますね」

 ショートカットの二十歳前後の若いスタッフさんが、ワンピースを綺麗に畳んで用意してくれていた。
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