素敵な洋服を作りたい

大羽月菜

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威圧的な人

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 昼食の時間。二年生の頃までは教室内は喧騒に包まれていたが、何故か三年生になってから一変していた。問題集や参考書を見ながら食べている男子が増えた。とはいっても、他のクラスへ行ってそこのクラスの友達と食べる人もいる。他のクラスからも、ここの教室へ来て食べている人もいた。少数だけど、一人で食べている人もいる。私も一人で食べる派だった。数人で一緒に食べている女子らは、恋愛やお洒落の話で盛り上がっていた。そこはちょっと羨ましく感じた。私もお行儀が悪いと思いつつも、先ほどの英語の参考書を目で眺めながら、食べることにする。こうすると気が楽だった。英語の長文問題がやっぱり苦手で頭を悩ませる。母が作ってくれた、鶏の胸ひき肉を使ったつくねが、てりやきソースが絡まっていて美味しい。副菜のジャガイモはレンジで火を通してから、油で少し炒めて調理をしているので比較的、ヘルシーだ。弁当に玄米と白米の混ぜて炊いたご飯は、やはり合わない。白米のほうが美味しいと思ったけれど、そこは減塩タイプのふりかけで誤魔化せた。食べ終わって、最後に紙パックのお茶で喉を潤わせていると「ちょっといい?」と、池田さんと大林さんに声を掛けられた。二人そろって私に話しかけて来るなんて、ないことだ。胸の中がぞわっとした。

「何?」

 ついつい怪訝な声が漏れてしまう。一番関わりたくない人に話しかけられるというのは、不快感が大きく募る。決していい話をする訳ではない雰囲気が漂っている。

「ちょっと来てくれる?」

 私はそれについては拒否した。

「私も忙しいから、ここでどうぞ」

 頑固になり、そこは譲らないつもりだった。ドモらずスラスラ言えたのが、不思議なくらいだった。しかし神妙な顔つきで言う。今の今まで高校に入ってから三年間、私に話しかけてきたことはなかったのに、どういう風の吹き回しだろうか。

「大事な話なんだ」

 大林さんが言った。一体私なんかに、何をそんなに真剣な話があるのだろう。ここは折れるしかなかった。

「良いけど、なるべく手短にお願いします」

 私の最大の力を振り絞った抵抗だった。あんたなんかと関わりたくないんだ。と、言いたげに。
 昼休み真っただ中。向かった先は、校庭だった。早く食べ終わった生徒らが、校庭に出て何やら雑談している姿が見受けられた。春なのに日差しが暑い中、ウンザリした。

「ねぇ、久保田君と付き合ってるの?」

 池田さんが憎しみを込めた眼差しを向けてきた。

「は?」

 意味が分からず、声を尖らせた。何故そうなるのだろう。

「付き合ってないよ? 私みたいなのを、久保田君みたいなイケメン男子が相手にするわけないでしょう。それに私、男の子と付き合ったりすることに、興味ないし」

 最後のほうは小声になった。自分でもそれが何故なのか、分からなかった。けれども大きな誤解を抱いていることに対し、誤解を解かなければならない。

「嘘! だって駅前のアウトレットモールの前で、春休みに朝早く、二人とも体操服姿で話してたじゃん」

 池田さんは顔が真っ赤だった。不満げな大きな呟きに驚いた。私は困った顔をして、頭をポリポリと掻く。たかがそれだけで付き合っていると思われたら、たまったものじゃない。でも春休みに二人で会って話してたら、そう受け止められても仕方がないのかもしれない。

「違う。偶然会っただけ。付き合ってないから。本当に!」

 学校であまり大声を出したことがない私は、これかというくらい大声を出してしまった。チラホラと他の生徒がこちらを見ている。

「じゃぁ、何よ、その顔とか」

 何かを挑んでいるかのように見える大林さんが、真っすぐな視線を向け、横から口を挟む。意味が分からず「え?」と返した。

「だって、急に綺麗になったりして、何かあるんでしょ。前より痩せたし。久保田君と付き合ってるからでしょ」

 耳を疑った。なかなかこの二人は思い込みが激しいようだ。子供みたいで、呆れ果てた。とにかくこの二人は、久保田君に勝手に恋慕していると見た。それは前々から気がついていた。
「私が痩せたのは、デザイナーを目指してるから!」
 強い口調で反論した。二人とも口を合わせて「デザイナー?」と目を丸くする。

「そう。私は服のデザイナーの仕事に就きたい」

 もう、言ってしまおう。私みたいな冴えない容姿の者が目指す職業ではないのかもしれない。ある時服が好きになって、流行の服が作りたい。皆に喜んでもらえるような。そして、サイズのことで悩んでいる人のためにも、着られる服を作ったあげたい。そんな気持ちがあふれ出して止まらないから。

「何、バカなこと言ってるの? だって薬学部受けるんでしょ」

 池田さんがまた、滅茶苦茶なこという。誰がいつ、そんなことを言ったのだろうか。なんという、こじつけだろう。
「受けないよ!」

「は?」

 大林さんと池田さんが口を揃える。私は続ける。

「何でそんな話になってるのか知らないけど、受けないから。受けるつもりないから」

 これ以上、どうも反論が出来ない。そんなでまかせ、誰が言ったのだろうか。心辺りが全くなかった。言い返そうとすると、突然大林さんに胸ぐらを掴まれた。初めての出来事で、言葉を失った。恐怖にさいなまれる。いきさつも掴めないまま、頭がパニックになりそうだ。

「ちょっ、やめ……」

 抵抗しようものにも、言葉が上手く発せられなかった。どうしよう、困った。そんなことを思っていると「やめなよ!」と、声が聞こえた。岩田さんと笹村さんの声だった。

「何よ、あんた達」

 パッと大林さんは私を離した。首が苦しくて大きく深呼吸した。眩暈がしそうだ。

「やめなって言ってるの!」

 何故か笹村さんが大声をあげる。全て想定外の出来事に言葉を失った。彼女らが私を助けてくれたことにも、不思議だった。

「あんたら、私達とつるんでいっつもこの子の悪口言ってたくせに、今更何でこの子の肩持つのよ!」

 池田さんが言う。やっぱりそういうことだったのか。私は笹村さんや岩田さんにも嫌われていた。節々、感じていた。四人で私を嘲笑っていたこともあった。けれども笹村さんも岩田さんも、私に直接意地悪をしたことはなかった。陰では色々言っていただろう。池田さんや大林さんに便乗して。

「だけどさ、何も、和田さん悪いことしてないでしょ。もうやめな。中学からの延長のいじめみたいじゃん。理由がないのにいじめてどうなの。それを私達は気がついた」

 今度は笹村さんが続けた。大林さんがキッ! と私を睨みつけて、また胸ぐらを軽く掴もうと私の胸元のブラウスを掴もうとした時だった。大林さんのその腕をがっしり掴む腕が見えた。

「久保田君……」
 池田さんが呆けた顔で言う。久保田君は息を切らしていた。凄い顔で、池田さんと大林さんに咎めるような視線を投げた。

「やめろ!」

 思いっきり怒りがこもった声だった。久保田君は大林さんの腕を物凄い勢いで、ふりほどいた。呆然として久保田君を眺めている。

「おまえら、いい加減にしろ」

 静かに言い放つ久保田君。私は力が抜けて、へなへなと座り込んだ。笹村さんと岩田さんが大丈夫? と私に寄り添う。私は、黙って頷いた。けれどもありがた迷惑でもあった。私のことを急に陰口を言うのをやめた理由は何だろう。一度、私のことを嘲笑った人をもう一度許せる気にはなれなかった。けれども反発する気力も私はなくて、まだ恐怖感を抱いており、心臓がバクバクと鳴っていた。

「何やってるんだ! お前ら!」

 井口先生がすぐにやってきた。今の様子を見ていた一年生の子と、うちのクラスの生徒が、三年の先生を呼びに行ったらしい。おそらく、一年生の子がさっきの状況を説明してであろう。

「全員、職員室、来い!」

 井口先生の声が響いた。
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